株式会社ライフワーク:多様な理由に対応する短時間正社員制度を拡充し、従業員のキャリア継続とエンゲージメント向上を実現した事例
はじめに
少子高齢化や価値観の多様化が進む現代において、企業が持続的に成長するためには、様々なライフステージや価値観を持つ従業員が能力を最大限に発揮できる環境整備が不可欠です。特に、育児や介護だけでなく、病気治療、自己啓発、社会貢献活動など、多様な理由で一時的または継続的にフルタイム勤務が難しい従業員に対し、正社員としての雇用を維持しながら柔軟な働き方を可能にする制度の重要性が高まっています。
本記事では、多様な理由に対応する短時間正社員制度を拡充することで、従業員のキャリア継続支援とエンゲージメント向上を実現した株式会社ライフワークの事例をご紹介します。同社がどのように制度を設計・導入し、直面した課題を克服し、どのような成果を上げたのか、具体的なプロセスと結果に焦点を当てて解説します。
株式会社ライフワークにおける多様な働き方導入の背景・目的
株式会社ライフワーク(仮称)は、従業員数約3,000名の中堅サービス業です。以前から育児短時間勤務制度はありましたが、利用者が限定的で、他の理由(親の介護、自身の持病治療、資格取得のための学習時間確保など)で働く時間を調整したい従業員が、やむなく非正規雇用に切り替えたり、離職を選択したりするケースが見られました。
人事部門は、こうした状況を深刻に受け止め、特に以下の課題意識を持っていました。
- 優秀な人材の流出: ライフイベントや個人的な事情により、意欲や能力のある社員がキャリアを中断したり、離職したりすることは、企業にとって大きな損失となる。
- 特定の属性への偏り: 従来の制度が育児に偏っており、介護や治療など多様なニーズに対応できていない。
- モチベーション低下: 柔軟な働き方ができないことへの不満が、従業員のエンゲージメント低下につながる可能性がある。
- 潜在的な労働力の活用不足: 短時間でも貢献したいという意欲を持つ社員の能力を十分に活かせていない。
これらの課題を解決し、多様な背景を持つ従業員が長期的に安心して働き続けられる環境を整備することを目的として、同社は既存の短時間勤務制度を抜本的に見直し、対象者を拡大した「キャリア継続支援型短時間正社員制度」の導入を決定しました。
具体的な取り組み内容
株式会社ライフワークが導入・拡充した「キャリア継続支援型短時間正社員制度」の主な内容は以下の通りです。
- 対象者の拡大: 従来の育児・介護に加え、本人の疾病治療、高度専門知識習得のための学習、地域活動・社会貢献活動への参加など、会社が認める多様な理由を制度利用の対象としました。
- 勤務時間パターンの柔軟化: 従来の「1日〇時間」という固定的な短縮パターンに加え、週単位や月単位での総労働時間管理を導入し、より柔軟な勤務時間設定を可能にしました(例:週に数日はフルタイム、数日は短時間勤務など)。
- 給与・評価体系の調整: 短時間勤務であっても、担う職務内容や成果に応じた適正な評価と給与体系を整備しました。時間あたりの貢献度や、フルタイム社員と同様の成果を求められる場合の評価基準を明確化しました。
- キャリアパスの明確化: 短時間勤務を選択しても、昇進・昇格の機会が閉ざされないことを明示しました。短時間勤務者向けのマネジメント研修やキャリアコンサルティング機会を設けることで、キャリア形成を支援しました。
- 情報共有・コミュニケーションツールの活用: リモートワークや時差勤務者との連携を円滑にするため、全社的にオンライン会議システム、チャットツール、プロジェクト管理ツールなどの活用を推奨・強化しました。
- 相談窓口の設置: 制度利用に関する相談や、制度利用中に生じる悩み(業務分担、評価など)に対応する専門の相談窓口(産業カウンセラーや経験豊富な人事担当者)を設置しました。
導入プロセス
制度導入にあたり、株式会社ライフワークは以下のプロセスで取り組みを進めました。
