株式会社ヒューマンケア:メンタルヘルスケアプログラム導入と利用促進で実現した従業員の心身の健康向上と組織活性化事例
株式会社ヒューマンケア:メンタルヘルスケアプログラム導入と利用促進で実現した従業員の心身の健康向上と組織活性化事例
1. はじめに
今日の多様な働き方においては、従業員の心身の健康維持は、単なる福利厚生の枠を超え、企業の持続的な成長を支える重要な経営課題となっています。特にリモートワークやハイブリッドワークが浸透する中で、従業員が抱えるストレスや孤立感といったメンタルヘルスに関する課題への対応は、人事部門にとって喫緊のテーマと言えるでしょう。
本記事では、多様な働き方を推進する中で、従業員のメンタルヘルスケアを強化し、心身の健康と組織の活性化を実現した株式会社ヒューマンケアの具体的な取り組み事例をご紹介します。人事担当者の皆様が、自社のメンタルヘルス支援体制構築や見直しの参考にしていただけるような、実践的なノウハウと成果に焦点を当てて解説します。
2. 導入の背景と目的:変化する働き方の中での従業員ケアの重要性
株式会社ヒューマンケアでは、数年前から積極的に多様な働き方(リモートワーク、フレックスタイム制度など)の導入を進めていました。これにより、従業員のワークライフバランス向上や生産性向上といった一定の成果は見られました。
しかしその一方で、特にリモートワークを主体とする従業員から「長時間労働になりがち」「同僚や上司とのコミュニケーションが希薄になった」「自宅での勤務はオンオフの切り替えが難しい」といった声が散見されるようになりました。また、ストレスチェックの結果から高ストレス者率が微増傾向にあること、休職者数も横ばいからやや増加傾向にあることが、人事部門の懸念材料となっていました。
企業として従業員の安全配慮義務を果たすことはもちろんですが、従業員が心身ともに健康な状態でなければ、多様な働き方のメリットを最大限に引き出すことは困難です。むしろ、メンタルヘルスの不調は生産性の低下や離職リスクの上昇に直結します。
こうした背景から、同社では「従業員一人ひとりが、どこでどのように働いていても、心身ともに健康で、安心して働ける環境を整備すること」を最重要課題の一つと位置づけ、包括的なメンタルヘルスケアプログラムの導入を決定しました。最終的な目的は、従業員の心身の健康維持・向上を通じて、エンゲージメントを高め、組織全体の活性化と生産性向上につなげることでした。
3. 具体的な取り組み:包括的なメンタルヘルスケアプログラムの構築
株式会社ヒューマンケアが導入・強化したメンタルヘルスケアプログラムは、以下の要素で構成されています。
- 外部EAP(従業員支援プログラム)サービスの導入:
- 専門機関によるカウンセリング窓口を設置。従業員とその家族が、仕事やプライベートの悩みについて、匿名で相談できる体制を構築しました。電話、Web、対面など、多様な相談方法を提供し、利用しやすい環境を整備しました。
- 社内産業保健スタッフとの連携強化:
- 産業医、保健師と人事部門が密に連携し、ハイリスク者への早期対応や、職場環境改善に関するアドバイスを受ける体制を強化しました。定期的な面談に加え、必要に応じてオンライン面談も実施できるようにしました。
- メンタルヘルス研修の実施:
- 全従業員向け研修: ストレスのメカニズム、セルフケアの方法、相談窓口の活用方法などを学ぶオンライン研修を実施しました。
- 管理職向けラインケア研修: 部下の変化に気づくポイント、適切な声かけの方法、社内外の相談窓口への繋ぎ方、ハラスメントにならない配慮点など、実践的な内容に重点を置いた研修を定期的に実施しました。
- ストレスチェック結果の積極的な活用:
- 全従業員に対し、年1回のストレスチェックを義務化しました。高ストレス者には産業医面談を強く推奨するとともに、本人の同意のもと、部署単位の結果を分析し、職場環境改善に活かすためのデータとして活用しました。
- 社内相談窓口の周知と啓発活動:
- 社内報、ポータルサイト、社内SNSなどを活用し、利用できる相談窓口の種類、利用方法、プライバシー保護に関する方針などを繰り返し丁寧に周知しました。「一人で抱え込まず、まずは相談すること」の重要性を啓発するメッセージを、経営層からも発信しました。
4. 導入プロセスと推進体制:計画から実行、定着まで
本プログラムの導入は、人事部門が中心となり、産業医、保健師、法務部門、IT部門と連携するプロジェクトチームを発足させ、約1年をかけて段階的に進められました。
- 課題分析とニーズ把握:
- 既存のストレスチェック結果、休職・離職データ、従業員アンケート、各部署のヒアリングを通じて、メンタルヘルスに関する具体的な課題や従業員のニーズを詳細に分析しました。
- プログラム設計と経営層への提言:
- 分析結果に基づき、どのようなプログラムが必要か、既存のリソース(産業保健スタッフなど)をどう活用するかなどを検討。複数のEAPサービスを比較検討し、同社の規模やニーズに合ったサービスを選定しました。プログラム全体の設計と、投資対効果を含めた経営層への提言資料を作成しました。
- 契約と体制構築:
- 経営層の承認を得て、選定したEAPサービス提供会社と契約を締結。同時に、社内の産業保健体制との連携方法を具体的に設計し、スムーズな情報連携や連携体制を構築しました。
- 社内周知と研修実施:
- プログラム開始にあたり、全従業員に対して丁寧な説明会を実施。相談窓口の利用方法だけでなく、なぜ会社がこのプログラムを導入するのか、利用にあたってプライバシーはどのように保護されるのか、といった従業員の不安や疑問に答えることに重点を置きました。その後、全従業員および管理職向けの研修を順次実施しました。
- 効果測定と改善:
- プログラム開始後も、EAPサービスの利用状況レポート、ストレスチェック結果、休職・離職者数の推移、従業員アンケートなどを定期的に確認し、効果測定を行いました。特に利用率が伸び悩むなどの課題が見られた際には、原因を分析し、周知方法の見直しやプログラム内容の一部改訂といった改善策を講じました。
5. 直面した課題と解決策:利用率向上と相談しやすい環境づくり
導入当初、同社が直面した最大の課題は、EAPサービスをはじめとする相談窓口の「利用への抵抗感」でした。人事部門が熱心に周知しても、「相談したことが会社に知られたら評価に影響するのでは」「そもそも何を相談していいか分からない」といった声が聞かれ、期待したほど利用率が伸びませんでした。
この課題に対し、同社は以下の具体的な解決策を実行しました。
- プライバシー保護の徹底と繰り返し周知:
- 相談内容や利用事実が会社に伝わることは絶対にないこと、契約しているEAPサービス提供会社は高い倫理基準と守秘義務を負っていることを、パンフレットや社内報、研修で繰り返し、かつ強いメッセージで伝えました。EAPサービス提供会社からも、匿名性・独立性について従業員に直接説明する機会を設けました。
- 利用方法の多様化と手軽さの強調:
- 電話だけでなく、時間や場所を選ばないオンライン相談やメール相談の選択肢があることを強調しました。「少し気分が落ち込んでいる」「漠然とした不安がある」といった些細なことでも気軽に相談できる窓口であることを伝えました。
- 経営層・管理職からの積極的なメッセージ発信:
- 社長や役員が社内イベントや社内報で「心身の健康は何よりも大切」「悩みを抱え込まず、利用できる制度は積極的に活用してほしい」といったメッセージを自身の言葉で語りました。管理職に対しても、部下が相談しやすい雰囲気作りや、相談窓口の利用を推奨することの重要性を繰り返し伝えました。
- ラインケア研修の強化:
- 管理職が部下の変化に気づき、適切なファーストタッチを行い、相談窓口に繋ぐスキルを向上させるため、ラインケア研修をさらに深掘りし、ロールプレイングを取り入れるなど実践的な内容に改善しました。
これらの取り組みにより、従業員の「相談すること」への心理的なハードルを下げ、プログラム利用率の向上につなげることができました。
6. 導入による効果と成果:数値データと定性的な変化
メンタルヘルスケアプログラム導入後、同社では以下の定量・定性的な効果と成果が確認されています。
