株式会社クロスロード:ハイブリッドワーク導入で直面したコミュニケーション課題を克服し、エンゲージメントを高めた事例
株式会社クロスロード:ハイブリッドワーク導入で直面したコミュニケーション課題を克服し、エンゲージメントを高めた事例
働き方変革の背景と目的
現代において、多くの企業が柔軟な働き方を模索しています。特にコロナ禍を経て、リモートワークが普及し、その後、オフィス出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークを導入する企業が増加しています。しかし、この新しい働き方は、従業員間のコミュニケーションやエンゲージメントの維持・向上という新たな課題を生み出すこともあります。
本記事では、情報通信事業を展開する従業員数約3,000名の株式会社クロスロードが、ハイブリッドワークへの移行に伴い直面したコミュニケーションとエンゲージメントの課題に対し、どのように取り組み、それを克服して成果を上げたのか、その具体的な事例をご紹介します。人事担当者の皆様が、自社のハイブリッドワーク推進やコミュニケーション活性化施策を検討される際の参考となれば幸いです。
株式会社クロスロードでは、コロナ禍収束後も従業員の多様なニーズに応え、生産性維持・向上を図るため、原則週2〜3日の出社を推奨するハイブリッドワーク体制への移行を決定しました。しかし、導入にあたり、「対面での偶発的なコミュニケーションの減少による連携不足」「リモート環境下での従業員の孤立感」「マネージャーの新しいマネジメントスタイルへの不慣れ」といった課題が想定されました。これらの課題が従業員のエンゲージメント低下につながることを懸念し、制度導入と並行して、コミュニケーションとエンゲージメント向上に資する具体的な施策を講じることを目的としました。
具体的な取り組み内容
株式会社クロスロードでは、ハイブリッドワーク環境下でのコミュニケーションとエンゲージメントの課題解決に向け、以下の施策を多角的に実施しました。
1. コミュニケーションツールの徹底活用とルール整備
- 全社チャットツールの標準化と活用促進: 部署横断のオープンチャネル設置、絵文字やスタンプの活用推奨、オンラインでの雑談を促すチャンネル設置など、心理的安全性を高める工夫を行いました。
- Web会議ツールの統一と活用ガイドライン作成: スムーズなオンライン会議実施のため、利用ツールを統一し、画面共有や議事録共有の方法、会議の開始・終了時の声かけなど、基本的なガイドラインを作成・周知しました。
- オンラインホワイトボードツールの導入: アイデア出しや情報共有を視覚的に行うためのツールを導入し、対面時と同様のブレインストーミングやワークショップが可能となる環境を整備しました。
2. オフィス環境の役割再定義と活用促進
- コラボレーションスペースの拡充: 「集まって協働すること」に焦点を当て、従来の個人ワークスペースを減らし、複数名での打ち合わせやチーム作業に適したコラボレーションスペース、Web会議ブースを増加させました。
- 座席予約システムの導入: オフィス出社時の座席予約をシステム化し、目的(集中作業、チーム作業など)に応じた場所を選べるようにしました。これにより、計画的な出社とチームメンバーが集まりやすい環境を支援しました。
- 部署ごとの「出社推奨日」設定(一部試行): 全員が顔を合わせる機会を意図的に設けるため、一部部署で週に一度の「チーム出社日」を設定し、対面でのチームビルディングや情報交換の場を創出しました。
3. マネジメントスタイルの変革支援
- マネージャー向けオンラインマネジメント研修の実施: リモート・ハイブリッド環境下での目標設定、進捗管理、評価、メンバーのメンタルヘルスケアなど、新しいマネジメント手法に関する研修を必須化しました。
- 1on1ミーティングの推奨と質向上: マネージャーと部下の定期的な1on1実施を強く推奨し、その目的(業務進捗だけでなく、キャリアやプライベートの相談も含む)と効果的な進め方に関するガイドラインを提供しました。実施率と満足度をモニタリングしました。
- ピアラーニング・相談会の実施: マネージャー同士がハイブリッドワークでの課題や成功事例を共有し、相互に学び合う場を設定しました。
4. エンゲージメント維持・向上施策
- 定期的なパルスサーベイの実施: 従業員の心理状態、コミュニケーション状況、チーム連携に関する簡易的なサーベイを四半期に一度実施し、リアルタイムな課題把握と施策改善に役立てました。
- オンライン・オフライン融合型社内イベントの企画・実施: 全社総会や部署懇親会などを、オンライン参加とオフライン参加を選択できるハイブリッド形式で開催し、一体感を醸成する機会を創出しました。
- 「シャッフルランチ」制度の導入: 部署や役職を越えたメンバーがランダムに選ばれ、オンラインまたはオフラインでランチを共にする機会を提供し、非公式なコミュニケーションを促進しました。
導入プロセスと直面した課題、解決策
導入プロセス
株式会社クロスロードは、ハイブリッドワーク移行決定後、人事部主導でワーキンググループを発足。IT部門、総務部門、各事業部代表が参画しました。まず、従業員アンケートやマネージャーへのヒアリングを通じて、想定される課題を詳細に洗い出しました。その後、課題解決に向けた施策案を立案し、一部部署でのパイロット実施を経て、全社展開へと進めました。施策導入後も、定期的なパルスサーベイや個別ヒアリングを通じて効果測定と改善を継続しました。
