株式会社インクルーシブワークス:ダイバーシティ&インクルージョン推進と連動した働き方改革で、多様な人材の活躍と組織力向上を実現した事例
はじめに:多様な人材の活躍なくして組織の持続的成長はありえない
現代のビジネス環境において、企業の持続的な成長には多様なバックグラウンドを持つ人材の能力を最大限に引き出すことが不可欠となっています。画一的な働き方や組織文化では、変化の激しい時代に対応し、新たな価値を創造していくことは困難です。
本記事では、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を経営戦略の柱とし、働き方改革と密接に連携させることで、多様な人材の活躍を促進し、組織全体のエンゲージメントとパフォーマンス向上を実現した株式会社インクルーシブワークスの事例をご紹介します。同社がどのように課題を克服し、具体的な成果を上げたのか、そのプロセスと施策の詳細をご覧ください。
導入の背景・目的:経営戦略としてのD&I推進と働き方の課題
株式会社インクルーシブワークスでは、以前から従業員の多様化が進んでいましたが、制度や文化が追いついていない状況にありました。特定の属性を持つ従業員がキャリアアップに限界を感じていたり、個々のライフスタイルや価値観に合わせた柔軟な働き方の選択肢が限られていたりといった課題が存在していました。
これらの課題を克服し、イノベーションの源泉となる多様な視点やアイデアを組織内に取り込むため、同社はD&Iを単なる人事施策ではなく、企業価値向上に直結する経営戦略として位置づけました。その実現のために、既存の働き方を見直し、多様なニーズに応えられる柔軟でインクルーシブな環境を整備することが急務であると判断しました。目的は、多様な人材が「自分らしく」働ける環境を創出し、エンゲージメントと生産性を高めることでした。
具体的な取り組み内容:制度改革から文化醸成まで
株式会社インクルーシブワークスが実施した主な働き方改革とD&I推進の取り組みは以下の通りです。
- 多様な勤務制度の拡充と柔軟化:
- フルリモートワーク制度の導入(条件付きから原則可能へ変更)
- 選択的短時間勤務制度の対象拡大(育児・介護だけでなく、自己啓発やボランティアなども含む)
- スーパーフレックスタイム制度におけるコアタイムの撤廃、フレキシブルタイムの拡大
- サテライトオフィスやワーケーション制度の導入
- インクルーシブなオフィス環境整備:
- 性別や宗教・文化に配慮した休憩スペース、礼拝スペースの設置
- 集中ワーク用の静音ブースや、オンライン会議用の個室ブースの増設
- ユニバーサルデザインに配慮したオフィスレイアウトの変更
- 意識改革と文化醸成:
- 全従業員を対象としたアンコンシャス・バイアス研修の義務化
- 多様な属性の従業員が参加するダイバーシティ推進委員会の設置と活動促進
- 属性に関わらず誰もが安心して発言できる心理的安全性の高いチーム環境づくりに向けたワークショップ実施
- インクルーシブリーダーシップ研修を管理職向けに実施
- 公正な評価・キャリア形成支援:
- 成果と貢献度を重視するジョブ型的な評価制度への移行
- 多面評価制度の導入による評価の公平性向上
- 多様な属性の従業員を対象としたメンター制度・スポンサー制度の導入
これらの施策は単独で実施されたのではなく、D&I推進部署と人事部、各事業部が連携し、経営層の強力なリーダーシップのもとで推進されました。
導入プロセス:全社を巻き込む段階的アプローチ
取り組みは、まず経営層によるD&Iと働き方改革への強いコミットメント表明から始まりました。次に、現状の課題を把握するため、従業員アンケートやヒアリングを実施し、多様な声を集約しました。
その上で、D&I推進委員会が中心となり、人事部が制度設計を具体化。一部の部署でパイロットプログラムを実施し、効果検証と課題抽出を行いました。パイロット結果を踏まえ、全社展開に向けたロードマップを作成し、段階的に制度を導入していきました。
導入にあたっては、制度説明会やワークショップを繰り返し開催し、従業員の理解促進とエンゲージメント向上に努めました。特に、制度変更に対する不安や懸念に対しては、FAQの作成や個別相談会を実施するなど、丁寧なコミュニケーションを心がけました。また、推進状況を定期的に全社に共有し、取り組みの「見える化」を進めました。
直面した課題と具体的な解決策
多様な働き方とD&Iを同時に推進する中で、いくつかの課題に直面しました。
- 課題1:多様な働き方による従業員間のコミュニケーション不足やチームの一体感低下:
- 解決策: オンラインコミュニケーションツールの活用ガイドラインを策定し、利用促進を図りました。また、定期的なオンラインでのチームビルディング活動や、管理職による個別メンバーとの1on1ミーティング実施を推奨・支援しました。さらに、オフラインでの交流機会として、参加自由の社内イベントやランチミーティングなども企画しました。
