株式会社グローバルソリューションズ:ジョブ型移行とOKR導入で実現した自律的な働き方と組織パフォーマンス向上事例
株式会社グローバルソリューションズが取り組んだジョブ型人事制度とOKR導入による働き方変革
多様な働き方が求められる現代において、企業は組織のあり方そのものを見直す必要に迫られています。従来のメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行や、目標管理手法の刷新は、その有力な選択肢の一つです。
今回は、総合ITサービスを提供する株式会社グローバルソリューションズ(仮称)が、ジョブ型人事制度への移行とOKR(Objectives and Key Results)の全社導入を通じて、どのように従業員の自律性を高め、組織全体のパフォーマンスを向上させたのか、その具体的な取り組み事例をご紹介します。
働き方変革の背景・目的:市場変化への対応と従業員の成長促進
グローバルソリューションズでは、急速な技術進化と市場の変化に対応するため、組織の柔軟性と俊敏性の向上が喫緊の課題となっていました。従来のメンバーシップ型人事制度では、年功序列の色が強く、個々の社員が担うべき役割や期待される成果が不明確になりがちでした。これにより、従業員のキャリア自律が促されにくく、組織全体の目標達成に対するオーナーシップ意識が十分に醸成されていないという課題を抱えていました。
また、従来のMBO(目標管理制度)は期初に設定して終わりになりがちで、日々の業務と連動せず、形骸化している側面も見受けられました。このような状況を打破し、個々の従業員が自身の役割と組織目標との繋がりを明確に認識し、自律的に高い目標に挑戦する文化を醸成することが、働き方変革の主要な目的となりました。
そこで同社は、「個人の専門性と貢献度を重視するジョブ型への移行」と、「挑戦的な目標設定と定期的な進捗確認により、組織と個人の連携を強化するOKRの導入」を組み合わせることで、これらの課題を解決し、変化に強く、成長し続ける組織への変革を目指すこととしました。
具体的な取り組み内容:ジョブ型人事制度とOKRの同時導入
グローバルソリューションズでは、以下の具体的な取り組みを実施しました。
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ジョブ型人事制度の設計・導入:
- 国内外のグループ会社を含めた全職種・全社員を対象に、職務を定義し、それぞれの職務に必要なスキル、経験、責任範囲を明確にする「ジョブディスクリプション」を作成しました。
- 作成したジョブディスクリプションに基づき、等級制度と報酬制度を再設計しました。これにより、担当する職務の価値や貢献度に応じた評価・報酬体系へと移行しました。
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OKRの全社導入と運用:
- 経営層、部門、チーム、個人の各階層で、連鎖的に整合性の取れたOKRを設定するフレームワークを構築しました。
- 四半期ごとにOKRを設定し、週次のチェックインミーティングや月次のレビュー会議を通じて、進捗確認、課題抽出、軌道修正を行う運用プロセスを定着させました。
- 目標管理・成果追跡のためのITツールを導入し、OKRの可視化と運用効率化を図りました。
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評価制度との連携:
- ジョブ型で定義された職務遂行度合いと、OKRの達成度を組み合わせた評価制度を設計しました。OKRの達成度はあくまで「目標達成に向けた挑戦度合いと貢献」を測る指標とし、評価においてはプロセスや難易度も加味するよう調整しました。
導入プロセス:全社を巻き込む丁寧なコミュニケーションと段階的な展開
変革を成功させるため、グローバルソリューションズは以下のプロセスで導入を進めました。
- プロジェクトチーム組成: 人事部門が主導しつつ、経営企画、IT部門、各事業部門の代表者からなる全社横断的なプロジェクトチームを立ち上げました。
- 外部コンサルタント活用: ジョブ型人事制度設計やOKRフレームワーク構築に関して、専門知識を持つ外部コンサルタントの支援を受けました。
- 経営層のコミットメント: 経営トップが改革の必要性、目的、目指す姿を繰り返し社員に語りかけ、強いリーダーシップを示しました。
- 丁寧な社員説明会とワークショップ: 新制度やOKRの考え方、運用方法について、全社員向けの説明会を複数回実施しました。また、特に管理職向けには、部下のOKR設定支援やチェックインの方法に関する実践的なワークショップを繰り返し行いました。
- パイロット導入とフィードバック: 一部の部門で先行してジョブ型とOKRの運用を開始し、現場からのフィードバックを収集・分析して、全社展開に向けた制度やプロセスの改善を行いました。
- ITツールの選定と導入: 運用効率化のため、既存システムとの連携も考慮した目標管理ツールを選定し、段階的に導入・展開しました。
直面した課題と解決策:浸透への壁と運用定着の難しさ
導入プロセスにおいては、いくつかの大きな壁に直面しました。
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課題1:従業員、特にミドルマネジメントの理解と浸透: ジョブ型への移行に対する不安や、OKRを単なる新たな管理手法として捉える抵抗感が見られました。特に、従来の年功序列に慣れた層や、OKRの「挑戦的な目標」という概念に戸惑う管理職が多く存在しました。
