株式会社クロスワークス:育児・介護両立支援を強化し、多様な人材の定着と活躍を推進した事例
株式会社クロスワークス:育児・介護両立支援を強化し、多様な人材の定着と活躍を推進した事例
「働き方変革 事例集」では、多様な働き方を成功させた企業の具体的な取り組みをご紹介しています。今回は、育児や介護を担う従業員の離職を防ぎ、多様な人材が活躍できる環境を整備した株式会社クロスワークスの事例を取り上げます。
導入の背景と目的
株式会社クロスワークスでは、近年、従業員の高齢化や共働き世帯の増加に伴い、育児や介護を理由とした従業員の離職が増加傾向にありました。特に、専門性の高い中堅社員や女性社員の離職は、企業競争力の維持・強化において看過できない課題となっていました。また、潜在的な離職予備軍の存在は、従業員の士気や生産性にも影響を及ぼす懸念がありました。
これらの背景から、同社は「育児・介護と仕事の両立支援強化」を喫緊の経営課題と位置づけ、以下の目的を掲げました。
- 育児・介護を担う従業員が安心して働き続けられる環境整備
- 多様なライフステージにある人材の定着率向上
- 時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の浸透
- 企業全体の生産性および従業員エンゲージメント向上
具体的な取り組み内容
クロスワークスでは、上記の目的に向け、以下の多角的な取り組みを実施しました。
- 柔軟な勤務制度の拡充:
- フレックスタイム制度の弾力化: コアタイムを撤廃、または部署特性に応じて柔軟に設定可能としました。
- 在宅勤務制度の拡充: 週数日の制限を撤廃し、業務遂行に支障がない範囲で利用を可能としました。
- 育児・介護関連制度の見直し:
- 育児・介護休業制度の柔軟化: 法定以上の期間に加え、分割取得や短時間勤務制度の利用要件を緩和しました。
- 子の看護休暇・介護休暇の拡充: 有給での取得日数増加や、時間単位での取得を可能としました。
- 相談体制の整備:
- 社内相談窓口の設置に加え、外部の専門機関と提携し、育児や介護に関する相談に匿名で対応できる仕組みを導入しました。
- 管理職向け研修の実施:
- 多様な働き方への理解促進、個別の事情への配慮、適切な労務管理、成果による公平な評価に関する研修を実施しました。
- テクノロジーの活用:
- オンライン会議ツール、クラウド型情報共有ツール、勤怠管理システムの導入により、非対面でのコミュニケーションや業務遂行を支援しました。
導入プロセス
本取り組みは、経営層の強いイニシアチブのもと、人事部が主導するプロジェクトチームを設置して推進されました。
- 現状分析とニーズ把握: 全従業員へのアンケート、対象部門へのヒアリングを実施し、育児・介護両立に関する現状の課題やニーズを詳細に把握しました。
- 制度設計と社内調整: 把握したニーズに基づき、制度案を設計。経営層や労働組合との協議を重ね、合意形成を図りました。特に、制度変更が現場にもたらす影響について、入念なシミュレーションと調整を行いました。
- トライアル実施とフィードバック: 一部の部署で先行して新しい制度を導入し、運用上の課題や従業員の反応を収集しました。得られたフィードバックをもとに制度や運用方法を改善しました。
- 全社展開と周知徹底: 改善後の制度を全社に展開。イントラネットでの情報公開、説明会の開催、ハンドブック配布など、丁寧な周知活動を行いました。
- 継続的なモニタリングと改善: 制度導入後も、利用状況のモニタリング、従業員アンケートの定期実施、管理職からのヒアリングを通じて効果測定と課題抽出を行い、継続的な制度改善に努めています。
直面した課題と解決策
- 課題1:管理職の理解不足と運用のバラつき
- 柔軟な働き方に対する従来の固定観念や、部下の多様な働き方をどう管理・評価すれば良いか戸惑う管理職が見られました。
- 解決策: 管理職向け研修を必須化し、制度の趣旨、運用ルール、評価方法、多様性への配慮の重要性を徹底的に教育しました。また、人事部内に相談窓口を設け、個別のケースに対応するサポート体制を構築しました。
- 課題2:在宅勤務におけるコミュニケーションの質の低下
- 対面での気軽な相談や雑談が減り、チーム内のコミュニケーションが希薄化する懸念が生じました。
- 解決策: 全従業員にオンライン会議ツールとチャットツールの活用を推奨し、ツールの操作方法に関する研修を実施しました。また、定期的なオンラインでのチームミーティングや、非公式なオンライン交流の機会設定を推奨しました。
- 課題3:制度利用者の評価に対する従業員の懸念
- 育児や介護で時間制約がある場合、昇進や昇給に不利になるのではないかという懸念が一部の従業員から聞かれました。
- 解決策: 評価基準を、勤務時間ではなく「成果」に重きを置くよう見直しました。目標設定プロセスを透明化し、個人の状況に応じた柔軟な目標設定を支援。評価面談で制度利用が評価に影響しないことを明確に伝え、公平性を徹底しました。
導入による効果・成果
本取り組みの導入により、以下のような具体的な効果・成果が見られました。
- 離職率の低減: 育児・介護を理由とする離職率が、導入前の年間平均の約30%減となりました(特に女性社員の間で顕著)。
- 復職率の向上: 育児休業からの復職率が95%に向上しました(導入前90%)。
- 従業員エンゲージメントの上昇: 定期的な従業員サーベイにおいて、「会社は多様な働き方を支援している」という項目への肯定的な回答が増加し、組織全体のエンゲージメントスコアも向上傾向を示しました。
- 採用競争力の強化: 企業の採用サイトや説明会で本取り組みを紹介したところ、多様な働き方を求める層からの応募が増加し、採用ブランディングに寄与しています。
- 生産性の維持・向上: 定量的なデータ分析によると、一部の部署では、柔軟な働き方の導入後も生産性が維持・向上していることが確認されました。通勤時間の削減分を業務や自己啓発に充てられるようになった、集中できる環境で業務効率が上がった、といった定性的な声も聞かれています。
取り組みが成功した要因分析
- 経営層の強いコミットメント: トップダウンでの推進が、社内の意識改革や制度導入のスピードに大きく影響しました。
- 従業員との対話重視: アンケートやヒアリング、トライアル導入によるフィードバック収集など、現場の声を丁寧に拾い上げ、制度設計や運用改善に反映させたことが、従業員の納得感と制度利用の促進につながりました。
- 制度と文化・マネジメントの連携: 制度導入だけでなく、管理職研修や評価制度の見直しといった、組織文化やマネジメントスタイルの変革を同時に行ったことが、取り組みの定着と効果発揮に不可欠でした。
- テクノロジーの適切な活用: 柔軟な働き方を支えるインフラとして、必要なツールの導入と利用促進を迅速に進めました。
今後の展望と継続的な取り組み
株式会社クロスワークスでは、本取り組みを一過性のものとせず、今後も継続的な改善を進めていく方針です。具体的には、制度利用状況の定期的な評価、従業員ニーズの継続的な把握、テクノロジー活用のさらなる深化(例:バーチャルオフィスの導入検討)、そして育児・介護支援にとどまらない、多様な背景を持つ従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できるダイバーシティ&インクルージョンの推進を目指しています。
この事例は、育児や介護といった特定のライフイベントに焦点を当てつつも、柔軟な勤務制度や組織文化の変革が、多様な人材の定着と活躍、そして企業全体の競争力強化につながる可能性を示唆しています。自社の働き方改革を進める上で、ご参考になれば幸いです。