株式会社キャリア自律支援:選択型働き方制度導入で実現した従業員のキャリア自律促進と組織活性化事例
従業員の主体的なキャリア形成を支援する「選択型働き方制度」とは
多くの企業で多様な働き方の導入が進む中、単に時間や場所の制約を緩和するだけでなく、従業員一人ひとりのキャリア意識の変化に対応し、自律的な成長を支援することの重要性が高まっています。本記事では、株式会社キャリア自律支援が導入した「選択型働き方制度」に焦点を当て、その具体的な取り組み内容、導入プロセス、直面した課題と解決策、そして導入によって得られた効果について詳しくご紹介します。
株式会社キャリア自律支援における多様な働き方導入の背景と目的
株式会社キャリア自律支援は、ITソリューションを提供する従業員数約1,500名の中堅企業です。近年、従業員のキャリアに対する価値観が多様化し、「会社にキャリアを委ねるのではなく、自ら主体的にキャリアを形成したい」という声が高まっていました。一方で、既存のキャリアパスは限定的であり、従業員の成長意欲や社内での活躍機会を十分に提供できていないという課題がありました。
また、業界全体での人材獲得競争が激化する中、優秀な人材の流出を防ぎ、多様なバックグラウンドを持つ人材が意欲的に働き続けられる環境を整備することも急務でした。
このような背景から、同社は「従業員の自律的なキャリア開発を最大限に支援し、個人の成長と組織全体の活性化を両立させる」ことを目的として、新たな働き方制度の導入を検討しました。
具体的な取り組み内容:「選択型働き方制度」の設計
同社が導入した「選択型働き方制度」は、従業員が自身のキャリアプランやライフステージに合わせて、会社が提供する多様な選択肢の中から働き方や学び方を選択・組み合わせることができる制度です。主な内容は以下の通りです。
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社内公募・異動制度の拡充と透明化:
- 全募集ポジションを社内向けに公開し、応募条件や選考プロセスを明確化しました。
- 応募意思表明前に、募集部門の担当者とカジュアル面談ができる機会を設定しました。
- マネージャーは部下からの社内公募応募を積極的に支援することを評価項目に含めました。
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越境学習・自己啓発支援制度のパッケージ化:
- 社外セミナー、研修、書籍購入費用補助を拡充し、申請プロセスを簡略化しました。
- 業務時間内に自己啓発や越境学習に取り組める特別休暇(年間数日付与)を新設しました。
- 希望する従業員には、社外の専門家によるキャリアコンサルティング機会を提供しました。
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兼業・副業制度の柔軟化:
- 社内兼業(他部門のプロジェクトへの参画など)のルールを整備し、推奨しました。
- 社外副業についても、情報漏洩リスクや本来業務への影響を最小限に抑えるための明確なガイドラインを策定した上で、積極的に認められる方針としました。
これらの制度は個別に存在するだけでなく、従業員が自身の「Will」(やりたいこと)に基づいて、複数の選択肢を組み合わせて利用できるよう設計されました。例えば、「将来的に〇〇分野で活躍したい」という目標を持つ従業員が、その分野に関する社外研修への参加(自己啓発支援)、関連部署のプロジェクトへの社内兼業、そしてその分野の専門性を深めるための社外副業を並行して行う、といった利用が想定されています。
導入プロセス:丁寧なコミュニケーションと段階的展開
「選択型働き方制度」の導入は、約1年をかけて慎重に進められました。
まず、人事部門主導でプロジェクトチームを発足させ、現場のマネージャーや従業員代表も巻き込みながら、現在のキャリア制度への従業員の不満や、どのような支援があれば自律的なキャリア形成を後押しできるかについて、全従業員へのアンケートや複数回のワークショップを通じて詳細なニーズ調査を実施しました。
次に、得られたニーズと経営方針を踏まえ、上記のような制度内容を設計しました。特に、マネージャーが部下のキャリア自律を支援する側となるため、マネージャーへの負担増や抵抗感を減らすための工夫が重要と考え、制度設計段階からマネージャー層との対話を重ねました。
制度の具体的な内容が固まった後、全従業員を対象とした説明会を複数回開催し、制度の目的、利用方法、期待される効果について丁寧に説明しました。また、制度に関する疑問や不安を解消するための個別相談窓口を設置しました。
最初の半年間は、一部の部門を対象にパイロット運用を実施し、制度の使いやすさ、想定される課題、マネージャーの関わり方などを検証しました。パイロット運用で得られたフィードバックを基に制度や運用ルールを改善し、全社展開に至りました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
制度導入において、主に以下の課題に直面しました。