- 定量データ:
- ストレスチェックの高ストレス者率: プログラム導入前の〇%から、1年後には△%に減少しました。特に、相談窓口の利用率が向上した部署で顕著な改善が見られました。
- 休職率: 導入前の年間平均〇%から、導入後1年間で△%に低下しました。メンタルヘルス不調による休職が減少傾向にあります。
- EAPサービス利用率: 導入初年度は〇%でしたが、2年目には△%に増加しました。特に、管理職向け研修後の部下からの紹介による利用が増えています。
- エンゲージメントサーベイ: 「心身の健康に関する会社のサポート体制」に関する満足度項目で、導入前と比較して△ポイント上昇しました。また、「職場の心理的安全性」に関するスコアも向上傾向が見られます。
- 定性的な変化:
- 従業員からは「以前より気軽に相談できる雰囲気になった」「管理職に話を聞いてもらいやすくなった」といった声が聞かれるようになりました。
- 管理職からは「部下の様子に気を配るようになった」「相談窓口の情報を伝えられるようになった」といった声があり、マネジメントへの意識変化が見られました。
- 離職者へのヒアリングでは、「相談できる場所があったことで踏みとどまることができた」といった声もあり、人材定着への貢献も確認されています。
これらの結果は、単に制度を導入するだけでなく、その利用を促進し、相談しやすい環境を整備することが、従業員の心身の健康維持、さらには組織全体の活力向上につながることを示しています。
7. 成功要因の分析:何が成果につながったのか
株式会社ヒューマンケアのメンタルヘルスケアプログラムが成功した要因は複数考えられます。
- 経営層の強いコミットメント:
- 単なる建前ではなく、経営層が心身の健康を経営課題として捉え、積極的にメッセージを発信し、必要な予算を確保したことが、社内全体にその重要性を浸透させる上で極めて重要でした。
- 人事部門と産業保健スタッフの密な連携:
- 人事制度や従業員情報に詳しい人事部門と、医学的・専門的知見を持つ産業保健スタッフが緊密に連携し、情報共有やケース対応を行ったことが、早期対応や適切な支援に繋がりました。
- 丁寧かつ継続的な周知・啓発活動:
- 一度きりの告知ではなく、多様なチャネルを使い、繰り返しプログラムの存在意義や利用方法、プライバシー保護について周知したことが、従業員の理解と安心感に繋がりました。
- 管理職の理解と協力:
- 管理職がラインケアの重要性を認識し、研修を通じてスキルを習得し、実践したことが、現場での早期発見・早期対応を可能にし、相談しやすい職場環境の醸成に大きく貢献しました。
8. 今後の展望:継続的な支援強化に向けて
株式会社ヒューマンケアでは、今回の成果を基に、メンタルヘルスケアへの取り組みをさらに強化していく予定です。具体的には、以下のような展望を持っています。
- プログラム内容の継続的な見直しと、従業員のニーズに合わせたカスタマイズ。
- 若手層や特定の職種・部署に特化したメンタルヘルス支援策の検討。
- ハラスメント対策や心理的安全性に関する研修のさらなる強化。
- 休職者のスムーズな復職を支援するプログラムの拡充。
- 取り組みの効果測定指標をさらに詳細化し、PDCAサイクルを回すこと。
多様な働き方が進化し続ける中で、従業員の心身の健康支援は終わりなきテーマです。同社は、時代の変化に対応しながら、従業員一人ひとりが輝ける環境づくりを目指していきます。
9. まとめ:人事担当者への示唆
株式会社ヒューマンケアの事例は、多様な働き方を推進する企業において、メンタルヘルスケアが単なる制度導入に留まらず、従業員の利用促進や相談しやすい環境整備まで含めた包括的なアプローチによって、心身の健康向上と組織活性化という具体的な成果につながることを示しています。
特に、従業員の利用への抵抗感をいかに払拭するか、管理職がどのように部下をサポートできるか、といった現場目線の課題解決が成功の鍵となります。本事例が、多様な働き方における従業員ケア体制の構築や見直しを検討されている人事担当者の皆様にとって、具体的なヒントとなれば幸いです。