働き方変革 事例集

株式会社クロスファンクショナル:アジャイル型目標設定・評価プロセス導入と自律的な働き方推進で実現した組織の柔軟性とエンゲージメント向上事例

Tags: アジャイル, パフォーマンスマネジメント, 人事評価, エンゲージメント向上, 柔軟な働き方

はじめに

変化の激しい現代において、企業が持続的に成長するためには、組織全体の俊敏性(アジリティ)を高めるとともに、多様な働き方を選択する従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に引き出すことが不可欠です。従来の年間単位での硬直的な目標設定・評価プロセスでは、この変化への対応や個人の自律性支援が難しくなっています。

本記事では、多様な働き方を推進する中で、従来の評価制度が抱える課題を解決するため、アジャイル型の目標設定・評価プロセスを導入し、組織の柔軟性と従業員エンゲージメント向上を実現した株式会社クロスファンクショナル様の事例をご紹介します。同社がどのようにこの変革を進め、どのような課題を克服し、どのような成果を得たのか、その具体的な取り組み内容とプロセスを詳しく見ていきます。

多様な働き方導入の背景・目的

株式会社クロスファンクショナル様(以下、同社)は、ITソリューションを提供する企業として、市場の変化に迅速に対応する必要性を強く認識していました。同時に、従業員の創造性や生産性向上を目指し、リモートワークやフレックスタイム制度といった多様な働き方を積極的に導入・推進していました。

しかし、多様な働き方が浸透するにつれて、以下のような課題が顕在化してきたといいます。

これらの課題を解決し、多様な働き方下でも組織全体の方向性を同期させ、変化に強く、従業員一人ひとりが自律的に高い成果を目指せる組織を作るため、同社は「アジャイル型目標設定・評価プロセス」の導入を決定しました。目的は、「組織の柔軟性向上」「従業員のエンゲージメントと生産性向上」「マネジメントの変革」の3つでした。

具体的な取り組み内容

同社が導入したアジャイル型目標設定・評価プロセスは、主に以下の要素で構成されています。

  1. 四半期サイクルでの目標設定とレビュー:

    • 年間目標ではなく、3ヶ月単位での短いサイクルで目標を設定します。
    • 期初にチームや個人の「注力すべき重要事項」を明確化し、具体的な成果目標(What)と、それを達成するための行動計画や学習目標(How)を設定します。
    • 四半期末には、目標達成度合いだけでなく、プロセスやそこから得られた学びについても振り返りを行います。
  2. 継続的なフィードバックと目標の柔軟な調整:

    • マネージャーとメンバーは、週次または隔週で1on1を実施し、進捗確認、課題共有、および建設的なフィードバックを頻繁に行います。
    • 市場環境やプロジェクト状況に変化があった場合は、柔軟に目標を見直したり、調整したりすることが可能です。目標は固定されたものではなく、常に生きた情報として扱われます。
  3. 評価基準の多様化と透明性の向上:

    • 従来の個人業績目標の達成度に加え、チームへの貢献、組織全体の目標達成への寄与、同社が重視するバリューの体現度、個人の学習・成長といった多角的な視点で評価を行います。
    • 評価プロセスには、上司評価だけでなく、同僚からの360度フィードバックや自己評価も取り入れ、多角的な視点を反映させます。
    • 評価基準やプロセスを従業員に明確に周知し、透明性を高めました。
  4. マネージャーの役割変革とスキルアップ:

    • マネージャーには、目標の達成度を「管理」するだけでなく、メンバーの自律的な目標設定を「支援」し、成長を促す「コーチ」としての役割が強く求められるようになりました。
    • メンバーとの信頼関係構築、傾聴力、効果的なフィードバック方法など、新しいマネジメントスキル習得のための研修プログラムを導入しました。
  5. 目標管理ツールの活用:

    • 目標設定、進捗管理、フィードバックの記録、1on1のアジェンダ管理などを一元化できるクラウドベースの目標管理ツールを導入しました。
    • ツール上で目標や進捗状況を可視化し、チーム内での共有を促進しました。

導入プロセス

同社のアジャイル型目標設定・評価プロセスの導入は、段階的に慎重に進められました。

  1. 構想策定と経営層の巻き込み:

    • 人事部門が中心となり、既存評価制度の課題分析と、アジャイル型プロセスのコンセプト設計を行いました。
    • 経営層に対し、導入の必要性、目的、期待される効果を丁寧に説明し、強いコミットメントを得ました。特に、変化対応力向上と従業員エンゲージメント向上という経営戦略との連動性を強調しました。
  2. パイロット導入と検証:

    • まず、変化への適応力が高く、多様な働き方を実践している一部の部署を対象にパイロット導入を実施しました。
    • 導入期間中に、従業員とマネージャー双方からのフィードバックを頻繁に収集し、プロセスの課題や改善点を特定しました。
  3. ツールの選定と導入:

