株式会社〇〇:エンゲージメントサーベイ活用と連動した働き方改革で、従業員満足度と組織活力を向上させた事例
導入背景:データが示した従業員満足度の課題
大手総合サービス企業である株式会社〇〇様は、長年にわたり安定した事業成長を続けてこられました。しかし、近年、従業員数が拡大し組織が複雑化するにつれて、従業員間の連携不足や、個々の業務に対するエンゲージメント(貢献意欲や愛着)の低下といった兆候が見られ始めていました。特に、人事部門が定期的に実施していた従業員満足度調査では、特定の設問項目において、改善が見られない、あるいはむしろ低下傾向にあるという結果が出ていたのです。
具体的には、「自分の意見が組織に反映されていると感じるか」「部署間の連携がスムーズか」「働き方の柔軟性」といった項目でスコアが低迷していました。この状況に対し、人事部門は、データに基づいた具体的な課題解決が必要であると認識しました。単なる制度導入だけでなく、従業員の「声」を継続的に把握し、それと連動した働き方改革を推進することで、従業員満足度と組織全体の活力を向上させることを目指すこととしました。
具体的な取り組み内容:エンゲージメントサーベイを起点とした複合的アプローチ
株式会社〇〇様が取り組んだのは、以下の複合的な施策でした。これらの施策は、エンゲージメントサーベイの結果を起点とし、PDCAサイクルを意識して展開されました。
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高頻度・粒度を細かくしたエンゲージメントサーベイの実施:
- 従来の年1回から、四半期に1回へと実施頻度を上げました。
- 全社に加え、部署やチーム単位でも結果を分析できるよう、サーベイツールを見直しました。
- 設問内容も、働きがい、人間関係、組織風土、働き方の柔軟性など、多角的な視点から従業員の状態を把握できるものに改訂しました。
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サーベイ結果に基づいた部署別ワークショップの実施:
- サーベイ結果を各部署のマネージャーに詳細にフィードバックしました。
- フィードバックを受けたマネージャーは、部下と共に結果を読み解き、「なぜこの結果になったのか」「どうすれば改善できるか」を話し合うワークショップを実施しました。人事部門はワークショップの進行支援や必要な情報提供を行いました。
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働き方に関する改善提案制度のリニューアル:
- 従業員が働き方に関するアイデアや改善案を気軽に提出できるオンラインプラットフォームを導入しました。
- 提出された提案は、関連部署や経営層が定期的にレビューし、実現可能性の高いものは積極的に採用・実行することを明確にしました。採用された提案は提案者や実行プロセスと共に社内周知しました。
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柔軟な勤務時間制度の導入・拡大:
- 一部部署で試験導入していたコアタイムなしのスーパーフレックスタイム制度を全社に拡大しました。
- 時間単位での有給取得制度を導入し、より細やかな時間調整を可能にしました。
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リモートワーク環境整備とコミュニケーション促進:
- リモートワークに必要なITツールの導入・活用研修を強化しました。
- オンラインでの効果的なコミュニケーション方法に関するガイドラインを作成し、周知しました。
- 部署やチーム内で、週次のオンライン定例ミーティングを設定する、バーチャルオフィスツールを試験的に導入するなど、積極的なコミュニケーションを促しました。
導入プロセスと直面した課題、その解決策
この取り組みは、人事部門が中心となり、経営層の理解とコミットメントを得た上で推進されました。まず、既存の従業員満足度調査の課題を経営会議で共有し、エンゲージメントサーベイの重要性と高頻度実施の意義を説明しました。ツールの選定と並行して、試験導入部署を募り、そこで得られた知見を全社展開に活かしました。
しかし、取り組みを進める中でいくつかの課題に直面しました。
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課題1:サーベイ結果に対するマネージャーの戸惑い
- ネガティブな結果が出た部署のマネージャーの中には、結果を受け止めきれなかったり、どう部下と話せば良いか分からなかったりするケースが見られました。
- 解決策: 人事部門が個別にフォローアップを行い、結果を感情的に捉えるのではなく、改善のためのデータとして活用することの重要性を伝えました。また、エンゲージメント向上に向けた対話スキル研修をマネージャー向けに実施し、ワークショップ運営に関する具体的なファシリテーションスキルを提供しました。
