株式会社データリンク:データ分析に基づいた働き方改革の効果測定と継続的改善で実現した生産性向上と従業員エンゲージメント向上事例
働き方改革の効果をどう測る?データ分析で客観的な改善サイクルを確立した事例
働き方改革は多くの企業で推進されていますが、その効果をどのように測定し、次の施策に繋げれば良いかという課題に直面することも少なくありません。主観的な意見や一部のデータに偏らず、客観的な根拠に基づいて施策の妥当性を評価し、継続的な改善に結びつけることが重要です。
本記事では、株式会社データリンクがどのようにデータ分析を活用して働き方改革の効果を測定し、組織全体の生産性向上と従業員エンゲージメント向上を実現したのか、その具体的なプロセスと成果をご紹介します。
株式会社データリンクにおける働き方改革導入の背景と目的
株式会社データリンクは、創業以来、従業員の創造性と生産性を重視する社風でしたが、事業拡大に伴い組織規模が拡大し、従来の画一的な働き方や評価制度では、従業員の多様なニーズに応えきれないという課題が顕在化していました。また、リモートワークの普及やフレックスタイム制度の導入は進んでいたものの、各施策の効果が肌感覚では理解できても、それが定量的にどの程度現れているのか、部署やチームによって効果にばらつきはないのかが不明確でした。
このような状況を踏まえ、同社は以下の目的のもと、働き方改革の効果をデータに基づいて可視化し、継続的な改善を行う取り組みを開始しました。
- 働き方改革関連施策の効果を客観的に測定し、投資対効果を明確にする。
- データに基づき、効果の薄い施策や改善が必要な領域を特定する。
- 現場部門や従業員に対し、データに基づいた具体的なフィードバックと改善提案を行い、施策への納得度と参画意識を高める。
- データ分析結果を経営層やマネジメント層と共有し、より戦略的な意思決定を支援する。
- データドリブンなアプローチを組織文化として根付かせ、働きがいのある環境を継続的に追求する。
具体的な取り組み内容:多様なデータの収集と統合分析
株式会社データリンクでは、働き方改革の効果測定のために、複数のシステムに散在する様々なデータを統合し、分析する体制を構築しました。主な取り組み内容は以下の通りです。
-
データソースの特定と統合:
- 勤怠管理システム:労働時間、残業時間、有給休暇取得率、勤務場所(オフィス/リモート)データ。
- 人事システム:従業員属性、異動履歴、評価データ、研修受講履歴。
- エンゲージメントサーベイ:定期的に実施される従業員エンゲージメント、満足度、働きがいに関するデータ。
- プロジェクト管理ツール:タスク完了率、プロジェクト期間、チーム間の連携状況データ。
- コミュニケーションツール:利用状況データ(プライバシーに配慮した形式)。
- その他:健康診断結果(集計データ)、オフィス利用率データなど。 これらのデータをDWH(データウェアハウス)に集約し、連携可能なデータ基盤を構築しました。
-
主要評価指標(KPI)の設定: 収集したデータを基に、働き方改革の目的と紐づく具体的なKPIを設定しました。
- 生産性関連:一人あたり売上高、プロジェクト完了期間、タスク消化率、残業時間削減率。
- エンゲージメント・定着関連:エンゲージメントスコア、eNPS(従業員ネットプロモータースコア)、離職率、有給休暇取得率。
- その他:オフィス出社率、リモートワーク推奨率に対する実績値、研修受講率など。
-
データ分析ツールと専門チームの導入: BIツール(ビジネスインテリジェンスツール)を導入し、非専門家でもデータ可視化や簡易的な分析ができる環境を整備しました。さらに、人事部門内にデータ分析を専門とするチームを設置し、高度な統計分析や多角的な視点からの分析、分析結果に基づく示唆出しを担当させました。
-
分析結果のレポーティングとフィードバック: 定期的に(四半期ごと)主要KPIに関する分析レポートを作成し、経営層、各部門長、そして全従業員に分かりやすい形で共有しました。特に、部署やチームごとの違いを可視化し、それぞれの状況に応じた改善策を検討するための基礎情報として活用しました。従業員向けのレポートは、匿名化された集計データに基づき、全体の傾向や具体的な改善事例を中心に共有しました。
導入プロセス:組織横断的な協力体制の構築
データ分析に基づく効果測定の導入は、単にシステムを入れるだけでなく、組織文化や仕組みを変えるプロセスでした。
- プロジェクトチームの発足: 人事、情報システム、経営企画、そして現場部門の代表者を含むプロジェクトチームを発足させ、必要なデータの特定、システム連携の課題解決、KPI設定、分析レポートの設計などを共同で推進しました。
- 従業員への丁寧な説明: データ収集・活用の目的、プライバシーへの配慮、分析結果がどのように活用されるのかについて、全従業員向けの説明会や社内報、イントラネットを通じて丁寧に説明しました。データの「監視」ではなく「改善のための活用」であることを繰り返し伝え、理解と協力を求めました。
- スモールスタートと段階的な展開: まずは特定の部署や特定の働き方施策に焦点を当ててデータ収集・分析を試行し、そこで得られた知見や課題を全体展開に活かしました。
- マネージャーへの研修: 各部門長やチームリーダーに対し、分析レポートの読み方、データに基づいた部下とのコミュニケーション方法、チームの状況に応じた改善策の立て方などに関する研修を実施しました。
直面した課題と具体的な解決策
- 課題1:データのサイロ化と統合: 各システムで管理されているデータ形式が異なり、リアルタイムでの連携や統合が困難でした。
