株式会社インクルーシブキャリア:多様なライフイベントに対応する両立支援制度拡充で、従業員のキャリア継続とエンゲージメント向上を実現した事例
ウェブサイト「働き方変革 事例集」をご覧いただき、ありがとうございます。本記事では、多様な働き方を推進し、企業の成長に繋げている事例として、株式会社インクルーシブキャリアの取り組みをご紹介します。同社は、従来の育児や介護に関する制度に加え、さらに幅広い「ライフイベント」に対応するための支援制度を拡充することで、従業員のキャリア継続とエンゲージメント向上を実現しました。人事担当者の皆様にとって、多様な人材が長期的に活躍できる環境整備のヒントとなれば幸いです。
多様なライフイベントに対応する両立支援制度拡充の背景と目的
株式会社インクルーシブキャリアでは、かねてより従業員の多様な働き方を支援する制度を整備してまいりました。しかし、既存の育児や介護に関する制度だけではカバーしきれない、様々な個人的な事情やライフイベント(例えば、不妊治療、疾病治療、リカレント教育、ボランティア活動など)により、キャリアの継続や働き方の調整に課題を抱える従業員が存在することが社内アンケートや面談から明らかになりました。
特に、比較的若い世代では不妊治療と仕事の両立、ミドル世代では親族の支援や自身の病気治療、ベテラン層では自身のキャリアチェンジや社会貢献活動への参加など、そのニーズは多様化しています。これらの課題に対応し、従業員一人ひとりがライフイベントとキャリアを両立しながら、長期的に高いエンゲージメントを維持できる環境を整備することが、持続的な組織力強化に不可欠であると判断しました。これが、多様なライフイベントに対応するための両立支援制度拡充を検討した主な背景です。
目的としては、以下の3点を掲げました。 1. 多様な事情を抱える従業員が、安心してキャリアを継続できる環境を整備する。 2. ライフイベントによる離職や休職を抑制し、優秀な人材の定着率を向上させる。 3. 従業員のエンゲージメントとウェルビーイングを高め、組織全体の生産性を向上させる。
具体的な取り組み内容
インクルーシブキャリア社では、上記の目的達成のため、以下の具体的な取り組みを実施しました。
- 「ライフイベント支援休暇」の新設:
- 既存の慶弔休暇や特別休暇に加え、育児・介護には該当しないものの、従業員本人またはその家族に関する重要なライフイベント(不妊治療、疾病治療、家族の看護・看病、親族の冠婚葬祭に伴わない一時的な支援、地域活動・ボランティアへの参加など、多岐にわたる項目を例示)に対応するための有給休暇を、年間〇日(勤続年数に応じて付与日数変動)新設しました。
- 取得理由の申請は、プライバシーに配慮し、必要最低限の情報のみで可能としました。
- 柔軟な勤務制度の適用拡大:
- 従来の育児・介護のための短時間勤務制度に加え、ライフイベント支援休暇の対象となる事由についても、個別の事情に応じて一時的または継続的な短時間勤務やフレックスタイム制度の柔軟な利用を認めました。
- リモートワークについても、制度利用期間中の活用を積極的に推奨しました。
- 専門相談窓口の設置:
- 外部の専門家(例:社会保険労務士、カウンセラーなど)と提携し、ライフイベントに関する悩みや制度利用、両立に関する相談ができる窓口を設置しました。プライバシーが確保された状態で相談できるよう配慮しました。
- 情報提供と啓蒙活動:
- 社内ポータルサイトでの制度詳細の公開に加え、多様なライフイベントを経験しながら働く従業員のインタビュー記事掲載、管理職向けの両立支援研修などを実施し、制度の認知度向上と利用しやすい雰囲気の醸成に努めました。
導入プロセス
制度導入にあたっては、以下のステップで進めました。
- 現状分析とニーズ把握: 社内アンケート、従業員代表者とのヒアリング、人事部門・産業医・カウンセラーからの聞き取りなどを通じて、多様なライフイベントに関する潜在的なニーズや課題を詳細に把握しました。
- 制度設計と検討: 把握したニーズに基づき、人事部門が中心となり制度骨子案を作成しました。この際、法的な側面だけでなく、従業員の利用しやすさや公平性、現場での運用負荷なども考慮に入れました。従業員代表や各部門のマネージャー層との意見交換を重ね、制度内容を調整しました。
- 社内合意形成と規程改定: 経営層に制度拡充の意義と期待される効果を説明し、承認を得ました。就業規則等の関連規程を改定し、制度を明文化しました。
- 情報周知と運用開始: 全従業員に対し、制度の目的、内容、利用方法について、説明会や社内報、ポータルサイトを活用して丁寧に周知しました。管理職向けには、部下からの相談への対応方法や制度利用をサポートする上での留意点に関する研修を実施しました。〇年〇月より運用を開始しました。
- 効果測定と見直し: 導入後も、制度利用状況のモニタリング、従業員アンケート(エンゲージメント、制度満足度など)、管理職からのフィードバックなどを定期的に実施し、制度の効果測定と改善点の洗い出しを行っています。
推進体制としては、人事部門が主担当となり、D&I推進室、各事業部門のマネージャー、産業医、社外提携の相談窓口などが連携して取り組みを進めました。
直面した課題と解決策
本取り組みの導入・推進において、いくつかの課題に直面しました。