- 解決策1:継続的な対話と個別サポート: 全社説明会に加え、部門別説明会や少人数の座談会を繰り返し実施し、質疑応答の機会を増やしました。また、管理職向けには、OKRコーチング研修を必須とし、個別の相談にも丁寧に対応しました。成功事例を社内広報で共有するなど、ポジティブな側面の発信にも注力しました。
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課題2:OKR設定・運用における形式化や目標の質のばらつき: OKRの概念は理解されても、実際に挑戦的で、かつ組織目標と連動した意味のあるOKRを設定すること、そしてそれを継続的に「活かす」運用が難しいという声があがりました。
- 解決策2:OKR設定ワークショップの実施と運用ルールの見直し: 各チームでのOKR設定時に、OKRコーチや人事担当者が伴走するワークショップを実施しました。また、週次のチェックインを形骸化させないために、短い時間でも必ず行う、チーム内で進捗を共有・議論するといった具体的な運用ルールを明確化しました。ツール活用による進捗の見える化も、定着に貢献しました。
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課題3:ジョブ型評価とOKR達成度の連携のバランス: OKRが評価に直結しすぎると、挑戦的な目標設定が阻害される懸念がありました。
- 解決策3:評価制度におけるOKRの位置づけの明確化: OKRの達成度を評価に反映する割合を限定的にし、職務遂行度やバリュー発揮度を重視するバランスとしました。OKRはあくまで目標達成に向けたプロセスや貢献度を測る補助的な指標として活用し、評価者トレーニングでその趣旨を徹底しました。
導入による効果・成果:生産性向上とエンゲージメントの高まり
これらの取り組みの結果、グローバルソリューションズでは以下のような効果・成果が見られました。
- 生産性向上: プロジェクトの目標達成率が導入前と比較して約15%向上しました(社内データに基づく)。OKRによる目標の明確化と頻繁な進捗確認が、チームのアウトプット最大化に貢献したと考えられます。また、個々の役割が明確になったことで、無駄な重複作業が削減されました。
- 従業員エンゲージメント向上: 定期的に実施しているエンゲージメントサーベイにおいて、「自身の仕事が会社の目標にどう貢献しているか理解している」という項目のスコアが、導入前60%から75%に上昇しました。また、「自身が成長するために必要なスキルや経験が明確である」という項目のスコアも向上し、キャリア自律意識の高まりが見られました。
- 組織パフォーマンスの向上: 新規事業開発におけるアイデアソンからの実行フェーズへの移行率が向上するなど、変化への対応スピードが増し、組織全体としての俊敏性が高まりました。
- 離職率への影響: 特に若手・中堅層において、「自身の貢献が正当に評価されている」という意識が高まったことから、離職率が緩やかに低下傾向を示しています。
取り組みが成功した要因分析:経営の意志と現場との連携
グローバルソリューションズの働き方変革が成功した主な要因として、以下の点が挙げられます。
- 経営層の強いリーダーシップと継続的なメッセージ発信: 変革の必要性とその先にあるビジョンを経営トップが明確に示し続けたことが、全社の意識変革を牽引しました。
- 人事部門と現場の緊密な連携: 人事部門が制度設計の専門性を発揮するだけでなく、各部門の意見や課題を丁寧にヒアリングし、現場の実情に寄り添った制度設計や運用調整を行ったことが、スムーズな導入につながりました。
- 「対話」と「フィードバック」を重視した浸透活動: 一方的な制度説明に終わらず、社員一人ひとりが「自分事」として捉えられるよう、対話やワークショップ、個別相談の機会を豊富に設けたことが、理解と納得感を醸成しました。
- ITツールの効果的な活用: 目標の可視化、進捗共有、フィードバックなどを円滑に行えるツールを導入したことが、OKR運用の定着と生産性向上を後押ししました。
今後の展望:文化としての定着とさらなる多様な働き方の追求
グローバルソリューションズでは、今回導入したジョブ型人事制度とOKRを単なる制度として終わらせず、組織文化として根付かせることを目指しています。今後は、より頻繁な1on1の実施や、多面評価の導入など、従業員間のフィードバック文化をさらに醸進める予定です。
また、ジョブ型で定義された職務をベースとした、より柔軟なキャリアパス(例:専門職コースの拡充、社内副業制度)や、個々の職務内容に応じた最適な働き方(リモートワーク、フレックスタイムなど)の選択肢を増やすことで、さらなる多様な働き方を追求していくとしています。
まとめ
株式会社グローバルソリューションズの事例は、ジョブ型人事制度とOKRの導入が、単に評価・目標管理の方法を変えるだけでなく、従業員の自律性を高め、組織全体のパフォーマンスと変化対応力を向上させる強力なドライバーとなりうることを示しています。
人事担当者の皆様にとって、本事例における課題解決のアプローチや具体的な効果測定の方法は、自社の働き方改革を推進する上で多くの示唆を与えるのではないでしょうか。重要なのは、制度を導入すること自体ではなく、それを組織の目的達成にいかに「活かす」か、そしてその過程で生じる「人」に関わる課題にいかに丁寧に向き合うかであると言えるでしょう。