    • パイロット導入の経験を踏まえ、同社のニーズに合った目標管理ツールを選定しました。使いやすさ、多様な働き方への対応、既存システムとの連携などを重視しました。
    • ツールベンダーと連携し、スムーズな導入と運用体制を構築しました。
  4. 全従業員・マネージャーへの教育と伴走支援:

    • 全従業員に対し、新しい評価制度の目的、仕組み、メリットを説明する全体説明会を実施しました。
    • 特にマネージャーに対しては、目標設定・レビューのスキル、効果的なフィードバック、コーチングスキルに焦点を当てた集中的な研修を行いました。
    • 導入初期は、人事部門の担当者が各部署に入り、目標設定会議や1on1に同席するなど、手厚い伴走支援を行いました。
  5. 継続的な改善(PDCAサイクル):

    • 四半期ごとのレビューで、制度自体の運用状況や課題を常に把握し、必要に応じてプロセスの見直しや改善を行いました。
    • 従業員サーベイや個別インタビューを通じて、現場の声を継続的に収集しました。

推進体制としては、人事部門が全体設計と運用責任を担い、IT部門がツール導入・運用を支援、各部門のマネージャーが現場での実践を推進する体制を構築しました。

直面した課題と、それに対する具体的な解決策

導入プロセスでは、いくつかの課題に直面しましたが、同社は以下のように具体的な解決策を講じました。

導入による効果・成果

アジャイル型目標設定・評価プロセスの導入から1年後、同社では以下のような具体的な効果と成果が見られました。

定性的な変化としては、社内のコミュニケーションがよりオープンになり、特にマネージャーとメンバー間の信頼関係が深まったという声が多く聞かれるようになりました。また、目標設定や評価について部署内で活発に議論されるようになり、組織全体の心理的安全性が高まったと感じる従業員が増えました。

取り組みが成功した要因分析

同社のアジャイル型目標設定・評価プロセス導入が成功した主な要因は以下の通りです。

  1. 経営層の明確なビジョンと強力な推進:
    • 経営層が働き方改革と評価制度改革を一体として捉え、その目的と方向性を明確に打ち出し、全社に浸透させたことが、従業員の納得と協力を得る上で最も重要でした。
  2. 入念な準備と段階的な導入:
    • 現場の課題を丁寧に分析し、パイロット導入で十分な検証を行った上で全社展開したことが、リスクを低減し、スムーズな移行を可能にしました。
  3. 従業員・マネージャーへの手厚い教育と伴走支援:
    • 新しいプロセスへの移行に伴う不安や抵抗に対し、研修や個別サポートを通じてきめ細やかに対応したことが、現場での定着を促しました。特にマネージャーへの投資を惜しまなかったことが、制度効果の最大化に繋がりました。
  4. テクノロジーの適切な活用:
    • 目標管理ツールの導入により、事務負荷を軽減し、目標やフィードバックの可視化・共有を進めたことが、プロセスの円滑な運用に大きく貢献しました。
  5. 継続的なフィードバックと改善のサイクル:
    • 一度導入して終わりではなく、常に現場の声を収集し、プロセスを改善し続けるというアジャイル的なアプローチをとったことが、制度の実効性を高め、変化する状況に常に対応できる基盤となりました。

今後の展望や継続的な取り組み

同社は、アジャイル型目標設定・評価プロセスをさらに洗練させていく計画です。具体的には、評価結果と報酬やキャリアパスとの連携をより明確化すること、マネージャーのコーチングスキルをさらに向上させるための継続的なプログラムを提供すること、そして収集されたデータを活用して組織全体のパフォーマンスやエンゲージメントの向上施策に繋げていくことなどを検討しています。

また、将来的にはAIを活用したフィードバック支援や、目標達成に向けたパーソナライズされた学習コンテンツのレコメンデーションなども視野に入れ、テクノロジーによる支援を深化させていく方針です。

まとめ

株式会社クロスファンクショナル様は、多様な働き方を推進する中で直面した課題に対し、アジャイル型の目標設定・評価プロセスを導入するという戦略的な人事施策で応えました。この取り組みは、単なる評価制度の変更にとどまらず、組織全体の変化対応力向上、従業員の自律性・エンゲージメント向上、そしてマネジメントスタイルの変革といった多岐にわたる成果をもたらしました。

この事例は、多様な働き方が進む現代において、従来の硬直的な人事評価プロセスでは組織の俊敏性や個人の自律性を引き出すことが難しいという事実を示しています。アジャイル型のアプローチを取り入れることで、変化に強く、従業員一人ひとりが活き活きと働く組織を構築できる可能性を示唆していると言えるでしょう。自社の働き方改革を進める人事担当者の皆様にとって、具体的な制度設計や運用、課題解決のヒントとして、本事例がお役に立てれば幸いです。