株式会社インサイトワークス:クロスジョブ制度導入で従業員のキャリア自律と組織間連携を強化した事例
株式会社インサイトワークス:クロスジョブ制度導入で従業員のキャリア自律と組織間連携を強化した事例
ウェブサイト「働き方変革 事例集」をご覧いただき、ありがとうございます。本記事では、多様な働き方の中でも、特に従業員の自律的なキャリア形成と組織内の連携強化に焦点を当てた「クロスジョブ制度」の導入事例をご紹介します。
今回取り上げるのは、総合サービス企業である株式会社インサイトワークス様の取り組みです。同社は、既存事業の維持・拡大に加え、新規事業開発にも注力しており、従業員の創造性発揮や部門間の壁を越えた連携が不可欠であると考えていました。しかし、組織の固定化による従業員のキャリア停滞感や、部門間の連携不足といった課題に直面していました。
このような背景から、同社は従業員が所属部署以外の業務やプロジェクトに一定時間関わることのできる「クロスジョブ制度」を導入しました。この制度は、従業員一人ひとりの知的好奇心や挑戦意欲を刺激し、新たなスキルや知見の獲得を促すことで、個人の成長と組織全体の活性化を目指すものです。
導入の背景と目的
株式会社インサイトワークス様は、事業環境の変化に対応するため、常にイノベーションを生み出す組織でありたいと考えていました。しかし、長年培ってきた組織文化の中では、従業員が自身の専門領域や所属部署の枠を超えて活動する機会が限られていました。これにより、以下のような課題が顕在化していました。
- 従業員のキャリア開発の停滞感: 所属部署内での異動や昇進に限定されがちで、自身のキャリアパスに閉塞感を感じる従業員が存在しました。
- 部門間の連携不足とサイロ化: 組織が縦割りになり、部門間の情報交換や協力が十分に図られず、非効率が生じていました。
- 新しいアイデア創出の停滞: 既存の視点に囚われがちで、斬新なアイデアや異分野の知見を組み合わせたイノベーションが生まれにくい状況でした。
これらの課題を解決し、従業員のモチベーション向上と組織の柔軟性・創造性向上を図るために、クロスジョブ制度の導入が検討されました。目的は以下の通りです。
- 従業員が自律的にキャリアをデザインできる機会を提供し、エンゲージメントを高める。
- 部門間の壁を取り払い、組織全体の連携を強化する。
- 多様な視点や知見の交流を促進し、イノベーション創出の土壌を耕す。
具体的な取り組み内容
同社が導入したクロスジョブ制度は、従業員が自身の所属部署での主たる業務を維持しつつ、週に数時間から最大2日まで、他の部署の業務や社内プロジェクトに兼務として参加できる制度です。
主な取り組み内容は以下の通りです。
- クロスジョブマッチングプラットフォームの開発: 社内の様々な部署から募集されるクロスジョブの案件(例:新規事業の市場調査サポート、特定の技術分野の知見提供、社内イベント企画運営など)を一覧化し、従業員が自身のスキルや関心に基づいて応募できる専用のオンラインプラットフォームを開発しました。
- 制度設計とガイドライン策定: 従業員が安心して制度を利用できるよう、勤務時間の管理方法(所属部署と兼務先の時間配分、上限時間)、評価への反映方法(兼務先での貢献度をどのように評価に組み込むか)、所属部署の承認プロセスに関する明確なガイドラインを策定しました。
- マネジメント層向け研修の実施: クロスジョブ制度の意義、従業員の成長を支援するマネジメントの重要性、兼務希望者が出た場合の承認判断基準などについて、マネジメント層向けに研修を実施しました。
- 社内広報と説明会: 制度の目的、利用方法、期待される効果について、全従業員向けに詳細な説明会を実施し、社内ポータルサイトやメールマガジンで継続的に情報発信を行いました。
導入プロセス
クロスジョブ制度の導入は、以下のステップで慎重に進められました。
- 検討・企画フェーズ: 働き方改革推進チーム(人事部中心)が中心となり、国内外の先進事例を調査。従業員へのヒアリングを通じてニーズや懸念点を把握し、制度の基本設計を行いました。経営会議での承認を得るためのロードマップと期待効果をまとめました。
- パイロット導入フェーズ: 一部の意欲的な部署(3部署、約100名規模)を選定し、制度のトライアルを実施しました。この期間に、プラットフォームの使いやすさ、勤務時間管理の課題、評価プロセスの実効性などを検証しました。パイロット参加者およびマネジメント層からのフィードバックを収集しました。
- 制度 refinement フェーズ: パイロット導入で得られたフィードバックに基づき、制度設計やガイドラインを修正しました。特に、所属部署マネージャーの承認に関するハードルを下げるための具体的な対応策(例:業務負荷調整ツールの導入、複数部署での兼務を前提とした人員配置検討)を検討しました。
- 全社展開フェーズ: 改定された制度と開発されたプラットフォームを全社に展開しました。従業員向けの説明会を複数回実施し、個別相談窓口を設置するなど、従業員の不安解消に努めました。人事部内にクロスジョブ推進担当者を置き、マッチングサポートや進捗管理を行いました。
推進体制としては、人事部内に専任のプロジェクトチームを設置し、制度設計、プラットフォーム開発ベンダーとの連携、社内広報、従業員サポートを一元的に担当しました。また、各部門に制度推進のためのキーパーソンを置き、部門内での理解促進と協力体制構築を図りました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
クロスジョブ制度の導入・運用において、いくつかの課題に直面しました。
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所属部署マネージャーの承認ハードル: 従業員がクロスジョブを希望しても、所属部署のマネージャーが業務への支障を懸念して承認に消極的になるケースが見られました。
