株式会社△△:副業・兼業制度を導入し、従業員の自律的なキャリア形成と組織内外の知見活用を促進した事例
株式会社△△:副業・兼業制度を導入し、従業員の自律的なキャリア形成と組織内外の知見活用を促進した事例
働き方改革が進む中で、多様な働き方の一つとして注目を集めているのが「副業・兼業」です。従業員はスキルアップやキャリアの可能性を広げることができ、企業は従業員のエンゲージメント向上や社外からの知見獲得といったメリットを期待できます。
本記事では、伝統的な大企業でありながら、いち早く全社的な副業・兼業制度を導入し、従業員の成長と組織活性化を実現した株式会社△△の事例をご紹介します。導入に至った背景、具体的な取り組み内容、直面した課題と解決策、そして得られた成果について詳しく解説します。
多様な人材の成長と組織の硬直化への危機感:導入の背景・目的
製造業を基盤とする株式会社△△は、長年にわたり安定した事業成長を遂げてきました。しかし、市場環境の変化が加速する中で、既存事業の枠を超えたイノベーションの必要性や、従業員のキャリアに対する価値観の多様化を強く感じ始めていました。
一方で、終身雇用を前提としたこれまでの人事制度では、従業員のキャリア形成が社内の異動や昇進に限定されがちであり、自律的な成長機会が十分とは言えない状況でした。また、組織内に閉じられた知見だけでは、新しい発想が生まれにくいという課題もありました。
このような背景から、同社は「従業員一人ひとりが社外でも学びを得て成長し、その経験を本業にも還元することで、個人の活性化と組織全体のイノベーションを促進する」ことを目的に、副業・兼業制度の導入検討を開始しました。これは、単なる福利厚生ではなく、経営戦略としての「人材ポートフォリオの多様化」と「組織のイノベーション創出」に資する重要な施策と位置づけられました。
全社展開に向けた段階的な取り組み内容
株式会社△△では、副業・兼業制度を導入するにあたり、以下のような段階的なアプローチを取りました。
-
情報収集と制度設計:
- 他社の副業・兼業制度事例や法的な側面(労働時間管理、安全配慮義務など)について徹底的に調査を実施。
- 従業員への意識調査を行い、副業への関心度や懸念点を把握。
- 経営層、労働組合、管理部門(人事、法務、情報システムなど)を交えた横断的なプロジェクトチームを発足。
- 副業の種類(単発の業務請負、継続的な業務委託、NPO活動支援など)や承認基準、申請・報告プロセス、時間管理に関するガイドラインを策定。本業に支障がないこと、情報漏洩や競合リスクがないことなどを承認の主な条件としました。
-
トライアル実施:
- 制度設計後、希望者を募り、特定の部署や職種で限定的なトライアルを実施。
- トライアル参加者やその上司からフィードバックを収集し、制度運用上の課題や改善点を洗い出し。
-
全社展開と社内啓蒙:
- トライアルでの知見をもとに制度をブラッシュアップし、全社に向けて正式リリース。
- 制度概要、申請方法、注意点などをまとめたハンドブックを作成し全従業員に配布。
- 従業員向け説明会をオンライン・オフラインで開催し、制度の目的やメリット、リスクについて丁寧に説明。
- 特に、管理職向けには、部下からの副業申請に対する適切な判断基準や、承認後のサポート方法に関する研修を実施。副業を頭ごなしに否定せず、個人の成長を応援する姿勢の重要性を伝えました。
-
ツール・システムの整備:
- 副業申請・承認を効率化するための社内ワークフローシステムを導入。
- 必要に応じて、従業員の副業状況や労働時間に関する情報を一元管理するためのツールの活用を検討しました。
管理職の不安と情報共有の壁:直面した課題と具体的な解決策
制度導入のプロセスにおいては、いくつかの課題に直面しました。
課題1:管理職層の理解不足と抵抗感
「部下の副業で本業のパフォーマンスが落ちるのではないか」「労務管理が煩雑になるのでは」といった管理職からの懸念や抵抗が想定されました。
解決策: 管理職向けに制度の意義やメリット(部下の成長による組織力向上など)を伝える研修を強化しました。また、副業申請時の判断基準を明確化し、承認可否の相談窓口を設置することで、管理職の不安軽減を図りました。本業のパフォーマンス低下が見られる場合の対応フローも事前に定めて共有しました。
課題2:労働時間管理と安全配慮義務
副業と本業を合わせた労働時間の把握や、それに伴う安全配慮義務の履行が複雑になるという課題がありました。
解決策: 副業開始前に、副業先での予定労働時間を申請させる仕組みを導入しました。また、本業の勤怠管理システムとの連携や、従業員への自己申告の徹底により、総労働時間の把握に努めました。過重労働のリスクがある従業員に対しては、産業医面談や上司との面談を実施する体制を整備しました。さらに、副業中に発生した労災に関するガイドラインも整備しました。