- 課題2:特定の属性への配慮が他の従業員から不公平と見なされる懸念:
- 解決策: 各制度導入の目的(多様な人材が能力を発揮できる環境づくりが組織全体の力になること)を、全従業員に対して繰り返し丁寧に説明しました。また、特定の属性だけでなく、全ての従業員が自身の状況に合わせて柔軟な働き方を選択できるよう、制度の適用範囲を広げました。評価制度の公平性を高めることで、納得感を醸成しました。
- 課題3:D&Iと働き方改革の取り組みによる効果測定が困難:
- 解決策: 効果測定のため、定期的な従業員エンゲージメントサーベイにD&Iに関連する設問(例:自分が尊重されていると感じるか、多様な意見が受け入れられているかなど)を追加し、スコアの推移を追跡しました。また、多様な属性(性別、年齢、国籍、障がい有無など)ごとの採用率、定着率、昇進・昇格率といった人材データを継続的にモニタリングし、数値的な変化を捉えるようにしました。さらに、多様な働き方やD&I推進によって生まれた具体的な成功事例や従業員の声を収集し、定性的な成果としても共有しました。
導入による効果・成果:エンゲージメント向上と組織パフォーマンスの向上
株式会社インクルーシブワークスの働き方改革とD&I推進への取り組みは、以下のような具体的な効果・成果をもたらしました。
- 従業員エンゲージメントの向上: 定期エンゲージメントサーベイにおいて、「多様性が尊重されている」「自分らしく働けている」といった項目に関するスコアが、取り組み開始後2年間で平均18%向上しました。
- 多様な人材の定着と活躍促進: 全体的な離職率が3%低下したことに加え、特に女性や外国籍従業員、育児・介護との両立者といった多様な属性の従業員の定着率が顕著に向上しました。また、管理職に占める女性や外国籍従業員の比率も増加傾向にあります。
- 組織のイノベーション創出: 多様な視点や経験が活かされるようになり、新規事業提案数が増加し、異なるバックグラウンドを持つメンバーによるチームから、市場ニーズに合致した革新的なサービスが複数生まれました。
- 採用競争力の強化: 「D&I推進企業」「柔軟な働き方ができる企業」としてのブランドイメージが向上し、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材からの応募が増加しました。
これらの成果は、D&I推進が単なる人事施策ではなく、組織全体のパフォーマンス向上に貢献することを明確に示しています。
取り組みが成功した要因分析
株式会社インクルーシブワークスの取り組みが成功した主な要因は以下の点にあると考えられます。
- 経営層の強いコミットメント: トップが率先してD&Iと働き方改革の重要性を発信し、リソースを投下したことが、全社的な推進力を生み出しました。
- D&Iと働き方改革の連携: D&Iを推進するための手段として働き方改革を位置づけ、両者を一体的に進めたことで、施策に一貫性が生まれ、より効果的に多様な人材のニーズに応えられました。
- 従業員の声の反映: 従業員アンケートやヒアリング、D&I推進委員会などを通じて多様な声を聞き、それを制度や施策に反映させたことが、従業員の当事者意識と納得感を高めました。
- 効果測定と継続的な改善: 数値データと定性的な情報を組み合わせた効果測定を行い、その結果に基づいて施策を柔軟に見直すサイクルを回したことが、取り組みの実効性を高めました。
今後の展望:さらなる進化を目指して
株式会社インクルーシブワークスでは、今回の成果に満足せず、今後も働き方改革とD&I推進を継続していく計画です。
- 個々の従業員のさらに多様なニーズ(例:パラレルキャリア、特定の疾患を持つ従業員への配慮など)に対応するための柔軟な働き方オプションの検討
- インクルーシブな組織文化をさらに醸成するための、マネージャー層だけでなく全従業員対象の継続的な教育・研修の実施
- 社外のNPOや専門機関との連携による、より専門的な知見やノウハウの獲得
- D&Iに関する取り組みを企業の情報公開においてより積極的に開示し、ステークホルダーとのエンゲージメントを強化
これらの取り組みを通じて、同社は真にインクルーシブで、すべての従業員が能力を最大限に発揮できる組織を目指しています。
まとめ:D&Iと働き方改革の連携が組織力を高める
株式会社インクルーシブワークスの事例は、ダイバーシティ&インクルージョンを経営戦略と位置づけ、働き方改革と連携して推進することが、従業員エンゲージメントの向上、多様な人材の定着・活躍、そして組織全体のパフォーマンス向上に繋がることを示しています。
多様な働き方の導入を検討されている人事担当者の皆様にとって、本事例が、自社の課題解決や新たな施策立案のヒントとなれば幸いです。単なる制度導入に留まらず、組織文化の変革や意識改革とセットで取り組むことの重要性が、本事例から学べる点であると考えられます。