- 解決策: マネジメント層向け研修において、制度の導入目的である「従業員の成長を通じた組織全体のメリット」を繰り返し強調しました。また、承認基準を明確化し、業務調整が難しい場合の相談窓口を設置しました。さらに、部門横断で従業員のスキルや負荷状況を可視化できるワークマネジメントツールの導入を推進し、論理的な人員・業務調整を支援しました。
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参加者の勤務時間管理と評価の複雑性: 所属部署と兼務先での勤務時間を正確に把握し、それぞれの貢献度を公平に評価に反映させることが課題となりました。
- 解決策: クロスジョブ専用の勤怠報告システムを導入し、所属部署と兼務先でそれぞれ承認する仕組みとしました。評価に関しては、期初目標設定時に所属業務とクロスジョブでの貢献目標を明確に設定し、期末評価時には所属部署マネージャーと兼務先の担当者・マネージャーが連携して評価を行う多角的な評価プロセスを導入しました。
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プラットフォームの利用率向上と適切なマッチング: プラットフォームを開発したものの、当初は案件の登録数が少なく、従業員側もどのように活用すれば良いか分からないという声がありました。
- 解決策: 人事部が中心となり、各部署へのヒアリングを通じてクロスジョブとして切り出せる業務を積極的に掘り起こし、案件登録を奨励しました。また、クロスジョブ参加者の成功事例(例:クロスジョブでの経験が所属部署の業務に活かされた、新しいスキルを習得できたなど)を積極的に社内広報で発信し、制度の魅力と活用メリットを伝えました。人事担当者による希望者へのマッチングコンサルティングも行いました。
導入による効果・成果
クロスジョブ制度の導入から1年が経過し、いくつかのポジティブな効果が見られています。
- 従業員のキャリア自律意識向上とエンゲージメント向上: 制度開始後1年間で、全従業員の約8%にあたる250名がクロスジョブを経験しました。社内エンゲージメントサーベイの「キャリア開発機会」に関する項目で、制度導入前と比較して平均スコアが5ポイント上昇しました。従業員からは「普段関われない分野に触れることで視野が広がった」「新しいスキルを試す機会が得られた」「他の部署の仕事への理解が深まり、所属部署での業務にも活かせるようになった」といった肯定的な声が多く聞かれました。
- 部門間のコミュニケーション活性化と連携強化: クロスジョブを通じて異なる部署のメンバー同士が日常的にコミュニケーションをとる機会が増加しました。これにより、部署間の情報共有がスムーズになり、共同プロジェクトにおける連携が円滑になったという効果が複数の部署から報告されています。特定の横断型プロジェクトにおいては、クロスジョブ参加者の異分野の知見が貢献し、成果創出までの期間が約15%短縮された事例も確認されています。
- 組織の柔軟性と活性化: 従業員が固定的な業務範囲に囚われず、組織全体のニーズに応じて柔軟にスキルや時間を活用できるようになったことで、組織全体の機動力が増しました。クロスジョブで得た新しい視点やアイデアが、所属部署や兼務先での改善提案や新規企画に繋がるケースも増えています。
取り組みが成功した要因分析
株式会社インサイトワークス様のクロスジョブ制度が比較的スムーズに導入され、効果を上げている要因はいくつか考えられます。
- 経営層の強いコミットメント: 制度導入の初期段階から経営層がその意義を理解し、全社への導入を強く推進したことが、組織全体の協力体制構築に不可欠でした。
- 丁寧な制度設計と現場の声の反映: パイロット導入を通じて現場の課題を抽出し、制度設計にフィードバックしたことで、現実的な運用が可能となりました。勤務時間管理や評価といった、運用上の懸念点を事前に解消するための仕組みを構築したことも成功に寄与しました。
- ITツールの効果的な活用: マッチングプラットフォーム、勤怠管理システム、ワークマネジメントツールといったITツールを導入し、制度運用を円滑に進めるための基盤を整備しました。
- 継続的な社内広報とサポート: 制度導入後も、成功事例の共有や個別相談対応など、人事部が主体となった継続的なサポートと丁寧なコミュニケーションが、従業員の制度活用を促進しました。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社インサイトワークス様では、クロスジョブ制度を今後さらに発展させていく予定です。具体的には、以下のような展望を描いています。
- 参加可能範囲の拡大: 現在は正社員に限定されている対象を、契約社員やグループ会社間にも広げることを検討しています。
- 外部副業との連携強化: クロスジョブで培った経験やスキルを、将来的な外部での活動や副業に繋げられるような支援策や情報提供を強化していく計画です。
- 制度を通じたイノベーション創出の仕組み化: クロスジョブによって生まれた新しいアイデアやプロジェクトの芽を、社内の新規事業提案制度やインキュベーションプログラムに繋げる仕組みを構築し、より直接的に組織のイノベーションに貢献できる制度へと発展させていきます。
まとめ
株式会社インサイトワークス様のクロスジョブ制度導入事例は、従業員のキャリア自律支援と組織全体の活性化を同時に実現する多様な働き方の一つの形として参考になります。特に、大企業における部門間の壁を越えた連携強化や、従業員の主体性引き出しに課題を感じている人事担当者の皆様にとって、具体的な制度設計や運用上の工夫、そして成果測定の視点など、多くの示唆に富む事例と言えるでしょう。
多様な働き方の推進は、制度を導入するだけでなく、それを支えるツール、マネジメントの意識改革、そして丁寧な運用サポートが鍵となります。株式会社インサイトワークス様の事例が、貴社の働き方改革を推進する一助となれば幸いです。