株式会社フロンティアワークス:限定正社員制度の導入で多様なキャリアニーズに対応し、人材定着と活躍を促進した事例
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現代において、従業員のキャリア観やライフスタイルは多様化しており、画一的な働き方では優秀な人材の確保や定着が困難になりつつあります。特に、育児や介護、特定の地域での勤務、専門分野に特化したキャリア形成など、様々なニーズに対応できる柔軟な働き方の提供が企業にとって重要な経営課題となっています。
本記事では、株式会社フロンティアワークスがどのように限定正社員制度を導入し、多様なキャリアニーズを持つ従業員の定着と活躍を促進したのか、その具体的な取り組み事例をご紹介します。制度設計の背景から導入プロセス、直面した課題とその解決策、そして導入によって得られた効果や成功要因について詳しく解説いたします。
多様な働き方導入の背景・目的
株式会社フロンティアワークスでは、かねてより育児や介護を理由とした従業員の離職、あるいは転居に伴うキャリア継続の断念といった課題に直面していました。また、特定の地域に居住し、その地域に根差した業務を希望する優秀な人材の採用機会を逃している状況もありました。
これらの課題を解決し、多様な背景を持つ従業員が長期的に活躍できる環境を整備するため、同社は正社員としての安定性を保ちつつ、柔軟な働き方を可能にする「限定正社員制度」の導入を検討しました。目的は以下の2点です。
- 育児・介護等、従業員のライフステージ変化に応じた柔軟な働き方の提供による離職防止とキャリア継続支援。
- 特定の地域や職務に特化した専門スキルを持つ人材の採用促進と定着。
具体的な取り組み内容:限定正社員制度の設計と運用
同社が導入した限定正社員制度は、以下の3つのパターンを用意し、従業員が自身の状況や希望に応じて選択できるよう設計されています。
- 勤務地限定: 勤務する事業所や地域を限定するパターン。転勤の必要がなくなります。
- 職務限定: 従事する職務内容や業務範囲を限定するパターン。特定の専門性を活かしたい従業員や、特定の業務に集中したい従業員向けです。
- 勤務時間・日数限定(短時間正社員): 所定労働時間や日数を短縮するパターン。育児や介護との両立を図りたい従業員に多く利用されています。
これらの限定正社員に対しても、通常の正社員と同様に、企業理念や事業目標への貢献度に基づいた公正な評価制度を適用しました。ただし、限定範囲に応じた職務内容や期待される役割を明確に定義し、評価基準に反映させる工夫を行いました。給与体系についても、限定の範囲を考慮しつつも、責任や貢献度に応じた適正な報酬カーブを設定しました。
また、柔軟なキャリアパスを支援するため、通常の正社員への転換制度を設けました。限定正社員として一定期間勤務し、本人が希望し会社が認めた場合は、面談等を経て限定を解除し、通常の正社員となることが可能です。
導入プロセス
限定正社員制度の導入にあたり、同社は以下のプロセスを踏みました。
- ニーズ調査と制度検討: 既存従業員へのアンケートや管理職へのヒアリングを通じて、制度導入の必要性と具体的なニーズを把握しました。並行して、弁護士や社会保険労務士等の外部専門家と連携し、法的な側面や労務管理上の課題について検討を行いました。
- 制度設計と合意形成: 外部専門家の助言も踏まえ、勤務地、職務、勤務時間の限定パターン、評価・給与制度、転換制度等の詳細を設計しました。経営層や労働組合との十分な協議を重ね、制度内容への合意形成を図りました。
- 社内周知と説明会: 制度の目的、内容、利用条件、申し込み方法等について、全従業員を対象とした説明会を複数回実施しました。社内ポータルサイトでの情報公開やFAQの整備、人事部門への問い合わせ窓口設置など、従業員が安心して制度について理解を深められるよう努めました。
- 希望者募集と適用: 説明会や個別相談を経て制度利用を希望する従業員からの申請を受け付けました。申請内容と業務状況を考慮し、対象者との面談を経て、制度の適用を開始しました。
直面した課題と解決策
制度導入の過程で、いくつかの課題に直面しました。
- 課題1:制度の公平性に関する懸念: 限定されていない通常の正社員から、「なぜ一部の従業員だけ限定された働き方が認められるのか」といった不満や疑問の声が上がりました。
- 解決策1:丁寧な説明と透明性の確保: 制度の導入目的が、個々の多様なニーズに対応し、結果として企業全体の生産性や競争力向上に繋がることを繰り返し丁寧に説明しました。また、限定範囲とそれに応じた責任・期待役割を明確にし、評価基準の透明性を高めることで、制度の公平性を強調しました。