- 多様なニーズへの対応: 「多様なライフイベント」は非常に幅広く、全てを制度で網羅することは困難でした。
- 解決策: 制度の対象事由を例示として列挙しつつも、「その他、会社が認める事由」といった包括的な条項を設け、個別の事情に柔軟に対応できる余地を残しました。また、相談窓口で個別の状況に応じたアドバイスや制度活用方法を提案できるようにしました。
- プライバシーへの配慮と制度利用促進のバランス: 制度利用理由の詳細を把握しすぎるとプライバシー侵害のリスクがあり、一方で理由が不明確すぎると悪用リスクや現場での理解を得にくい可能性があります。また、個人的な事情を会社に知られることへの抵抗感から、制度利用が進まない懸念がありました。
- 解決策: 申請時には必要最低限の情報(例:「疾病治療のため」など)のみを求める形とし、詳細な説明は不要としました。一方で、管理職や人事担当者向けには、制度の目的と利用者のプライバシー保護の重要性について十分な研修を実施しました。相談窓口を外部に委託することで、会社に直接伝えにくい悩みも安心して相談できる環境を整備しました。ロールモデルとなる従業員(本人の同意を得た上で)の事例を紹介することで、「制度を使っても大丈夫」という安心感を醸成しました。
- 現場マネージャーの理解とサポート: 制度が拡充されても、部下の状況を理解し、制度利用をサポートするマネージャーの意識とスキルが不可欠です。
- 解決策: 全管理職を対象とした必須研修を実施し、多様なライフイベントに関する基礎知識、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の排除、部下との面談の際の留意点、制度利用に関するサポート方法などを学びました。また、制度利用者の情報(利用期間など)を、本人の同意を得た上で適切にマネージャーに共有し、スムーズな連携を図りました。
導入による効果・成果
多様なライフイベントに対応する両立支援制度の拡充により、以下の効果・成果が見られました。
- 制度利用率の向上: ライフイベント支援休暇の利用率は、導入前の類似休暇(利用目的が限定的だったもの)と比較して、年間〇〇%増加しました。特に、不妊治療や自身の病気治療に伴う利用が増加傾向にあります。
- 従業員エンゲージメントの向上: 導入後の従業員サーベイにおいて、「会社は個人のライフスタイルや事情を尊重してくれる」という項目に対する肯定的な回答が、導入前と比較して〇〇ポイント上昇しました。また、「長期的にこの会社で働きたい」という項目についても、〇〇ポイントの上昇が見られました。
- 離職率の抑制: 過去にライフイベントを理由とした離職意向を示していた従業員の中から、制度利用により離職を回避し、就業を継続した事例が複数確認されています。全社の離職率についても、特に特定の世代において改善傾向が見られます。
- 特定のライフイベントを経験した従業員のキャリア継続: 不妊治療や病気治療と並行しながらキャリアを継続し、成果を上げている従業員の数が増加しました。これにより、個人の能力を最大限に活かせる環境が整いつつあります。
取り組みが成功した要因分析
本取り組みが成功した主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: 多様な人材が活躍することの重要性について、経営層が明確なメッセージを発信し、取り組みを後押ししました。
- 従業員のリアルなニーズに基づいた制度設計: 一方的な制度押し付けではなく、従業員の実際の声や潜在的なニーズを丁寧に汲み上げて制度に反映させたことが、高い利用率と満足度に繋がりました。
- プライバシーへの最大限の配慮: 特にデリケートな事由も含まれるため、申請手続きや情報管理においてプライバシー保護を徹底したことが、従業員の安心感に繋がりました。
- 丁寧かつ継続的なコミュニケーション: 制度導入時の周知だけでなく、利用事例の発信や相談窓口の継続的な運用を通じて、従業員が「困ったら相談できる」「制度を使って良いんだ」と思える文化を醸成しました。
- 管理職の理解促進とサポート体制: 制度だけでなく、実際に運用を担う管理職への研修とサポートを徹底したことが、現場での円滑な運用に不可欠でした。
今後の展望
株式会社インクルーシブキャリアでは、今回の取り組みを通過点と捉えています。今後は、制度の対象事由や期間について、さらなるニーズに合わせて柔軟に見直しを行っていく予定です。また、制度利用がキャリア形成上の不利益に繋がらないよう、人事評価制度との連携や、利用期間中の業務アサインメントにおける配慮などについても検討を進めています。多様なライフイベントに対応した働き方を、特別なものではなく、当たり前の選択肢として定着させることを目指しています。
まとめ
株式会社インクルーシブキャリアの事例は、多様な働き方支援を育児・介護だけでなく、より幅広いライフイベントへと拡張することで、従業員のキャリア継続とエンゲージメント向上という明確な成果に繋がることを示しています。特に、従業員のリアルなニーズを起点とし、プライバシーに配慮した制度設計と丁寧なコミュニケーション、そして管理職の巻き込みが成功の鍵となりました。自社の働き方改革を検討されている人事担当者の皆様にとって、本事例が多様な人材が活躍できる環境整備の一助となれば幸いです。