直面した課題と解決策
- 課題1:非公式なコミュニケーションの減少によるチームワークへの懸念
- 具体的な状況: オフィスでの何気ない会話や、休憩室での立ち話といった非公式な交流が減り、チーム内の心理的な距離が生まれるのではないかという懸念が上がりました。
- 解決策: 全社チャットツールの「雑談チャンネル」推奨、オンライン「コーヒーブレイクタイム」の設定、意図的な「シャッフルランチ」制度導入など、非公式な交流を創出する機会と場を意識的に設けました。
- 課題2:マネージャー層のハイブリッド環境下での部下育成・評価への不安
- 具体的な状況: 部下の働く様子が見えづらくなったことで、適正な評価や育成指導が難しくなったと感じるマネージャーが多くいました。
- 解決策: マネージャー向け研修で「成果だけでなくプロセスや貢献度を評価する視点」「オンラインでの部下との信頼関係構築方法」「目標設定時のすり合わせの重要性」などを重点的に扱いました。また、1on1の目的を明確化し、その質の向上を支援しました。
- 課題3:出社者とリモートワーカー間の情報格差や不公平感
- 具体的な状況: オフィスでの会話についていけない、重要な情報が非公式に共有されてしまう、といった声が一部従業員から聞かれました。
- 解決策: 情報共有基盤(社内ポータルやクラウドストレージ)への情報集約を徹底し、オフライン・オンライン問わず全ての情報が平等にアクセスできる環境を整備しました。会議は原則オンライン参加も可能な形式とし、議事録の共有を必須としました。
導入による効果・成果
これらの多角的な取り組みの結果、株式会社クロスロードでは以下のような効果・成果を確認しました。
- 従業員エンゲージメントスコアの向上: 定期的なパルスサーベイにおいて、特に「チーム内の連携」「上司とのコミュニケーション満足度」といった項目で改善が見られ、全体エンゲージメントスコアも導入前のX%からX+5%に向上しました。
- 離職率の抑制: 同業他社で働き方変化に伴う離職が見られる中、同社の離職率は横ばい、または微減傾向となり、柔軟な働き方が人材定着に寄与していることが示唆されました。
- 生産性の維持・向上: 一部部署では、通勤時間削減や柔軟な時間活用により、従業員一人当たりの生産性がX%向上したというデータが得られました。多くの部署で、ハイブリッドワーク移行による顕著な生産性低下は見られませんでした。
- コミュニケーション頻度の増加: 全社チャットツールのアクティブユーザー率やメッセージ数が、導入前に比べてX%増加しました。また、1on1の実施率もX%に達しました。
- オフィスの役割の変化への対応: オフィス出社時の「コラボレーションスペース」の利用率が高まり、オフィスが「集まる場」「交流する場」として従業員に認識されるようになりました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社クロスロードの取り組みが成功した要因は複数あります。第一に、ハイブリッドワークという「形式」の導入にとどまらず、「その中でいかにコミュニケーションとエンゲージメントを維持・向上させるか」という具体的な目的に焦点を当て、多角的な施策を設計・実行した点です。
第二に、経営層がハイブリッドワークとそれに伴う課題に対して強い関心を持ち、従業員へのメッセージ発信や施策への予算・人員確保にコミットしたことです。これにより、現場は安心して新しい取り組みに挑戦できました。
第三に、従業員のフィードバックを定期的に収集し、施策の改善に活かすサイクルを構築したことです。パルスサーベイやヒアリングの結果をもとに、マネージャー研修の内容を調整したり、新しいコミュニケーションツールを試行したりと、現場の声を反映した柔軟な対応が奏功しました。
最後に、マネージャー層への手厚いサポートを提供したことも重要な要因です。新しい働き方への適応に最も負担がかかる可能性のあるマネージャーに対し、研修や相談会、ピアラーニングの機会を提供したことで、組織全体の変化を円滑に進めることができました。
今後の展望
株式会社クロスロードでは、今後も従業員の多様な働き方を支援しつつ、組織のパフォーマンスを最大化するための取り組みを継続していく方針です。具体的には、テクノロジーの進化を取り入れ、より質の高いオンラインコラボレーション環境を追求すること、従業員のキャリア自律を支援するためのオンライン研修プログラムを拡充すること、そして、ワークプレイス戦略をさらに進化させ、オフィスを従業員が「行きたくなる場所」として継続的に改善していくことなどが検討されています。
まとめ
株式会社クロスロードの事例は、ハイブリッドワーク導入がもたらすコミュニケーションやエンゲージメントの課題に対し、具体的なツール活用、オフィス戦略の見直し、マネジメント支援、そして従業員の声に基づく継続的な改善といった多角的なアプローチを講じることで、着実に成果を上げられることを示しています。働き方改革を推進する人事担当者の皆様にとって、本事例が実践的なヒントとなれば幸いです。