働き方変革 事例集

株式会社フューチャーパートナーズ：従業員体験(EX)起点のアプローチでエンゲージメントと生産性を向上させた働き方改革事例

はじめに

多様な働き方の導入は、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。しかし、制度を導入するだけでは期待する効果が得られないケースも少なくありません。重要なのは、働く個々人の体験、すなわち「従業員体験（Employee Experience: EX）」をいかに向上させるかという視点です。

本記事では、株式会社フューチャーパートナーズが、従業員体験（EX）を起点としたアプローチで働き方改革を推進し、従業員のエンゲージメントと組織全体の生産性向上を実現した事例をご紹介します。同社がどのような課題意識を持ち、具体的な取り組みを通じてどのようにそれを克服し、いかなる成果を上げたのかを詳細に見ていきましょう。

多様な働き方導入の背景・目的

株式会社フューチャーパートナーズでは、数年前から人材獲得競争の激化や、優秀な人材の離職という課題に直面していました。特に、若い世代や専門性の高い人材からは、より柔軟な働き方や、自身の成長機会を求める声が高まっていました。従来の画一的な働き方や、トップダウン型の施策では、これらの多様なニーズに応えきれていないという認識が社内にありました。

そこで同社は、「従業員一人ひとりが、自身の能力を最大限に発揮し、会社への貢献を通じて成長を実感できる環境」を創出することを目的とした働き方改革に着手しました。単に制度を導入するだけでなく、従業員が日々の業務を通じて感じる体験、キャリアに対する考え方、会社との繋がり方といったEX全体を向上させることが、エンゲージメントを高め、結果として生産性や定着率の向上に繋がるという仮説のもと、このアプローチが採用されました。

具体的な取り組み内容

フューチャーパートナーズ社は、EX向上を軸に据え、多岐にわたる取り組みを並行して実施しました。

1. 従業員の声を聞く仕組みの強化:

   • 匿名での意見収集が可能なデジタル目安箱を設置。
   • 四半期に一度、全従業員を対象としたパルスサーベイ（エンゲージメント、ウェルビーイング、働きがいに関する質問）を実施し、リアルタイムに近い従業員の声を把握。
   • 部署横断での座談会を定期的に開催し、率直な意見交換の場を設ける。

2. オンボーディングプロセスの抜本的改善:

   • 新入社員向けに、デジタルツールを活用したパーソナライズされたオンボーディングプログラムを開発・導入。
   • メンター制度を強化し、新入社員一人ひとりに対して経験豊富な先輩社員がキャリアや働き方についてサポートする体制を構築。

3. 社内コミュニケーションの活性化:

   • 部署やプロジェクト単位での情報共有だけでなく、個人の興味関心に基づく非公式なコミュニティ形成を促進する社内SNSツールを導入。
   • 経営層やマネージャー層が従業員に積極的に語りかけ、双方向のコミュニケーションを促すタウンホールミーティングを定期開催。

4. 柔軟な働き方の運用改善と促進:

   • ハイブリッドワーク（オフィスとリモートワークの組み合わせ）を標準的な働き方とし、部門ごとに最適な運用ルールを策定支援。
   • コアタイムなしのスーパーフレックスタイム制度を導入し、勤務時間の柔軟性を大幅に向上。制度導入だけでなく、マネージャーがメンバーの状況に合わせて柔軟に承認できるよう、評価や目標設定の考え方を刷新。

5. キャリア開発支援の強化:

   • 社内公募制度の対象ポストを拡大し、従業員が自律的にキャリアを選択できる機会を増加。
   • マネージャーとメンバーの間で、定期的なキャリア面談を実施することを必須化。面談の質向上のため、マネージャー向けのコーチング研修を実施。

導入プロセス

EX起点での働き方改革は、人事部門主導ではなく、経営層の強いコミットメントのもと、全社横断的なプロジェクトとして推進されました。

1. プロジェクトチームの発足: 人事、情報システム、総務、各事業部門の代表者からなるプロジェクトチームを結成。
2. 現状分析と従業員のニーズ把握: 前述の従業員の声を聞く仕組みに加え、詳細なEXサーベイを実施し、従業員が働く上で何に課題を感じ、何を求めているのかを定量・定性両面から徹底的に分析。
3. 施策の設計と prioritized: 分析結果に基づき、従業員の体験に特に大きな影響を与えると思われる領域に焦点を当て、具体的な施策を設計。優先順位付けを行い、ロードマップを作成。
4. パイロット導入とフィードバック: 一部の部署で施策をパイロット導入し、従業員からのフィードバックを収集。効果測定を行い、課題を抽出。
5. 全社展開と継続的な改善: パイロット導入で得られた知見を活かし、施策を全社に展開。展開後も定期的なサーベイや座談会を通じて効果測定と従業員の声を収集し、継続的な改善サイクルを回す。

直面した課題と、それに対する具体的な解決策

• 課題1：従業員の声は集まるものの、具体的なアクションに繋がりづらいという不信感: 多くの従業員が「意見を言っても何も変わらないのでは」という懸念を抱いていました。

