株式会社サステナブルワークス:ESG経営と連携した働き方改革で実現した環境負荷低減と従業員エンゲージメント向上事例
はじめに:ESG経営と働き方改革の重要性
近年、企業経営においてサステナビリティ、中でもESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮は不可欠な要素となっています。同時に、多様な人材が能力を発揮できる働き方改革の推進も、企業の持続的な成長にとって重要性を増しています。これら二つの要素は独立しているように見えますが、実は深く関連しています。例えば、通勤の削減は環境負荷低減に貢献し、多様な人材活用は社会性の向上につながります。
本記事では、ESG経営を経営戦略の中核に据え、その実現手段の一つとして働き方改革を推進することで、環境負荷低減と従業員エンゲージメント向上という二つの成果を同時に実現した、株式会社サステナブルワークスの事例をご紹介します。多様な働き方の導入や推進を検討されている人事担当者の皆様にとって、ESG経営との連携という視点から、新たなヒントや具体的なノウハウを得られる内容となれば幸いです。
株式会社サステナブルワークス:働き方改革導入の背景・目的
株式会社サステナブルワークスは、創業当初から環境配慮と社会貢献を企業理念として掲げてきましたが、近年、グローバルなESG投資の高まりやサプライチェーン全体でのサステナビリティ要求の増加を受け、より一層ESG経営を強化する必要に迫られていました。特に、環境面ではCO2排出量の削減、社会面では多様な人材が長期的に活躍できる環境整備が喫緊の課題でした。
一方で、従来の画一的な働き方や、都心への通勤を前提としたスタイルは、これらのESG目標達成の妨げとなっていました。従業員の通勤によるCO2排出、オフィス維持にかかるエネルギー消費、そして育児や介護、地域活動といった多様な背景を持つ従業員のキャリア継続の難しさなどが課題として認識されていました。
そこで同社は、働き方改革をESG経営を推進するための重要な戦略と位置づけ、「環境負荷の低減」と「多様な人材が能力を最大限に発揮できる環境整備」を主要な目的として、新たな働き方モデルの導入を決定しました。
具体的な取り組み内容
株式会社サステナブルワークスは、上記の目的達成のため、以下の具体的な取り組みを実施しました。
- 抜本的なリモートワーク・ハイブリッドワーク制度の導入:
- 週2日以上のオフィス出社を推奨しつつ、従業員が必要に応じて働く場所を選択できるハイブリッドワーク制度を導入しました。部署や職種によってはフルリモートも可能としました。
- 全従業員にノートPC、モニター、通信費補助などを支給し、リモートワーク環境を整備しました。
- 多様なライフスタイル・キャリアに対応する制度拡充:
- 短時間勤務制度の利用条件緩和と適用範囲拡大(育児・介護以外にも適用)を実施しました。
- 副業・兼業を原則解禁し、従業員の自律的なスキルアップと社外での経験を通じた知見の獲得を奨励しました。
- 不妊治療や疾病治療など、より個別性の高い事情に対応するための特別休暇やフレキシブルな勤務時間制度を整備しました。
- 環境配慮と生産性向上を両立するオフィス戦略:
- 本社オフィスを縮小・移転し、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を取り入れた環境配慮型オフィス(再生可能エネルギー利用、省エネ照明、廃棄物削減目標設定など)を整備しました。
- サテライトオフィスや契約コワーキングスペースの利用補助制度を導入し、従業員の移動時間・環境負荷低減を支援しました。
- サステナビリティ意識向上と連動した評価制度:
- 個人目標設定において、働き方改革やサステナビリティ目標(例:ペーパーレス推進、省エネルギー意識向上、多様性尊重への貢献)に関連する項目を設定できる仕組みを導入しました。
- リモートワーク下の成果評価に移行するため、目標設定と進捗管理にOKRツールを活用しました。
- ツール・ITインフラの整備:
- オンライン会議システム、クラウド型ファイル共有、プロジェクト管理ツール、チャットツールなど、非同期コミュニケーションを円滑にするツールの全社導入と利用ルールの策定を行いました。
- 通勤距離削減によるCO2排出削減効果を自動で算出・可視化するツールを導入しました。
導入プロセス、直面した課題と解決策
同社の働き方改革は、経営層直下の「サステナブルワーク推進プロジェクト」を中心に進められました。まず、経営理念とESG目標に紐づけた改革の意義を全従業員に繰り返し発信し、理解と協力を求めました。一部の部署でパイロット導入を行い、課題を抽出した上で全社展開へと進めました。
導入プロセスで直面した主な課題は以下の通りです。
- 課題1:リモートワーク下での従業員間のコミュニケーション不足・エンゲージメント低下の懸念
- 解決策: マネージャー向けにリモートマネジメント研修を実施し、1on1の頻度と質の向上を奨励しました。オンラインでのチームビルディング活動や、カジュアルな交流を促すバーチャル休憩室の設置、オフラインでの交流機会(任意参加のランチ会など)への補助制度を導入しました。
- 課題2:多様な働き方に対応する管理職のマネジメントスキル不足
- 解決策: 多様性対応(DE&I)や、個々の従業員の事情を考慮した目標設定・評価に関する管理職研修を必須としました。人事部が定期的に管理職との個別面談を実施し、相談体制を強化しました。
