株式会社マネジメントシフト:多様な働き方に対応する管理職のマネジメントスキル強化とエンゲージメント向上事例
はじめに:多様な働き方における管理職の新たな役割
近年、多くの企業でリモートワークやフレックスタイム制度など、多様な働き方の導入が進んでいます。これにより従業員の働く場所や時間、方法が多様化し、生産性向上や従業員満足度向上といった成果が見られる一方で、組織マネジメントにおいては新たな課題が生じています。特に、部下の状況把握が難しくなったり、従来型の対面コミュニケーションに依存したマネジメント手法が通用しなくなったりと、管理職は変化への適応を強く求められています。
本記事では、多様な働き方に対応するための管理職向けマネジメント変革に成功した株式会社マネジメントシフトの事例をご紹介します。同社がどのように管理職のスキル強化に取り組み、組織全体のエンゲージメント向上を実現したのか、その具体的なプロセスと成果を見ていきます。
株式会社マネジメントシフトの働き方変革の背景と目的
株式会社マネジメントシフトは、従業員数約2,000名の大手ITサービス企業です。数年前から全社的にリモートワーク制度を導入し、多くの従業員がオフィスと自宅を組み合わせたハイブリッドワークを行っています。
多様な働き方の導入当初は、通勤時間の削減や場所にとらわれない柔軟な働き方が従業員から好評を得ました。しかし時間が経過するにつれて、以下のような課題が顕在化しました。
- 管理職のマネジメント負荷増大: 部下の働く状況が見えにくくなったことで、進捗管理や状況把握に時間を要するようになり、管理職の負担が増加しました。
- コミュニケーションの質の変化: 非同期コミュニケーションが増えたことで、意図が伝わりにくくなったり、ちょっとした相談がしにくくなったりする場面が見られました。特に、1on1などの定期的な対話の質が属人的になりがちでした。
- チームエンゲージメントの低下懸念: チームメンバー間の物理的な距離ができたことで、一体感や心理的安全性が維持しにくくなる懸念が生じました。
- 人事評価の難しさ: プロセスが見えにくい中で、成果だけでなくプロセスや貢献度を適切に評価することに難しさを感じる管理職が増えました。
これらの課題を解決し、多様な働き方のもとでも高い生産性と従業員エンゲージメントを維持・向上させるためには、管理職のマネジメントスキルを新しい環境に適応させることが不可欠であると判断しました。これが、同社が管理職のマネジメント変革に取り組むことになった主要な背景です。
具体的な取り組み内容:マネジメント能力強化プログラムの導入
株式会社マネジメントシフトは、上記の課題認識に基づき、「多様な働き方に対応するための管理職向けマネジメント能力強化プログラム」を企画・実行しました。具体的な取り組み内容は以下の通りです。
- 実践的マネジメント研修の実施:
- リモート・ハイブリッド環境下での「信頼構築」「効果的な非同期コミュニケーション」「目標設定と進捗管理」「フィードバックと承認」「チームの心理的安全性向上」などに焦点を当てた実践的な研修プログラムを開発しました。
- 一方的な座学ではなく、実際の事例に基づいたケーススタディ、ロールプレイング、グループワークを多く取り入れ、学んだスキルをすぐに現場で活かせる内容としました。
- マネジメント支援ツールの導入と活用促進:
- 目標設定・進捗管理ツール、1on1支援ツール、チームのコンディションやエンゲージメントを把握するパルスサーベイツールなどを統合的に導入しました。
- これらのツールの使い方だけでなく、「なぜこのツールが必要なのか」「ツールを活用することでマネジメントがどう変わるのか」といった目的・意義を丁寧に説明し、管理職が自律的に活用できるようにサポート体制を整備しました。
- 管理職間の情報共有とコミュニティ形成支援:
- 定期的に管理職向けのナレッジシェア会やワークショップを開催し、成功事例や課題、悩みを共有できる場を設けました。
- オンラインコミュニケーションツール上に管理職専用のチャンネルを作成し、気軽に相談や情報交換ができる環境を構築しました。
- 人事評価制度の見直し:
- 管理職の評価項目に、リモート・ハイブリッド環境下でのチームマネジメントの質や、従業員のエンゲージメント向上への貢献度をより重視する要素を加えました。
導入プロセス:段階的なアプローチと継続的な改善
同社は、いきなり全管理職を対象とするのではなく、段階的にプログラムを展開しました。
- 現状把握とニーズ分析: 従業員と管理職を対象としたアンケートや個別ヒアリングを実施し、多様な働き方におけるマネジメントの現状課題、管理職が特に必要としているスキルやサポートに関する詳細なニーズを把握しました。
- プログラム・ツール選定: 把握したニーズに基づき、外部の専門家と連携しながら研修プログラムの内容を具体化し、最適なマネジメント支援ツールを選定しました。
- パイロット実施: 一部の部署の管理職を対象に、研修とツールのパイロット導入を実施しました。参加者からのフィードバックを収集し、プログラム内容やツールの使いやすさ、サポート体制などを改善しました。
- 全社展開: パイロットでの成功と改善を経て、全社の管理職を対象にプログラムを展開しました。階層別や部署別にカスタマイズした内容で実施しました。
- 定着支援と継続的改善: 研修後のフォローアップとして、人事部門や外部コーチによる個別相談、定期的なワークショップを実施しました。また、パルスサーベイの結果や管理職からのフィードバックを継続的に収集し、プログラム内容やツールの活用方法を改善するサイクルを構築しました。
