株式会社コミュニティリンク:地域連携型多拠点ワーク推進で実現した多様な働き方と企業価値向上事例
はじめに
近年、多様な働き方の選択肢として、場所にとらわれないリモートワークや、複数の拠点を活用する多拠点ワークへの関心が高まっています。特に、都市部に本社を置く企業にとって、地方での雇用創出や地域社会との連携は、企業価値の向上と新たな事業機会の創出にも繋がる可能性を秘めています。
本記事では、地域社会との積極的な連携を通じて多拠点ワークを推進し、多様な人材の活躍と企業全体の活性化を実現した株式会社コミュニティリンクの事例をご紹介いたします。同社がどのように取り組みを進め、どのような課題を克服し、どのような成果を上げたのか、その具体的なプロセスと結果を詳しく見ていきましょう。
多様な働き方導入の背景・目的
株式会社コミュニティリンクでは、多拠点ワークを含む多様な働き方の推進を検討するにあたり、主に以下の課題意識と目的がありました。
- 背景1:採用競争の激化と採用エリアの偏り 本社のある都市部での採用競争が激化しており、優秀な人材の確保が難しくなっていました。また、採用対象が都市圏在住者に偏り、地方に居住する潜在的な優秀な人材にリーチできていない状況でした。
- 背景2:従業員のライフスタイルの多様化 従業員の中から、UターンやIターンを希望する声、親の介護や子育てのために地方への移住を検討する声が増えていました。しかし、従来の働き方ではこれらのニーズに応えることが困難でした。
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背景3:企業としての社会貢献への意識向上 企業として、地方創生や地域活性化への貢献に対する意識が高まっていました。事業活動を通じて社会課題の解決に寄与できる機会を模索していました。
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目的1:採用力強化と優秀な人材の確保 居住地に関わらず、広く優秀な人材を採用できる体制を構築すること。特に地方在住の優秀な人材にアプローチし、新たな採用チャネルを確立することを目指しました。
- 目的2:従業員エンゲージメント・定着率の向上 従業員の多様なライフスタイルやキャリアの希望を尊重し、柔軟な働き方を可能にすることで、従業員満足度とエンゲージメントを高め、離職率の低下につなげること。特にU/Iターン希望者のキャリア継続を支援すること。
- 目的3:企業価値・ブランドイメージの向上 地域社会との連携や貢献活動を通じて、企業イメージを高め、CSR活動の一環として社会からの信頼を得ること。
- 目的4:新たな事業機会の創出 地方におけるネットワーク構築や地域課題への取り組みを通じて、新たな事業のヒントや連携機会を見出すこと。
具体的な取り組み内容
これらの背景と目的を踏まえ、株式会社コミュニティリンクでは、以下のような具体的な取り組みを進めました。
- 地域連携型サテライトオフィス網の構築:
- 複数の地方自治体や地域企業と連携協定を締結し、既存施設(廃校舎活用、遊休オフィススペースなど)を改修・活用したサテライトオフィスを複数拠点開設しました。
- サテライトオフィスは、単なるワークスペースではなく、地域住民や地域企業との交流スペース、イベント開催場所としても機能するように設計しました。
- 多拠点ワーク制度の設計と運用:
- 従業員が自宅、本社オフィス、各サテライトオフィス、特定の承認済みコワーキングスペースなどを柔軟に選択して勤務できる多拠点ワーク制度を導入しました。
- 制度利用のための申請プロセスをオンライン化し、利用規程(利用頻度の上限・下限、費用補助ルールなど)を明確に整備しました。
- 地域に一定期間滞在して働く「ワーケーション」の促進も制度内に含めました。
- 地域交流プログラムの推進:
- サテライトオフィス利用者が地域住民と交流できるイベント(地域の祭りへの参加、特産品フェアなど)を企画・実施しました。
- 従業員が持つスキルや知見を活かして地域課題の解決に貢献するプロボノ活動を奨励・支援する仕組みを設けました。
- 地域の企業や団体との合同勉強会、セミナーなどを開催し、ビジネス面での交流も促進しました。
- ITインフラとセキュリティ対策の強化:
- 全従業員が場所に関わらず円滑に業務を遂行できるよう、高速なVPN環境の整備、クラウドベースの共同作業ツールの導入、Web会議システムの全社展開を行いました。