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制度の複雑性と従業員の理解浸透: 選択肢が多く、自分のキャリアにどう活かせるかイメージしにくいという声がありました。
- 解決策: 制度全体像と利用例をまとめた分かりやすいハンドブックを作成し、全従業員に配布しました。イントラネットには専用サイトを開設し、FAQや利用体験談を掲載しました。また、月に一度、人事部門が主催する「キャリアカフェ」(自由参加の個別相談会)を実施し、気軽に相談できる場を設けました。
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マネージャーの制度理解不足と支援への抵抗感: 部下が制度を利用すること(特に社外活動)で、チームの業務遂行に支障が出るのではないか、評価が難しくなるのではないかといった懸念を持つマネージャーもいました。
- 解決策: マネージャー向けに「キャリア面談スキル向上研修」を必須化し、部下のキャリアビジョンを傾聴し、制度活用を支援する具体的な方法を学びました。また、マネージャーの評価項目に「部下のキャリア開発支援」を加え、制度利用を後押しすることが評価に繋がる仕組みとしました。
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兼業・副業における労務管理やセキュリティリスク: 特に社外副業を認めるにあたり、労働時間管理や情報セキュリティに関する懸念がありました。
- 解決策: 厳密な申請・承認プロセスを設け、副業先での業務内容や想定される労働時間について詳細な確認を行うようにしました。就業規則における副業に関する条項を明確化し、情報セキュリティに関する定期的な注意喚起と教育を実施しました。また、副業が本業に悪影響を与えないよう、定期的な面談を通じて状況を確認する体制を構築しました。
導入による効果・成果
「選択型働き方制度」の導入から1年が経過し、以下のような効果・成果が見られています。
- 制度利用率の向上: 導入後1年間で、何らかの制度を利用した従業員の割合が導入前のキャリア関連制度利用率と比較して約1.8倍に増加しました。特に、社内公募応募者数は前年比で約1.5倍、自己啓発支援制度の利用者は約2倍となりました。
- 従業員エンゲージメントの向上: 定期的に実施している従業員意識調査において、「自身のキャリア成長機会が十分にあると感じる」という項目の肯定的な回答が、導入前の45%から68%に向上しました。また、エンゲージメントスコア全体も上昇傾向にあります。
- 優秀人材の定着: 特に若手・中堅層の離職率が、制度導入前の平均と比較して約10%低下しました。制度が、自身のキャリアを継続・発展させたいと考える従業員にとって、魅力的な要素となっていることが推測されます。
- 組織内の連携強化: 社内兼業制度の利用者が増加したことにより、部門間の人的交流が増え、これまで連携が少なかった部署間での協力プロジェクトが増加しました。これにより、組織全体の風通しが良くなり、新たなアイデアが生まれやすい土壌が育まれています。
- 生産性の維持・向上: 制度利用者の多くが、自身のキャリア目標達成に向けたモチベーション向上を感じており、それが本業への集中力や効率性向上に繋がっているという定性的な声が多く寄せられています。
取り組みが成功した要因分析
本取り組みが成功した主な要因は以下の3点にあると考えられます。
- 従業員のニーズへの徹底的な寄り添い: 制度設計の段階から従業員の声に耳を傾け、彼らが本当に求めるキャリア支援の形を追求したことが、制度の利用促進に繋がりました。
- マネージャー層への手厚いサポート: 制度導入による影響が大きいマネージャーに対し、研修や個別相談、評価制度への反映といった多角的なサポートを行ったことで、制度運用における現場の抵抗感を軽減し、推進力に変えることができました。
- 継続的なコミュニケーションと改善: 一度導入して終わりではなく、説明会や相談会を継続的に実施し、従業員からのフィードバックを収集して制度や運用方法を柔軟に見直すPDCAサイクルを回したことが、制度の効果を最大化することに繋がっています。
今後の展望
株式会社キャリア自律支援では、今後も「選択型働き方制度」を核として、従業員の自律的なキャリア形成支援を強化していく方針です。今後は、AIを活用したキャリアパスシミュレーションツールの導入や、社外メンター制度の導入など、更なる選択肢の拡充を検討しています。また、制度の利用状況や従業員のキャリアの変化に関するデータをより詳細に分析し、効果測定の精度を高めながら、制度の改善・発展を継続していく予定です。
まとめ
株式会社キャリア自律支援の事例は、単に多様な働き方の選択肢を提供するだけでなく、従業員一人ひとりのキャリア自律を支援することを明確な目的とし、制度設計、コミュニケーション、マネージャー支援、そして継続的な改善を丁寧に行ったことが成功に繋がったことを示しています。従業員のエンゲージメント向上、離職率低下、組織活性化といった具体的な成果は、人事担当者の皆様が自社の働き方改革を検討される上で、従業員のキャリア支援という視点の重要性を示唆していると言えるでしょう。
本事例が、皆様の会社の働き方改革推進の一助となれば幸いです。