- 課題2:限定によるキャリアアップ機会の制約: 職務や勤務地を限定することで、将来的なキャリアパスが狭まるのではないかという従業員の懸念がありました。
- 解決策2:キャリア支援の強化: 限定された環境でも専門性を深められるような研修機会の提供や、限定解除後のキャリアパスについて具体的なシミュレーションを提示しました。また、メンター制度を導入し、キャリアに関する相談を受けやすい環境を整備しました。
- 課題3:管理職の制度理解とマネジメントへの影響: 限定正社員の部下を持つ管理職が、制度内容や評価方法、チーム運営への影響について戸惑うケースが見られました。
- 解決策3:管理職向け研修の実施: 管理職を対象とした研修を実施し、制度の意義、限定正社員のマネジメント方法、チーム内コミュニケーションの円滑化のポイント等について理解を深めてもらいました。人事部門が管理職からの相談に随時応じる体制も構築しました。
導入による効果・成果
限定正社員制度の導入により、株式会社フロンティアワークスは以下の効果・成果を実感しています。
- 離職率の低下と人材定着: 育児や介護を理由とした離職が明らかに減少し、多くの従業員がライフステージの変化に応じて働き方を調整しながらキャリアを継続できるようになりました。これにより、貴重な人材の流出を防ぎ、企業全体の知識・経験の蓄積に貢献しています。
- 多様な人材の採用: 特定の地域に根差した業務経験を持つ人材や、高度な専門スキルを持ちつつも勤務地や職務に一定の制約がある人材の採用が進みました。これにより、組織の多様性が高まり、新たな視点やアイデアが生まれやすくなっています。
- 従業員エンゲージメントの向上: 自分の状況に合わせた働き方を選択できるようになったことで、従業員の会社に対するエンゲージメントやロイヤリティが向上しました。「会社が個々の事情を尊重してくれる」という安心感が、業務へのモチベーションにも繋がっています。
- 生産性の維持・向上: 従業員一人ひとりが自身の能力を最大限に発揮できる働き方を選択できた結果、個々の生産性が維持・向上し、組織全体のパフォーマンスにも良い影響を与えています。
具体的な数値としては、制度導入後3年間で、育児・介護を理由とする離職率が導入前と比較して約40%低下しました。また、限定正社員として採用された人材が、短期間でプロジェクトの中心メンバーとして活躍する事例も複数生まれています。
取り組みが成功した要因分析
この取り組みが成功した主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: 多様な働き方推進の重要性を経営層が深く理解し、制度導入に向けた強力なリーダーシップを発揮したことが成功の大きな原動力となりました。
- 丁寧な制度設計と柔軟性: 外部専門家との連携や他社事例の研究を通じて、従業員のニーズに応じた複数の選択肢(勤務地、職務、時間)を用意し、転換制度を設けるなど、柔軟性を持たせた制度設計が高く評価されました。
- 従業員への十分な説明と対話: 制度の目的や内容について、説明会や個別相談を通じて従業員の理解を深め、疑問や不安を解消することに時間をかけたことが、制度への信頼と円滑な導入に繋がりました。
- 管理職の理解促進と支援: 管理職向けの研修や個別サポートを通じて、制度に対する理解と適切なマネジメント方法を促進したことが、現場での混乱を防ぎ、制度の定着を助けました。
今後の展望
株式会社フロンティアワークスでは、今後も限定正社員制度を継続的に運用・改善していく方針です。将来的には、リモートワークやワーケーションといった他の柔軟な働き方とも組み合わせることで、さらに多様なニーズに対応できる制度へと発展させていくことを検討しています。また、定期的に従業員からのフィードバックを収集し、制度が実態に即しているか、改善の余地はないかを常に検証していく計画です。
まとめ
株式会社フロンティアワークスによる限定正社員制度の導入事例は、多様化する従業員のキャリアニーズやライフスタイルに対応し、人材の定着と活躍を促進するための有効な手段であることを示しています。
制度設計においては、対象とする限定範囲の明確化、評価・給与制度の整合性、そして通常の正社員との公平性確保が重要なポイントとなります。また、導入後の社内周知、管理職への研修、そして従業員との丁寧なコミュニケーションが、制度を定着させ、期待される効果を得るためには不可欠です。
本事例が、多様な働き方の導入や推進を検討されている皆様にとって、実践的なノウハウや課題解決のヒントとなれば幸いです。