株式会社フューチャービジョン：リモートワークで失われたコミュニケーションを活性化し、生産性を維持向上させた事例
事例紹介：株式会社フューチャービジョン
株式会社フューチャービジョンは、テクノロジーソリューションを提供する企業です。全従業員がリモートワークへとシフトした際に生じたコミュニケーション課題と生産性維持の必要性に対し、戦略的な取り組みを行うことでこれを克服しました。本記事では、同社がどのように多様な働き方、特にリモートワーク環境下での課題を解決し、成功を収めたのか、その具体的なプロセスと成果をご紹介します。人事担当者の皆様が、自社の働き方改革を推進する上でのヒントとしていただければ幸いです。
多様な働き方導入の背景と目的
株式会社フューチャービジョンでは、以前から柔軟な働き方に関心はありましたが、多くの従業員がオフィスでの勤務を中心としていました。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、急遽全社的なリモートワークへの移行を余儀なくされました。
当初は業務継続性を確保できましたが、しばらくするといくつかの課題が顕在化しました。特に懸念されたのは、従業員間のコミュニケーション不足による情報格差や連携の遅れ、オンライン環境下での孤独感、そしてそれに伴う生産性低下のリスクでした。また、マネージャー層からは、部下の状況が見えづらくなったことによるマネジメントの難しさに関する声も挙がりました。
こうした状況に対し、同社は単にリモートワークを続けるのではなく、新しい働き方として定着させるために、以下の二つの目的を掲げました。
- リモートワーク環境下でのコミュニケーションを活性化し、従業員間の連携を強化すること。
- 新しい働き方においても、従業員の生産性を維持・向上させること。
これらの目的を達成するため、同社は多様な働き方を推進するためのプロジェクトを発足させました。
具体的な取り組み内容
株式会社フューチャービジョンは、上記目的を達成するために多角的なアプローチを取りました。
- コミュニケーションツールの徹底活用とルール策定:
- テキストベースの非同期コミュニケーションツール（Slack、Teamsなど）の全社的な利用を促進。部門やプロジェクトごとにチャネルを整備し、情報共有をオープンに行う文化を醸成しました。
- Web会議システム利用時の推奨ルールを設定（例：可能な範囲でカメラオン、会議開始時間の厳守、発言機会の均等化）。これにより、オンラインでも対面に近いコミュニケーションを目指しました。
- 意識改革とスキルアップのための研修:
- マネージャー向けに、リモートワークにおける部下の目標設定、進捗管理、信頼関係構築、精神的なケアに関するマネジメント研修を実施。
- 全従業員向けに、オンラインでの効果的なコミュニケーション方法、情報共有のベストプラクティス、セルフマネジメントに関する研修を提供しました。
- 新しい交流機会の創出:
- 業務とは直接関係のないオンラインでの「雑談タイム」を推奨。部署ごとや有志で気軽に参加できる場を設けました。
- 定期的なオンラインランチ会や懇親会を企画・奨励。参加費の一部を補助するなど、非公式な繋がりをサポートしました。
- 部門横断での少人数オンラインプロジェクトを試験的に導入し、普段関わりの少ない従業員同士の連携を促進しました。
- 物理的・経済的支援:
- リモートワーク手当を支給し、通信費や光熱費などの負担を軽減しました。
- 自宅での執務環境整備のため、モニターやオフィスチェアなどの備品貸与制度を導入しました。
導入プロセス
これらの取り組みは、段階的に計画・実行されました。
- 課題の明確化とプロジェクト発足: リモートワーク開始後、従業員アンケートやマネージャーからのヒアリングを通じて、コミュニケーションと生産性に関する具体的な課題を特定。経営層の賛同を得て、人事部門が主導するプロジェクトチームを発足させました。
- 施策の検討とパイロット実施: 特定された課題に対する解決策として、様々なツール活用法や交流施策、研修プログラムを検討。一部の部門やチームでパイロット実施し、効果測定と従業員からのフィードバック収集を行いました。
- 全社展開と継続的な改善: パイロットでの検証結果を踏まえ、施策を全社に展開。展開後も、定期的に従業員アンケート（エンゲージメントサーベイ含む）を実施し、効果測定と新たな課題の発見に努めました。得られたフィードバックはプロジェクトチームで分析し、施策の見直しや追加実施に活かしました。
- 推進体制: 人事部門が中心となり、IT部門はツール導入・運用、各部門のマネージャーはチーム内の実践と従業員ケア、広報部門は社内周知を担当するなど、部門横断的な推進体制を構築しました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
- 課題1：非同期コミュニケーションによる情報伝達のタイムラグや誤解の発生。
