働き方変革 事例集

株式会社イノベーションパートナーズ:権限移譲と意思決定プロセス改革で実現した従業員の自律性と組織パフォーマンス向上事例

Tags: 権限移譲, 意思決定プロセス, 従業員自律性, 組織パフォーマンス, マネジメント改革

多様な働き方が広がる現代において、組織のパフォーマンスを維持・向上させるためには、従業員一人ひとりの自律性を高め、迅速かつ適切な意思決定を促すことが不可欠です。特にリモートワークやハイブリッドワークが進む中では、これまでの対面主体の管理・意思決定スタイルからの脱却が求められています。

本記事では、こうした課題に対し、抜本的な権限移譲と意思決定プロセスの改革に取り組んだ株式会社イノベーションパートナーズの事例をご紹介します。同社がどのように改革を進め、どのような課題を克服し、どのような成果を上げたのか、具体的なプロセスと結果に焦点を当てて解説いたします。

多様な働き方導入の背景・目的

株式会社イノベーションパートナーズでは、数年前からリモートワーク制度を導入し、場所にとらわれない働き方を推進してきました。これにより、従業員のワークライフバランスは向上したものの、いくつかの新たな課題が顕在化してきました。

まず、マネージャーによる対面での細かな状況把握が難しくなり、一部でマイクロマネジメントが発生しやすい状況が見受けられました。これにより、従業員の主体性や創造性が抑制される懸念がありました。また、重要な意思決定において、情報の伝達や確認に時間がかかり、迅速性を欠く場面も増えていました。これは、変化の速い市場環境において競争力を維持する上でボトルネックとなりうる状況でした。

こうした背景から、同社では「従業員の自律性を最大限に引き出し、変化に迅速に対応できる組織となる」ことを目指し、より大胆な権限移譲と意思決定プロセスの改革を働き方改革の柱の一つとして位置づけました。目的は、従業員エンゲージメントの向上、意思決定スピードの向上、そしてそれを通じた組織全体のパフォーマンス向上でした。

具体的な取り組み内容

株式会社イノベーションパートナーズでは、権限移譲と意思決定プロセスの改革に向けて、以下の具体的な施策を実行しました。

  1. 意思決定基準の明確化と権限レベルの見直し:

    • 各役職やチームレベルで、どこまでの範囲で意思決定が可能か、その基準を明確に定義しました。特に、予算執行権限や採用承認権限などについて、役職ごとの上限金額や承認ステップを大幅に見直しました。
    • 「報告・相談すべき事項」と「事後報告で良い事項」、「現場の判断に委ねる事項」の区別を明確化しました。
  2. 情報共有基盤の強化:

    • 全従業員が必要な情報にアクセスできるよう、社内情報ポータルサイトを刷新し、各プロジェクトの進捗や関連書類、過去の意思決定に関する情報などを一元管理・公開しました。
    • 意思決定に至るプロセスや背景についても、可能な限り透明化を図りました。
  3. 承認プロセスの簡略化:

    • 従来の多段階にわたる承認ルートを見直し、原則として直属のマネージャーまたは必要な権限を持つ最小限の承認者のみとするなど、承認フローを大幅に短縮しました。
    • 電子承認システムの活用を徹底し、時間や場所を問わず承認業務が進められるようにしました。
  4. マネージャー層への研修と意識改革:

    • マイクロマネジメントの弊害と、権限移譲・エンパワメントの重要性について、管理職向けに集中的な研修を実施しました。
    • メンバーの主体性を引き出すためのコーチングスキルや、目標設定・評価における関わり方についてもトレーニングを行いました。
    • 「失敗を恐れず挑戦すること」を推奨する文化を醸成するため、経営層からのメッセージ発信や、チャレンジ事例の共有会などを定期的に開催しました。
  5. 評価制度の見直し:

    • 権限移譲によって生まれた従業員の自律的な取り組みや、その結果として得られた成果(成功・失敗に関わらず学びを含む)を適切に評価に反映させる仕組みを検討・導入しました。

導入プロセス

改革は、まず経営層が強いリーダーシップを発揮し、「自律分散型の組織を目指す」という明確なビジョンを打ち出すことから始まりました。

次に、人事部門が中心となり、各部門の責任者と連携しながら、既存の意思決定プロセスや権限レベルの現状分析を行いました。その上で、理想とする状態とのギャップを明確にし、具体的な改革案を策定しました。

改革案は、一部のパイロット部門で先行導入され、そこで得られた課題やフィードバックを基に改善を重ねました。例えば、当初マネージャーから「どこまで任せて良いか不安」といった声が多く上がったため、意思決定基準の明確化と、マネージャー間の情報交換・相談の機会を増やすなどのフォローアップを強化しました。

パイロット部門での成功を受けて、段階的に全社へと展開していきました。その際には、従業員向けの説明会を複数回実施し、改革の目的や具体的な変更点、期待される効果について丁寧に説明しました。質疑応答の時間を設け、従業員の不安や疑問の解消に努めました。

直面した課題と、それに対する具体的な解決策

改革を進める中で、いくつかの課題に直面しました。

導入による効果・成果

権限移譲と意思決定プロセスの改革により、株式会社イノベーションパートナーズでは、定量・定性の両面で明確な効果が現れました。

取り組みが成功した要因分析

この取り組みが成功した主な要因として、以下の点が挙げられます。

今後の展望や継続的な取り組み

株式会社イノベーションパートナーズでは、今回の改革を一度きりの施策としてではなく、継続的な組織開発の一環と位置づけています。今後は、さらに従業員の主体性を引き出すための目標設定プロセスの改善や、評価制度と自律的な働き方の連携強化などを進めていく計画です。また、今回見直した権限レベルや意思決定基準についても、事業環境の変化に合わせて柔軟に見直しを行っていく方針です。

まとめ

株式会社イノベーションパートナーズの事例は、多様な働き方、特にリモートワーク環境下において、単なる制度導入にとどまらず、組織の根幹である権限移譲と意思決定プロセスに踏み込んだ改革を行うことの重要性を示しています。多くの企業で自律性やエンゲージメントの向上が課題となる中、同社の取り組みは、人事担当者の方々にとって、自社の働き方改革を推進する上で多くの示唆と具体的なヒントを提供してくれるものと言えるでしょう。