- 現状分析とニーズ把握: 既存の短時間勤務制度の利用状況、離職者の声、従業員アンケートなどを通じて、多様な働き方へのニーズと現状の課題を詳細に分析しました。
- 制度設計と社内調整: 人事部門主導で制度案を作成し、経営層、労働組合、各部門長との協議を重ね、合意形成を図りました。特に、現場での運用課題を想定し、各部署の代表者から意見を収集し、制度設計に反映させました。
- トライアル実施: 一部の部署で先行的に新制度のトライアルを実施し、運用上の課題や従業員の反応を確認しました。トライアル参加者への詳細なヒアリングを実施し、制度の改善点を見つけました。
- 全社展開と従業員への周知: トライアルの結果を踏まえて制度を修正した後、全従業員に向けて制度の目的、内容、利用方法について丁寧な説明会を実施しました。社内ポータルサイトでの情報公開やリーフレット配布なども行いました。
- マネジメント層への教育: 制度の理解促進と適切な運用のため、特に現場マネージャー向けに、短時間勤務者のマネジメント方法、評価基準、コミュニケーションの留意点に関する研修を繰り返し実施しました。
- 効果測定と継続的な見直し: 制度利用率、従業員満足度、離職率、対象者のキャリアパス状況などを定期的にモニタリングし、制度の効果測定を行いました。得られたデータに基づき、必要に応じて制度内容や運用方法を見直しました。
推進体制としては、人事部門が中心となり、各部門の働き方改革推進リーダー、産業医、産業カウンセラー、組合代表者などが連携するプロジェクトチームを組成しました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
制度導入・運用において、以下の課題に直面しました。
-
課題1:現場マネージャーの制度への理解不足と運用への不安
- 解決策: マネジメント研修を必須化し、制度の目的やメリット、具体的なマネジメント手法を丁寧に説明しました。特に、短時間勤務者の業務の切り出し方や、成果による評価方法について、成功事例や具体的なケーススタディを用いて解説しました。また、管理職向けの相談窓口を設置し、個別の不安や疑問にきめ細かく対応しました。
-
課題2:短時間勤務者のキャリア停滞への懸念
- 解決策: 短時間勤務を選択しても、重要なプロジェクトへのアサインや昇進・昇格の実績を具体的に提示し、「時間」ではなく「成果」と「貢献」が評価される組織であることをメッセージとして伝えました。定期的なキャリアコンサルティングの機会を提供し、自身のキャリアパスについて上司や人事と話し合う場を設けました。
-
課題3:フルタイム社員との間の不公平感
- 解決策: 新制度が特定の社員優遇ではなく、「多様な人材が活躍できる組織」を目指す全社的な取り組みの一環であることを繰り返し説明しました。同時に、フルタイム社員に対しても、コアタイムなしフレックスタイム制度や副業・兼業支援制度など、他の多様な働き方オプションを拡充・周知し、誰にとっても柔軟な働き方が選択肢として存在することを強調しました。これにより、特定の制度への不満ではなく、多様な働き方全体への理解と受容を促しました。
-
課題4:業務分担と評価の難しさ
- 解決策: 短時間勤務導入前に、チーム全体で業務の棚卸しと優先順位付けを行い、役割分担を明確にすることを各チームに推奨しました。必要に応じて業務効率化ツールや自動化ツールの導入を支援しました。評価に関しては、時間ではなく具体的な目標達成度や質、チームへの貢献度を重視する評価基準をより明確化し、定期的な1on1でのフィードバックを通じて、期待する成果と評価理由を丁寧に伝える運用を徹底しました。
導入による効果・成果
「キャリア継続支援型短時間正社員制度」の拡充は、株式会社ライフワークに以下の効果・成果をもたらしました。
- 制度利用者数の大幅な増加: 制度利用の対象を広げたことで、育児・介護以外の理由(治療、自己啓発など)での利用者が増加し、多様なニーズに対応できるようになりました。制度利用率は導入後2年間で約1.5倍に増加しました。
