株式会社エンゲージメントパートナーズ:1on1の質向上によるマネジメント変革で、リモートワーク下の従業員エンゲージメントを高めた事例
働き方変革 事例:株式会社エンゲージメントパートナーズ
1on1の質向上によるマネジメント変革で、リモートワーク下の従業員エンゲージメントを高めた事例
多様な働き方の導入が進む中、特にリモートワークにおいては、対面でのコミュニケーションが減少することによるチームワークや従業員エンゲージメントの維持・向上課題が多くの企業で顕在化しています。本記事では、株式会社エンゲージメントパートナーズが、1on1ミーティングの質向上を起点としたマネジメント変革を通じて、リモートワーク環境下における従業員エンゲージメント向上に成功した事例をご紹介します。人事部門の皆様にとって、リモート下での組織活性化やマネージャー育成、効果測定の参考となる情報を提供できると考えています。
導入の背景・目的
株式会社エンゲージメントパートナーズでは、数年前から全社的にリモートワークを積極的に推進しており、従業員の柔軟な働き方を実現していました。しかし、リモートワークが定着するにつれて、以下のような課題が見え始めていました。
- コミュニケーションの希薄化: 業務上の最低限の連絡は可能である一方、気軽な雑談や非公式なコミュニケーションが減少し、チームの一体感や帰属意識が低下する懸念が生じていました。
- 部下の状況把握の難しさ: マネージャーが部下の業務状況だけでなく、精神的な状態やキャリアに関する意向を把握することが難しくなっていました。
- エンゲージメントスコアの伸び悩み: 定期的に実施しているエンゲージメントサーベイにおいて、「上司との良好な関係」「成長機会への期待」に関する項目でスコアの伸び悩みが確認されていました。
- マネージャーのマネジメント力のばらつき: リモート下でのマネジメント経験の差から、メンバーへの適切なフィードバックやキャリアサポートの質にばらつきが生じていました。
これらの課題に対し、同社は「リモートワーク環境下でも従業員一人ひとりが孤立せず、エンゲージメントを高く維持・向上できる組織」を目指し、その鍵を握るマネージャーの役割に注目しました。特に、部下とマネージャーが個別に深く対話する機会である1on1ミーティングの質を高めることが、上記課題の解決に有効であると判断し、取り組みを開始しました。
具体的な取り組み内容
同社が実施した具体的な取り組みは以下の通りです。
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1on1ガイドラインの策定と目的の再定義:
- 従来の業務進捗確認が中心だった1on1を、「部下の成長支援」「エンゲージメント向上」「心理的安全性確保」を主な目的とする対話の時間として再定義しました。
- 月に1回、30分以上実施することを必須とし、アジェンダ例や避けるべき会話内容などを盛り込んだガイドラインを策定し、全マネージャーに周知徹底しました。
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マネージャー向け1on1スキル研修の実施:
- 傾聴、承認、効果的な質問、フィードバックのスキルに焦点を当てた、実践的な研修プログラムを全マネージャー向けに実施しました。外部の専門家を招いた集合研修に加え、オンラインでのロールプレイング演習も取り入れました。
- 研修後も、定期的なフォローアップ研修や、マネージャー同士が成功事例や悩みを共有するワークショップを開催しました。
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1on1支援ツールの導入:
- アジェンダ共有、議事録作成、ToDo管理、過去の会話履歴参照が可能な専用ツールを導入しました。これにより、1on1の準備や振り返りが効率化され、対話の内容を構造化して蓄積できるようになりました。
- ツール上で、部下からマネージャーへ事前に話したいテーマを共有できる機能を活用し、部下側からの主体的な関与を促しました。
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人事部門による継続的なサポート:
- 人事部門内に専任チームを設け、マネージャーからの個別相談に対応しました。
- ツール上で共有される1on1の実施状況や内容の一部(プライバシーに配慮しつつ、傾向を把握)をモニタリングし、必要に応じて介入・サポートを行いました。
- 優秀な1on1を実践しているマネージャーの事例を全社に共有し、ベストプラクティスの浸透を図りました。
導入プロセス
本取り組みは、約1年をかけて段階的に推進されました。
- 企画・準備段階(3ヶ月): 課題の特定、目的設定、ガイドライン策定、研修プログラム設計、ツール選定を実施。経営層への提案と承認を得ました。
- パイロット実施(3ヶ月): 特定の部署を選定し、ガイドラインとツール、研修を試験的に導入。マネージャーと部下双方からのフィードバックを収集し、改善点洗い出しを行いました。
- 全社展開(6ヶ月): パイロットでのフィードバックを反映させた上で、全マネージャー・全従業員を対象に順次展開を開始しました。研修を複数回に分けて実施し、ツールの利用方法に関する説明会も並行して行いました。
- 定着・改善段階: 導入後も、定期的な研修、フォローアップ、効果測定を継続し、取り組みの定着とさらなる質向上に努めています。