- 多拠点・リモート環境下での情報漏洩リスクに対応するため、多要素認証の導入、デバイス管理ルールの徹底、従業員向けのセキュリティ研修を定期的に実施しました。
- 人事制度とマネジメント手法の調整:
- 成果を重視する評価制度への移行を段階的に進めました。
- 多拠点・リモート環境での適切な労務管理(勤怠管理、健康管理)のためのガイドラインを作成・周知しました。
- マネージャー向けに、リモートチームマネジメント、オンラインコミュニケーション、成果評価に関する研修を必須で実施しました。
導入プロセス
株式会社コミュニティリンクの多拠点ワーク導入プロセスは、以下のステップで進められました。
- 企画・検討フェーズ(約6ヶ月):
- 経営層直轄のワーキンググループを発足。
- 国内外の先進事例調査、従業員へのアンケート・ヒアリングによるニーズ調査を実施。
- 制度設計の基本方針、候補地域の選定基準を策定。
- 一部の部署で小規模なトライアル実施を計画。
- トライアル実施フェーズ(約4ヶ月):
- 選定された2地域のサテライトオフィス候補地にて、一部の部署・従業員(約50名)が試験的に多拠点ワークを実施。
- 利用実態、ITインフラの課題、地域との連携における課題などを収集・分析。
- トライアル参加者およびそのマネージャーからのフィードバックを収集。
- 本格導入フェーズ(約8ヶ月):
- トライアル結果を基に、制度設計、規程類、IT環境を改善。
- 地域自治体・団体との正式な連携協定を締結し、サテライトオフィスを開設(初期3拠点)。
- 全従業員を対象とした制度説明会、利用ガイドラインの配布、マネージャー向け研修を実施。
- 社内ポータルサイトに多拠点ワークに関する情報集約ページを開設。
- 展開・定着フェーズ(継続中):
- 利用状況や従業員のフィードバックを定期的に収集し、制度や運用方法を継続的に改善。
- 新たな連携地域を順次拡大し、サテライトオフィス網を拡充。
- 地域交流プログラムのバリエーションを増やし、参加を促進。
推進体制としては、人事部門が中心となり、IT部門、総務部門、そして新たに設置された「地域連携推進室」が密に連携しながら進められました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
導入プロセスにおいて、いくつかの課題に直面しました。
- 課題1:地域社会との連携構築と従業員の地域への馴染み方
単に場所を借りるだけでなく、地域住民や地域企業との関係性を構築し、サテライトオフィス利用者が地域に溶け込むための仕組みが不足していました。
- 解決策: 各サテライトオフィスに地域出身者または地域活動に精通した「地域コーディネーター」を配置しました。彼らのサポートにより、地域イベントへの従業員参加を促したり、地域の課題解決に貢献できるプロボノプロジェクトを企画したりしました。また、社内SNSで各地域の魅力や交流イベントの情報を積極的に発信し、従業員の関心を高めました。
- 課題2:多拠点・リモート環境下でのコミュニケーション不足、チームワーク維持
対面での偶発的なコミュニケーションが減少し、チーム内での情報共有や非公式な連携が難しくなる懸念がありました。
- 解決策: Web会議ツールの定例ミーティングでの活用を徹底し、メンバー全員が顔を見て話す機会を増やしました。また、業務以外の雑談や情報交換を目的としたバーチャルコーヒーブレイクタイムを設定したり、社内SNSのオープンチャネル活用を奨励したりしました。半年に一度は全拠点・全従業員が参加するオンライン全社集会を開催し、一体感を醸成しました。加えて、重要なプロジェクトに関しては、定期的に対面でのオフサイトミーティングを実施し、深い議論とチームビルディングの機会を確保しました。
- 課題3:人事評価の公平性確保、労務管理
成果が見えにくい業務の場合や、勤務時間と成果の関連性が低い業務において、多拠点・リモートワーカーを適切に評価すること、また、それぞれの場所での正確な勤怠管理や健康状態の把握が課題となりました。
- 解決策: OKR(Objectives and Key Results)など、成果目標管理の手法を導入し、個人の具体的な貢献度をより明確に評価できるようにしました。また、PCのログ取得なども可能なクラウド型勤怠管理システムを導入し、客観的な勤務実態の把握に努めました。マネージャーに対しては、メンバーの勤務状況や心身の健康状態を把握するための1on1ミーティングの実施を推奨し、そのスキル向上研修を強化しました。
導入による効果・成果