- 離職率の低下: 特に、介護や病気治療を理由とする従業員の離職率が、制度導入前と比較して約30%低下しました。また、短時間勤務を選択しながらもキャリアを継続できるという安心感が、従業員の定着率向上に寄与しました。
- 従業員エンゲージメントの向上: 制度利用者だけでなく、全従業員を対象としたエンゲージメントサーベイにおいて、「会社は従業員の多様な働き方を支援している」という項目への肯定的な回答が、導入前と比較して約15ポイント上昇しました。また、ワークライフバランスに対する満足度も向上しました。
- 生産性の維持・向上: 短時間勤務者が限られた時間内で成果を出すための集中力や工夫が、チーム全体の業務効率化につながるケースが見られました。時間あたりの生産性向上が見られた部署もあります。
- 企業イメージの向上: 多様な働き方を支援する企業として、採用活動においてポジティブな影響が見られるようになりました。
取り組みが成功した要因分析
本事例の成功には、以下の要因が大きく寄与したと考えられます。
- 経営層の強いコミットメント: 多様な人材の活躍が企業の成長に不可欠であるという経営層の明確なビジョンと、制度導入・運用への継続的な支援がありました。
- 人事部門と現場の連携: 人事部門が制度設計・推進の中心となりつつも、現場の意見を丁寧に聞き取り、運用上の課題解決に積極的に取り組んだことが、制度の定着につながりました。
- 丁寧かつ継続的なコミュニケーション: 制度の目的、内容、利用方法、そして成功事例などを、様々なチャネルを通じて繰り返し従業員に周知したことが、制度への理解と安心感を醸成しました。特に、フルタイム社員への丁寧な説明は、制度間の不公平感を和らげる上で重要でした。
- マネジメント層への投資: 制度の鍵となるマネジメント層に対し、単なる説明に留まらず、実践的な研修や個別サポートを提供したことが、現場での適切な運用を可能にしました。
- 「時間」から「成果」への評価軸のシフト: 短時間勤務でも評価される仕組みを明確にしたことが、利用者のモチベーション維持と、周囲の理解を得る上で効果的でした。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社ライフワークでは、今後もこの制度を継続的に見直し、さらなる柔軟性を持たせることを検討しています。例えば、対象となる「多様な理由」の範囲をさらに拡大したり、季節的な忙しさに応じて一時的に勤務時間を変更できる仕組みを導入したりすることも視野に入れています。
また、この制度をきっかけに醸成された「多様な働き方を認め合う文化」を全社的に広げ、誰もが自身の状況に合わせて最適な働き方を選択できる真のインクルーシブな組織を目指していくとしています。具体的には、多様な働き方に関する社内研修の実施、ロールモデルの積極的な紹介、働き方に関する従業員同士の交流機会の創出などを計画しています。
まとめ
株式会社ライフワークの事例は、従来の限定的な短時間勤務制度から一歩進み、育児・介護だけでなく、病気治療や自己啓発など多様な理由に対応可能な「キャリア継続支援型短時間正社員制度」を拡充することで、優秀な人材の定着、離職率の低下、そして従業員エンゲージメントの向上を実現した成功事例と言えます。
本事例からは、
- 多様な働き方へのニーズを正確に把握し、制度設計に反映すること
- 制度導入においては、経営層のコミットメント、人事と現場の連携、そして丁寧なコミュニケーションが不可欠であること
- 特にマネジメント層への適切な教育とサポートが、制度の現場での定着を左右すること
- 「時間」ではなく「成果」や「貢献」に焦点を当てた評価の仕組みが重要であること
- 特定の制度だけでなく、多様な働き方全体を支援するメッセージを発信し、相互理解を促すこと
といった、多様な働き方の導入・推進を検討されている人事担当者の皆様にとって、実践的なノウハウや課題解決のヒントとなる学びが得られるのではないでしょうか。自社の状況に合わせて、ぜひ参考にしてみてください。