- 課題3:環境負荷低減効果の測定と従業員へのフィードバックの難しさ
- 解決策: 通勤距離削減ツールを導入し、従業員一人ひとりが自身の通勤削減距離とそれに伴うCO2削減量を把握できるようにしました。全社及び部署ごとの削減目標を設定し、定期的に社内報や社内ポータルで進捗を共有し、貢献を見える化しました。オフィスでの省エネ目標達成状況も定期的に共有しました。
- 課題4:制度を導入しても利用が進まない、または一部の従業員に負担が偏る可能性
- 解決策: 短時間勤務や休暇制度の利用を推奨するメッセージを経営層から発信し、利用実績を積極的に社内で紹介しました。管理職の評価項目に「部下の多様な働き方の支援・促進」を追加しました。特定の制度利用者が不利益を被らないよう、人事評価制度を見直しました。
導入による効果・成果
これらの取り組みの結果、株式会社サステナブルワークスでは、以下のような効果・成果が見られました。
- 環境負荷低減: 全従業員の平均通勤距離が30%削減され、それに伴うCO2排出量も大きく減少しました。オフィス移転・縮小及び省エネ設備の導入により、オフィス維持にかかるエネルギー消費量が25%削減されました。ペーパーレス化も進み、紙の消費量が40%減少しました。
- 従業員エンゲージメント向上: 年に一度実施している従業員エンゲージメントサーベイにおいて、「会社が持続可能な社会の実現に貢献していると感じるか」という項目で、改革導入前と比較して20ポイントの上昇が見られました。「自分の働き方が会社のESG目標達成に貢献していると感じるか」という項目も新たに設け、高いスコアを獲得しました。多様な働き方への満足度も向上しました。
- 多様な人材の活躍促進: 短時間勤務制度の利用者が1.5倍に増加し、育児・介護休業後の復帰率が95%に向上しました。副業解禁後、約10%の従業員が副業を開始し、社外からの新しい知見やスキルが組織内に還元される事例も生まれました。
- 採用力強化: 企業のESGへの取り組みや柔軟な働き方が、特に環境意識の高い層や多様な働き方を求める求職者にとって魅力となり、採用応募者数が約15%増加しました。特に中途採用において、多様なバックグラウンドを持つ人材の採用が進みました。
- 生産性維持・向上: リモートワーク導入当初は一時的な生産性低下も懸念されましたが、ツール活用、マネジメント改革、成果評価へのシフトにより、全社的な労働時間あたりの生産性は改革導入前と同等、または一部部署では向上する結果となりました。これは、通勤時間削減による可処分時間の増加や、より集中できる環境での勤務、自律的な働き方の促進が影響していると考えられます。
取り組みが成功した要因分析
株式会社サステナブルワークスの働き方改革が成功した主な要因として、以下の点が挙げられます。
- 明確な目的設定と経営層の強いコミットメント: 働き方改革が単なる福利厚生ではなく、ESG経営という会社の根幹戦略と紐づけられていたこと、そして経営層がその重要性を継続的に発信し、率先して実践したことが、従業員の理解と協力を得る上で非常に重要でした。
- 具体的な目標設定と成果の見える化: 環境負荷低減目標や従業員エンゲージメント向上目標など、定量・定性的な目標を設定し、定期的に進捗を従業員全体に共有したことで、改革の「自分ごと化」が進みました。特に、通勤距離削減ツールの導入は、個人の行動が直接環境貢献につながることを可視化し、モチベーション向上に貢献しました。
- 従業員を巻き込んだ推進体制: 一方的な制度導入ではなく、パイロット導入でのフィードバック収集、全社アンケート、社内報での事例紹介などを通じて、従業員の声を反映し、共に改革を進める体制を構築しました。
- 必要なインフラとマネジメント支援の提供: リモートワークに必要な物理的な環境整備やツール導入に加え、多様な働き方に対応するための管理職研修やサポート体制を整えたことが、制度が形骸化せず、実際に機能するために不可欠でした。
今後の展望
株式会社サステナブルワークスは、今後もESG経営との連動をさらに深めていく方針です。具体的には、サプライチェーン全体でのサステナビリティ推進に貢献するため、取引先企業への働き方改革に関する情報提供や協力を働きかけていくことを検討しています。また、AIなどの新しい技術を活用し、従業員の働き方データの分析からさらなる効率化やウェルビーイング向上施策につなげること、地域社会との連携を強化し、地域課題解決につながる多様な働き方を模索することも視野に入れています。
まとめ:自社への示唆
株式会社サステナブルワークスの事例は、働き方改革が単に労働時間や場所に柔軟性を持たせるだけでなく、企業の根幹をなす経営戦略、特にESG経営と深く結びつくことで、環境負荷低減や多様な人材活用といった社会的な価値創出、そして従業員エンゲージメントや採用力向上といった組織力強化に貢献できることを示しています。
働き方改革を検討されている人事担当者の皆様におかれては、ぜひ自社の経営戦略、特にサステナビリティやESGに関する目標との連携を視野に入れてみてください。働き方改革を「手段」として捉え、それがどのような「目的」達成に貢献するのかを明確にすることで、改革の意義が社内外に伝わりやすくなり、より大きな成果につながる可能性が高まります。本事例が、皆様の働き方改革推進における一助となれば幸いです。