  • 解決策1：フィードバックに対するアクションの徹底的な可視化: 収集した意見のうち、特に多かったものや重要なものについては、それに対してどのようなアクションを検討・実行しているのか、その進捗状況や結果を全従業員に分かりやすく定期的に共有しました。デジタル目安箱に寄せられた個別の意見に対しても、可能であれば丁寧に返信を行うようにしました。

• 課題2：新しいツールや制度への抵抗感と浸透の遅れ: 特にデジタルツールの導入や、柔軟な働き方における自己管理・自己責任に対する戸惑いが見られました。

  • 解決策2：丁寧な説明とサポート、成功事例の共有: 新しいツールについては、操作マニュアルだけでなく、利用のメリットや具体的な活用法を解説する動画を作成し、誰でもアクセスできるようにしました。社内には「働き方改革アンバサダー」を募り、各部署での相談役や成功事例の発信を依頼。また、柔軟な働き方を効果的に実践している従業員の事例を社内報やイントラネットで積極的に紹介し、具体的なイメージを持ってもらえるよう努めました。

• 課題3：マネージャー層の意識改革とスキル不足: メンバーのキャリア支援や、柔軟な働き方下でのチームマネジメント、フィードバックの取り方など、マネージャーに求められる役割が変化したことに、多くのマネージャーが戸惑いを感じていました。

  • 解決策3：マネージャー向け研修プログラムの実施と評価への反映: マネージャーを対象に、1on1面談の進め方、メンバーのキャリア目標設定支援、リモートチームのエンゲージメント維持、多様な働き方に対応した目標設定と評価に関する集中的な研修プログラムを実施しました。また、人事評価体系において、メンバーの育成支援や多様な働き方の促進といった項目を重視するよう変更し、意識改革を促しました。

導入による効果・成果

EX起点のアプローチによる働き方改革は、以下の具体的な効果をもたらしました。

• エンゲージメントスコアの向上: 定期パルスサーベイの結果、働き方改革開始前に比べて全社のエンゲージメントスコアが15ポイント向上しました。特に「会社への貢献意欲」「自身の成長実感」「上司との関係性」に関する項目で顕著な改善が見られました。
• 離職率の低下: 特に勤続年数3年未満の若手層の離職率が、改革前の年間12%から7%に低下しました。
• 社員満足度向上: EXサーベイでは、「働く時間の自由度」「キャリア開発機会の提供」「会社への意見反映」に関する満足度が大幅に向上しました。
• 生産性向上: 定量的な測定は難しい側面もありますが、特定のプロジェクトチームでは、コミュニケーションツールの活用により情報共有の速度が向上し、会議時間が平均20%削減されたというデータがあります。また、柔軟な働き方により、従業員の集中力が高まり、時間あたりのアウトプットが向上したという定性的な声が多く寄せられています。
• 採用への好影響: 多様な働き方と従業員を大切にする文化が社外に伝わり、採用応募者数が改革前の1.5倍に増加しました。特に、経験者採用において、求めるスキルセットを持つ候補者からの応募が増加しました。

取り組みが成功した要因分析

フューチャーパートナーズ社の事例が成功した主な要因は以下の通りです。

• 経営層の強いリーダーシップとコミットメント: 単なる人事施策としてではなく、企業文化変革、経営戦略として位置づけ、経営層が率先してメッセージを発信し、リソースを投下しました。
• 「従業員中心」の一貫したアプローチ: 施策の企画・実行・評価の全ての段階で、従業員の視点とニーズを最優先しました。単に制度を作るだけでなく、それが従業員の働く体験にどう影響するかを常に問い続けました。
• 定量・定性両面での効果測定と継続的な改善: パルスサーベイやEXサーベイ、座談会などを通じて、施策の効果を継続的に測定し、従業員のフィードバックに基づき柔軟に施策を改善しました。
• 部門横断での連携とマネージャーの巻き込み: 人事部門だけでなく、情報システム部門、各事業部門、そして特に重要な役割を担うマネージャー層を巻き込み、全社一体となって取り組みを推進しました。

今後の展望や継続的な取り組み

フューチャーパートナーズ社では、今回の成果に満足することなく、働き方改革を継続的な経営課題として捉えています。今後は、EXサーベイで得られたデータをさらに詳細に分析し、部署や世代ごとの個別ニーズに基づいた、よりパーソナルな働き方支援やキャリア開発支援の施策を検討していく予定です。また、従業員のスキルデータを活用し、個人の成長と組織のニーズをより戦略的にマッチングさせる取り組みも進めています。

まとめ

株式会社フューチャーパートナーズの事例は、多様な働き方改革を成功させるためには、単に新しい制度を導入するだけでなく、「従業員体験（EX）」という視点が極めて重要であることを示しています。従業員の声を丁寧に聞き、働く上で感じる課題やニーズに応えるための包括的な施策を実行し、その効果を継続的に測定・改善していくサイクルを回すことで、従業員のエンゲージメントと組織の生産性という、働き方改革の根幹にある目標を効果的に達成できることが分かります。

この事例が、貴社における働き方改革推進の一助となれば幸いです。