- 解決策: ETL(Extract, Transform, Load)ツールの導入や、データ連携のためのAPI開発を進め、DWHを中心としたデータ基盤を整備しました。時間のかかるプロセスでしたが、経営層のコミットメントを得て優先的にリソースを投入しました。
- 課題2:データ分析能力の不足: 人事部門内に高度なデータ分析スキルを持つ人材が限られていました。
- 解決策: 外部のデータサイエンティストの協力を得つつ、社内の既存人材向けにデータ分析ツールの研修を実施しました。また、BIツールの活用を促進し、簡易的な分析は各部門でも行えるようにしました。
- 課題3:分析結果の解釈と現場へのフィードバック: データは得られたものの、それが現場の具体的な状況とどう関連するのか、どのような改善策に繋がるのかを明確に伝えるのが難しかった。
- 解決策: 分析専門チームが各部門長と密接に連携し、分析結果の背景にある可能性のある要因について議論しました。また、レポートには単なる数値だけでなく、示唆や改善提案の方向性を加えるように工夫しました。成功事例や改善が進んだチームの具体的な取り組みを共有する場を設けました。
- 課題4:従業員のプライバシーへの懸念: データが個人の評価や監視に利用されるのではないかという懸念の声がありました。
- 解決策: データはあくまで集計・統計的に利用すること、個人の特定に繋がる形での公開はしないことを徹底しました。データポリシーを明確に定め、従業員に周知しました。また、データ活用の目的が「より良い働き方を実現するため」であるというメッセージを繰り返し伝え、信頼関係の構築に努めました。
導入による効果・成果
データ分析に基づく効果測定と継続的な改善サイクルを確立した結果、株式会社データリンクでは以下のような具体的な成果が得られました。
- 生産性の向上:
- 全社平均で残業時間が導入前と比較して15%削減されました。特にデータで残業が多いと特定された部署では、業務プロセスの見直しやタスク配分の調整を行い、大幅な改善が見られました。
- プロジェクト管理ツールのデータ分析から、特定のタスクにおけるボトルネックが発見され、プロセス改善によりプロジェクト完了期間が平均10%短縮されました。
- 従業員エンゲージメントの向上:
- 定期エンゲージメントサーベイの総合スコアが導入後2年間で5ポイント上昇しました。特に「会社への信頼」「自身の貢献実感」に関する項目でスコア改善が見られました。
- データ分析に基づき、コミュニケーション不足が課題として特定されたチームでは、マネージャーとの1on1頻度増加や非同期コミュニケーションツールの活用促進を行い、チーム内のエンゲージメントスコアが平均8ポイント上昇しました。
- 離職率の抑制:
- 特定の属性や部署における離職予兆をデータから早期に把握し、先手を打ったケアや面談を実施することで、全社的な離職率が導入前と比較して3%ポイント低下しました。
- データに基づいた議論の活性化: 各部門やチーム内で、勘や経験だけでなく、データに基づいて働き方や業務改善について議論する文化が醸成されました。これにより、施策導入や変更に対する従業員の納得度が高まりました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社データリンクのデータ分析に基づく働き方改革が成功した要因はいくつか考えられます。
- 経営層の強いコミットメント: データに基づいた客観的な意思決定の重要性を経営層が理解し、必要なリソース(システム投資、専門人材採用/育成)を惜しまなかったことが大きい要因です。
- 人事部門の専門性強化: データ分析専門チームを立ち上げ、高度な分析と示唆出しを行える体制を構築したことが、分析結果の実効性を高めました。
- 組織横断的な協力体制: プロジェクトチームや継続的な情報共有の仕組みを通じて、人事、IT、現場が一体となって課題解決に取り組んだことが成功に繋がりました。
- 透明性と丁寧なコミュニケーション: データ活用の方針や目的を従業員にオープンにし、プライバシーへの配慮を徹底することで、信頼を得てデータ収集への協力を引き出しました。
- 分析結果を「改善」に繋げる仕組み: 分析レポートを出すだけでなく、各部門での振り返りや改善策の検討を促し、PDCAサイクルを回す仕組みを構築したことが、単なる「見える化」で終わらせない鍵となりました。
今後の展望
株式会社データリンクでは、今後もデータ分析に基づく働き方改革をさらに進化させていく計画です。具体的には、従業員のスキルデータやキャリア志向データと連携させた最適な人材配置・育成への活用、AIを用いた離職予兆分析やエンゲージメント低下要因の予測分析、そして外部のベンチマークデータとの比較による自社の立ち位置把握などを検討しています。データ活用の範囲を広げ、より個別最適化された働き方支援や、予見的な人事施策につなげていくことを目指しています。
まとめ
株式会社データリンクの事例は、働き方改革の効果測定においてデータ分析がいかに強力なツールとなるかを示しています。単なる制度導入に留まらず、多様なデータを収集・統合し、客観的な指標で効果を測定し、その結果を基に継続的な改善サイクルを回すことが、生産性向上、従業員エンゲージメント向上、そして変化に強い組織文化の醸成に繋がります。人事担当者の皆様にとって、データに基づいたアプローチは、自社の働き方改革を次のステージに進めるための重要なヒントとなるのではないでしょうか。