推進体制としては、人事部門が主導し、経営層の強いコミットメントのもと、各部署の部門長とも密に連携を取りながら進められました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
取り組みの中で直面した主な課題とその解決策は以下の通りです。
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課題1:マネージャーの負担増への懸念とモチベーション維持
- 解決策: 1on1の「時間」を確保することよりも、「質」を高めることの重要性を繰り返し伝えました。また、ツールの活用による準備・振り返りの効率化や、人事部門によるサポート体制を明示することで、負担軽減と安心感を提供しました。さらに、エンゲージメント向上や部下の成長がマネージャー自身の評価にもつながることを伝え、目的意識とモチベーション向上を図りました。
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課題2:マネージャー間の1on1の質・内容のばらつき
- 解決策: 初回研修に加え、定期的なフォローアップ研修、事例共有会、外部コーチングオプションの提供など、継続的なスキルアップの機会を設けました。ツールでの実施状況モニタリングと、必要に応じた人事からの個別フィードバックやアドバイスも行いました。
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課題3:部下側の1on1に対する受動的な姿勢
- 解決策: 全従業員に対し、1on1が単なる業務報告ではなく、自分自身の成長やキャリア、働き方についてマネージャーと共に考える貴重な機会であることを丁寧に説明しました。ツールでの事前アジェンダ共有機能を推奨し、部下からの積極的なテーマ提案を促しました。また、従業員向けに「より良い1on1を受けるためのポイント」といったガイダンスも提供しました。
導入による効果・成果
本取り組みの結果、以下のような効果・成果が得られました。
- エンゲージメントスコアの向上: 全社エンゲージメントサーベイにおいて、「上司との良好な関係」に関する項目が導入前と比較して15%向上、「成長機会への期待」に関する項目も10%向上しました。全体的なエンゲージメントスコアも5%上昇し、特にリモートワーク下での従業員の孤立感が軽減されたことが示唆されました。
- 離職率の抑制: 特に若手層や中堅層の離職率が、導入前の年間平均と比較して約2%低下しました。1on1を通じて、従業員が自身のキャリアや不満を早期にマネージャーに相談できるようになったことが、離職防止につながったと考えられます。
- チーム内のコミュニケーション活性化: 1on1での対話を通じて、部下が抱えている課題や意見を率直に話せるようになり、それが他のチームメンバーとのコミュニケーションにも良い影響を与えました。チームミーティングでの発言が活発化するなどの変化が見られました。(従業員からの声:「以前より上司に話しやすくなった」「自分の考えや困っていることを正直に伝えられるようになったことで、業務がスムーズに進むようになった」)
- 目標設定・管理の質の向上: 1on1で個人目標とチーム目標の関連性や進捗について定期的に話し合うことで、目標設定がより具体的になり、従業員の目標達成に対する意識が高まりました。
取り組みが成功した要因分析
この取り組みが成功した要因としては、以下の点が挙げられます。
- 経営層および人事部門の明確な意思表示とコミットメント: 単なる制度導入ではなく、「従業員エンゲージメント向上のための重要な経営施策である」という位置づけを明確にし、必要なリソース(時間、予算、人員)を確保しました。
- マネージャー育成への継続的な投資: 一度きりの研修ではなく、繰り返し学べる機会や個別のサポートを提供することで、マネージャーが自信を持って1on1に取り組めるようにしました。
- ツール活用による「やりやすさ」の提供: 1on1の計画・実行・振り返りの負担を軽減し、履歴管理を容易にするツール導入が、取り組みの継続を後押ししました。
- 従業員への丁寧なコミュニケーション: なぜ1on1が重要なのか、従業員にとってどのようなメリットがあるのかを繰り返し伝えることで、取り組みへの理解と協力を得ることができました。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社エンゲージメントパートナーズでは、今後も1on1を組織文化として定着させるため、以下の取り組みを継続・発展させていく予定です。
- 新任マネージャー向けの研修プログラムの強化
- 1on1の内容とエンゲージメントサーベイ結果、パフォーマンス評価との関連性の分析強化
- 1on1ツールと他の人事システム(目標管理、評価など)との連携強化
- 従業員からの1on1に対するフィードバック収集と、ガイドライン・研修内容の継続的な改善
本事例は、リモートワーク下におけるコミュニケーション課題やエンゲージメント低下といった普遍的な課題に対し、1on1という基本的な対話の機会を戦略的に活用し、マネジメントの質を高めることで成果を出せることを示しています。
まとめ
株式会社エンゲージメントパートナーズの事例からは、単にリモートワーク制度を導入するだけでなく、それに伴うマネジメントやコミュニケーションの変革が重要であることが学べます。特に、マネージャーと部下の1対1の対話の質を高めることは、リモート下でも従業員のエンゲージメントを維持・向上させるための有効な手段となり得ます。本事例が、多様な働き方を推進される人事部門の皆様にとって、具体的な施策検討や課題解決のヒントとなれば幸いです。