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課題2:制度利用の浸透に時間がかかる
- スーパーフレックスや時間休など、柔軟な制度が導入されても、「周囲に迷惑をかけてしまう」「評価に影響するのではないか」といった懸念から、利用をためらう従業員が少なくありませんでした。
- 解決策: 経営層や役員が積極的に制度を利用する姿を見せ、社内報やイントラネットで「制度利用は推奨される働き方である」というメッセージを繰り返し発信しました。また、各部署での利用状況を定期的にモニタリングし、利用率が低い部署には個別にヒアリングや啓発活動を行いました。
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課題3:オンラインコミュニケーションの質の低下
- リモートワークが進む中で、テキスト中心のコミュニケーションでは意図が伝わりにくかったり、偶発的な雑談が減ったりするという声が聞かれました。
- 解決策: 全員がカメラをオンにするオンライン会議ルールを推奨したり、週に一度はオンラインでも良いので「雑談タイム」を設けることを各チームに促したりしました。また、バーチャルオフィスツールのように、オンラインでも対面に近いコミュニケーションを可能にするツールの導入を検討し、一部で試験運用を開始しました。
導入による効果・成果:データが示す改善と組織の変化
一連の取り組みの結果、株式会社〇〇様では、目に見える形で効果が現れ始めました。
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エンゲージメントスコアの継続的な向上:
- 四半期ごとのサーベイ実施により、取り組みの効果をリアルタイムに測定できるようになりました。導入から1年後には、総合エンゲージメントスコアが約10ポイント向上しました。
- 特に、「自分の意見が組織に反映されていると感じる」という設問への肯定的な回答率が大幅に改善しました。これは、改善提案制度のリニューアルやワークショップでの対話が従業員の意識を変えたことを示唆しています。
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離職率の抑制:
- 取り組み開始後、特に若手層の離職率に歯止めがかかり、対前年比で約5%の低下が見られました。柔軟な働き方や、組織への意見反映が進んだことが、定着率向上に貢献したと考えられます。
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改善提案件数の増加と制度利用率の上昇:
- 改善提案制度への投稿件数は導入前の約3倍に増加しました。また、スーパーフレックスタイム制度の利用率は約70%に達し、時間単位有給の利用も日常的になりました。
これらの定量的データに加え、従業員からは「自分の働き方を自分で決められるようになった」「チーム内のコミュニケーションが活発になった」「会社が自分たちの声を真剣に聞いてくれていると感じる」といった肯定的な声が多く聞かれるようになりました。組織全体の雰囲気が、よりオープンで活力のあるものへと変化していることが実感されました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社〇〇様の働き方改革が成功に至った主な要因は以下の通りです。
- データドリブンなアプローチ: エンゲージメントサーベイという客観的なデータを起点とし、改善点を特定し、効果測定を行ったことが、施策の方向性を明確にし、関係者の納得感を得る上で非常に有効でした。
- 現場起点の改善サイクル: サーベイ結果を各部署で共有し、マネージャーとメンバーが共に課題解決に取り組むワークショップ形式を採用したこと、また改善提案制度を通じて現場の声を吸い上げる仕組みを構築したことが、従業員の主体的な参加を促しました。
- 制度と文化醸成の両輪: 柔軟な勤務制度などの「制度」を整えるだけでなく、マネジメント研修やコミュニケーションガイドライン策定など、制度を有効活用するための「文化・風土」づくりにも同時に取り組んだことが、実効性を高めました。
- 経営層の強いコミットメント: 経営層が働き方改革の重要性を認識し、メッセージ発信や自らの行動で模範を示したことが、社内全体に改革の機運を醸成しました。
今後の展望
株式会社〇〇様は、今後も四半期ごとのエンゲージメントサーベイを継続し、従業員の声をきめ細かく把握しながら、働き方改革を推進していく方針です。今後は、サーベイ結果で明らかになった新たな課題(例: キャリア成長機会への懸念など)に対し、リスキリング支援の拡充や社内公募制度の活性化といった施策を検討していく予定です。また、ウェルビーイング経営との連携をさらに深め、従業員の心身両面の健康とエンゲージメント向上を両立させていくことを目指しています。
この事例は、従業員の「声」をデータとして捉え、それを起点に具体的な施策と組織文化の変革を連動させることの重要性を示しています。データに基づいた継続的な改善サイクルを回すことが、多様な働き方を成功させ、組織の持続的な成長に繋がる鍵となるでしょう。