これらの取り組みの結果、株式会社コミュニティリンクでは以下のような具体的な効果や成果が現れています。
- 成果1:採用機会の拡大と地方在住者の採用増 多拠点ワーク制度により、応募者の居住地の制約が大幅に緩和されました。結果として、導入後1年間で応募者数が約20%増加し、特に地方在住者の採用比率が全体の約15%から約30%に向上しました。これにより、多様なバックグラウンドを持つ人材の採用が可能となりました。
- 成果2:従業員満足度・エンゲージメントの向上 年次従業員アンケートの結果、「働き方の柔軟性に関する満足度」が導入前に比べて15ポイント上昇しました。「会社への貢献意欲」や「会社へのロイヤリティ」といったエンゲージメント関連の項目も平均で8ポイント上昇しています。特に、U/Iターンなど居住地の変更を伴う働き方を選択した従業員の離職率は、導入前に比べて約5ポイント低下し、定着率の向上に貢献しています。
- 成果3:企業イメージ・ブランド価値の向上 地域社会との連携や貢献活動がメディアに取り上げられる機会が増え、企業として地域創生に貢献しているというイメージが定着しました。これにより、採用活動における企業ブランディングにも寄与し、学生や転職希望者からの注目度が高まっています。
- 成果4:新たな事業機会の創出 地域課題解決型のプロボノ活動や地域企業との交流から、新たなサービス開発のアイデアが生まれ、現在、複数のプロジェクトが事業化に向けて進行中です。多拠点にいる従業員の知見やネットワークが、思わぬ形で事業の種に繋がっています。
取り組みが成功した要因分析
株式会社コミュニティリンクの多拠点ワーク推進が成功した主な要因として、以下の点が挙げられます。
- 経営層の明確なビジョンと継続的なコミットメント: 多様な働き方、特に地域連携を通じた取り組みに対する経営層の理解が深く、長期的な視点での投資と推進への強い意思が示され続けました。
- 地域社会との丁寧な関係構築: 単なる場所の利用に留まらず、地域住民や自治体、地域企業との相互理解に基づいた協力体制を時間をかけて丁寧に構築したことが、サテライトオフィスの円滑な運営と従業員の地域への適応を支えました。
- 従業員の声に基づいた制度設計と柔軟な運用: 一方的な制度導入ではなく、トライアルやアンケートを通じて従業員のニーズや課題を吸い上げ、制度や運用方法に反映させるプロセスを重視しました。これにより、制度が利用者の実態に即したものとなり、受け入れられやすくなりました。
- テクノロジー活用とマネージャーの育成: 多拠点・リモートワークを支えるITインフラの整備と、それを使いこなすための従業員教育はもちろん、特に離れた場所にいるメンバーをマネジメントするための管理職研修に注力したことが、円滑なチーム運営に不可欠でした。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社コミュニティリンクでは、今後も多拠点ワークと地域連携の取り組みをさらに進化させていく予定です。
- サテライトオフィス網をさらに拡充し、より多様な地域、多様なテーマ(例:農業支援、観光促進など)での連携を深めていく計画です。
- 地域との連携から生まれた事業アイデアを本格的な新規事業として育成し、地域経済への貢献を一層強化していきます。
- 多拠点・リモート環境下での従業員のキャリア自律を支援するため、社内メンター制度やオンライン学習プラットフォームの活用をさらに推進します。
- 従業員が地域活動に貢献する際の評価やインセンティブについて、より明確な仕組みを検討し、地域貢献と個人のキャリア成長を両立できる環境を整備していきます。
まとめ
株式会社コミュニティリンクの事例は、多拠点ワークや地方でのリモートワーク推進が、単に働く場所を増やすだけでなく、採用力強化、従業員エンゲージメント向上、そして企業イメージや新規事業創出といった、企業価値全体の向上に繋がる可能性を示しています。
もちろん、地域社会との連携構築や、離れた場所にいるメンバーのマネジメントなど、乗り越えるべき課題は存在します。しかし、同社が示したように、経営層のコミットメント、丁寧な関係構築、従業員視点での制度設計、そしてテクノロジーとマネジメントスキルの両面からのアプローチを組み合わせることで、これらの課題を克服し、多様な働き方から大きな成果を生み出すことが可能です。
本事例が、多様な働き方の導入・推進を検討されている皆様にとって、実践的なノウハウや課題解決のヒント、そして新たな取り組みの可能性を見出す一助となれば幸いです。