- 解決策： コミュニケーションの目的（情報共有、相談、指示など）に応じた適切なツールやチャネルの使い分けルールを明確化し、周知徹底しました。また、重要な決定事項や情報は、特定のチャネルだけでなく、週1回の全体共有会（オンライン）でも改めて周知するなど、複数チャネルでの情報発信を意識しました。
- 課題2：従業員間の偶発的な交流がなくなり、組織の一体感が希薄化する懸念。
- 解決策： 業務から離れた「意図的な非公式交流機会」を積極的に設けました。オンライン雑談タイムやランチ会の奨励に加え、ランダムに少人数のグループを作りオンラインで交流する仕組みを導入するなど、自然な繋がりを生み出すための工夫を凝らしました。
- 課題3：リモート環境でのマネジメントに不慣れなマネージャーの戸惑いや負担。
- 解決策： マネージャー研修を継続的に実施し、ティーチングよりもコーチングを意識した1on1の実施方法や、信頼に基づく目標管理の手法などを体系的に提供しました。また、人事部門にマネージャーからの相談窓口を設け、個別の課題解決をサポートしました。
導入による効果・成果
これらの取り組みの結果、株式会社フューチャービジョンでは顕著な効果が見られました。
- 従業員エンゲージメントの向上: 定期的なエンゲージメントサーベイにおいて、「チームとの繋がり」「情報共有の円滑さ」「会社への貢献実感」といった項目でスコアが改善しました。特に、「リモートでもチームとの連携を感じる」という肯定的な回答が増加しました。
- 生産性の維持・向上: プロジェクトの完了率やサービス開発のリードタイムといった社内指標において、リモートワーク移行前と同等、あるいは微増という結果が得られました。これは、コミュニケーションの質が維持・向上したこと、そして従業員が場所にとらわれず効率的に働ける環境が整ったことによる効果と考えられます。
- 従業員の安心感と満足度向上: リモートワークを継続できることに対する従業員の肯定的な意見が増え、「柔軟な働き方ができる会社」というイメージが社内外に浸透しました。これにより、離職率の抑制にも一定の効果が見られました。
- 部門横断的な連携の促進: オンラインプロジェクトや交流機会を通じて、以前は関わりの少なかった部門間のコミュニケーションが活性化し、新たな協業の機会が生まれました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社フューチャービジョンの取り組みが成功した主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: リモートワークを単なる一時的な措置ではなく、新しい働き方として定着させるという経営層の明確な意志と、リソース投入へのコミットメントがありました。
- 全社的な意識改革の推進: ITツール導入だけでなく、研修や社内広報を通じて、従業員一人ひとりのコミュニケーションに対する意識やリモートワークスキル向上を促しました。
- ITツールの効果的な活用とリテラシー支援: 既存ツールの活用方法を見直したり、必要に応じて新たなツールを導入したりするだけでなく、従業員がそれらを使いこなせるように継続的なサポートを提供しました。
- 従業員の声を聞きながらの継続的な改善: 一度施策を実行して終わりではなく、定期的なアンケートやヒアリングを通じて従業員の生の声を聞き、課題を早期に発見し、柔軟に施策を修正・追加していきました。
- 人事部門と現場の密な連携: 人事部門が施策を企画するだけでなく、各部門のマネージャーと連携し、現場の状況に合わせた実践をサポートしました。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社フューチャービジョンでは、今後もリモートワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークを基本としつつ、多様な働き方をさらに進化させていく方針です。具体的には、場所や時間にとらわれずに最大のパフォーマンスを発揮できる環境整備を目指し、さらなるデジタルツールの活用推進や、多様な働き方に対応した新たな評価制度・人事制度の設計に取り組んでいく予定です。また、従業員のウェルビーイング向上にも注力し、心身ともに健康で働くことができる環境を整備し続けるとしています。
まとめ
株式会社フューチャービジョンの事例は、予期せぬ働き方の変化に直面した際、課題を正面から捉え、多角的なアプローチで克服できることを示しています。特に、コミュニケーション不足という多くの企業がリモートワークで経験する課題に対し、ツール、人、仕組みの3つの側面から戦略的にアプローチし、明確な成果を上げた点は参考になるでしょう。多様な働き方の推進を検討されている人事担当者の皆様にとって、具体的な取り組みのヒントや、課題解決に向けた示唆を得られる事例と言えるのではないでしょうか。