課題3:情報漏洩・競合リスクへの懸念
従業員が副業を通じて、会社の機密情報やノウ合流出、あるいは競合他社との関係を持つリスクが懸念されました。
解決策: 副業申請時に、副業内容や相手先企業、業務内容を詳細に確認するフローを設けました。就業規則に副業に関する規定を明記し、情報保持義務や競業避止義務について従業員に周知徹底しました。必要に応じて、誓約書の締結を求めたり、定期的に副業状況を確認する仕組みを取り入れたりしました。
エンゲージメント向上と新たなアイデア創出:導入による効果・成果
副業・兼業制度の導入から2年が経過し、株式会社△△では以下のような効果・成果が得られています。
- 従業員エンゲージメントの向上: 制度利用者は全体の約5%程度ですが、制度があること自体が「会社が個人の成長を支援している」というメッセージとなり、全社的な従業員エンゲージメント調査でスコアが向上しました。(例: 「自身のキャリア形成を会社が支援していると感じるか」という問いへの肯定的な回答が15%増加)
- 社外知見の本業への還元: 副業で得た知識やスキルを、社内勉強会やプロジェクトで共有する従業員が増加しました。これにより、これまで社内になかった視点や新しい技術が持ち込まれ、既存事業の改善や新規事業のアイデア創出につながる事例が複数生まれました。
- 従業員の自律的なキャリア形成意識の醸成: 副業を始める従業員が増えたことで、他の従業員も自身のキャリアについて主体的に考えるきっかけとなっています。社内公募制度への応募者増加や、キャリア相談窓口の利用率向上といった変化が見られます。
- 離職率の抑制: 副業によって社外での成長機会を得られるようになったことが、特に若手・中堅層の離職を抑制する要因の一つとなっている可能性があります。直接的な因果関係の数値化は難しいですが、制度利用者の定着率が非利用者より高い傾向が見られます。
- 採用活動への好影響: 副業を認めている企業として、採用市場において魅力度が増し、多様なスキルや経験を持つ人材からの応募が増加しました。
経営層のコミットメントと丁寧なコミュニケーション:取り組みが成功した要因分析
株式会社△△の副業・兼業制度導入が比較的スムーズに進み、一定の成果を上げた要因として、以下の点が挙げられます。
- 経営層の強いリーダーシップとコミットメント: 単なる制度導入ではなく、経営戦略として副業・兼業制度を位置づけ、トップがその重要性を繰り返し発信したことが、社内の意識変革を促しました。
- 丁寧な社内コミュニケーションと啓蒙活動: 制度の目的やメリットを全従業員、特に管理職に対して繰り返し丁寧に説明し、不安や疑問の解消に努めました。一方的な押し付けではなく、対話を通じて理解を深めるプロセスを重視しました。
- 明確で分かりやすいガイドライン: 副業の承認基準や申請・報告プロセス、禁止事項などを具体的に示したガイドラインを策定し、従業員が安心して制度を利用できる環境を整備しました。
- 段階的な導入とフィードバックの活用: 全社一斉導入ではなく、トライアル期間を設けて現場の声を吸い上げ、制度を改善したことで、より実態に合った運用が可能となりました。
制度の進化と効果測定の高度化:今後の展望や継続的な取り組み
株式会社△△では、今後も副業・兼業制度を継続的に改善・発展させていく予定です。具体的には、以下のような展望を持っています。
- 社内副業制度の検討: 社外での副業だけでなく、社内での部署横断的なプロジェクトへの兼業(社内副業)も制度化することで、組織内の人材流動性を高め、新たな価値創造を促進することを検討しています。
- 効果測定の高度化: 副業が本業にもたらす具体的な影響(生産性、創造性など)をより定量的に把握するための効果測定手法を検討し、制度の効果を可視化することで、さらなる改善につなげていく方針です。
- 対象者の拡大や制限の見直し: 制度の運用状況を見ながら、対象となる従業員の範囲を広げたり、時間制限などのルールを柔軟に見直したりすることも視野に入れています。
まとめ
株式会社△△の事例は、大企業においても副業・兼業制度の導入が可能であり、それが従業員の成長促進、組織の活性化、ひいては企業競争力の強化につながる可能性を示しています。導入には管理職の理解促進や労務管理、情報セキュリティといった課題が伴いますが、丁寧な制度設計、段階的な導入、そして関係者との継続的な対話を通じて、これらの課題を克服し、ポジティブな成果を生み出すことができるでしょう。
本事例が、多様な働き方の一つとして副業・兼業制度の導入を検討されている企業の人事担当者の皆様にとって、具体的な一歩を踏み出すための参考となれば幸いです。