推進体制としては、人事部門内に専門チームを設置し、経営層の強力なコミットメントのもと、現場の管理職、各部署のHRBPと密に連携しながらプロジェクトを進めました。
直面した課題と解決策
本取り組みを進める中で、いくつかの課題に直面しました。
- 課題1:管理職間のスキルレベルと意識のばらつき: 経験豊富な管理職から新任まで、スキルレベルに大きな差があり、新しいマネジメント手法への抵抗を示す管理職も一部に見られました。
- 解決策1: 必須受講の基礎研修に加え、レベルや関心に応じた選択型研修を用意しました。また、多様な働き方のメリットと、それに対応するマネジメントの重要性について、経営層からのメッセージを繰り返し発信するなど、目的・意義の丁寧な説明に努めました。成功している管理職の事例を社内報や説明会で共有し、具体的なイメージを持てるようにしました。
- 課題2:新しいツールの定着に時間がかかる: 多機能なツールを導入したものの、日々の業務に追われる中で十分に活用されないケースが見られました。
- 解決策2: ツールの操作研修に加え、「このツールを使うことで、あなたのマネジメントがどう効率化・改善されるか」という具体的なメリットを繰り返し伝えました。マニュアルは極力シンプルにし、個別相談窓口を設置。また、ツール活用度合いを把握し、活用が進んでいない管理職には個別に声をかけ、サポートを提供しました。
- 課題3:研修で学んだ内容の現場での実践が難しい: 研修で理論やスキルを学んでも、実際のマネジメント場面で応用できないという声がありました。
- 解決策3: 研修内容に実践的なロールプレイングやケーススタディを増やしました。研修後には、学んだスキルをいつ、どのように実践するかを具体的に計画する時間を設け、その計画を上司や人事担当者と共有することを推奨しました。また、実践の壁打ち相手となるメンター制度や、定期的なフォローアップ面談を実施しました。
導入による効果・成果
プログラム導入から1年後、以下のような定量・定性的な成果が見られました。
- 従業員エンゲージメントの向上: 全社で実施しているエンゲージメントサーベイにおいて、「上司との信頼関係」「チームワーク」「会社への貢献意欲」といった項目でスコアが平均15%向上しました。特に、リモートワーク頻度の高い従業員のスコア改善が顕著でした。
- 離職率の低下: プログラム導入後1年間の全社離職率が、導入前と比較して約2ポイント低下しました。特に、管理職との関係性が重要となる若手・中堅層の離職率低下に貢献したと考えられます。
- チームの生産性向上: 目標管理ツールの活用度が高いチームでは、期初に設定した目標の達成率が平均10%向上しました。また、パルスサーベイでチームのコンディションが良いと判断されたチームは、プロジェクトの納期遵守率や顧客満足度が高い傾向が見られました。
- 管理職の意識変革と負担軽減: 管理職向けのアンケートでは、「部下とのコミュニケーションに自信がついた」「多様な働き方への対応に前向きになった」といった回答が増加しました。ツールの活用により、進捗確認などの定型的な業務にかかる時間が削減され、部下との対話やチームビルディングにより時間を割けるようになったという声が多く寄せられました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社マネジメントシフトの取り組みが成功した主な要因は、以下の点にあると考えられます。
- 経営層の強いコミットメント: 多様な働き方への移行期における管理職の重要性を経営層が深く理解し、必要な投資とメッセージ発信を惜しまなかったことが、取り組み全体の推進力となりました。
- 現場の課題に基づいた設計: 一方的に理想論を押し付けるのではなく、従業員や管理職のリアルな声、直面している具体的な課題を丁寧に吸い上げ、それに基づいた実践的なプログラムやツールを選定・設計したことが、現場での受け入れやすさにつながりました。
- ツールと研修の組み合わせ: 研修でマネジメントの理論やスキルを学び、ツールでそれを実践・補完するという組み合わせが、効果を最大化しました。ツールは単なる「監視」ではなく「支援」であることを明確に伝え、活用を促しました。
- 継続的なフォローアップと改善: 研修を受けて終わりではなく、ツール活用支援、個別相談、コミュニティ形成支援など、継続的なサポートを提供したことが、スキル定着と行動変容を促しました。また、効果測定とフィードバックに基づき、プログラムを常に改善していく姿勢が重要でした。
今後の展望
株式会社マネジメントシフトでは、今回の成果を踏まえ、今後も継続的に管理職のマネジメント能力強化に取り組んでいく予定です。具体的には、最新のテクノロジー(AIを活用したマネジメント支援ツールなど)の導入検討、リーダーシップ育成プログラムとの連携強化、多様な働き方に対応した新たな評価指標の検討などを進めていくとしています。また、管理職だけでなく、全ての従業員が多様な働き方に対応できる自律性やスキルを身につけるための支援も強化していく方針です。
まとめ:多様な働き方を支える管理職育成の重要性
株式会社マネジメントシフトの事例は、多様な働き方の成功には、それを支える管理職のマネジメント変革が不可欠であることを明確に示しています。リモートやハイブリッドといった新しい環境下では、従来のマネジメント手法だけでは限界があり、部下との信頼関係構築、効果的なコミュニケーション、適切な目標設定と評価、チームビルディングなど、新たなスキルと意識が求められます。
同社の事例から、以下の点が多様な働き方における管理職育成の重要なポイントとして挙げられます。
- 現場のリアルな課題に基づいた実践的なプログラム設計。
- 研修とマネジメント支援ツールの効果的な組み合わせ。
- 継続的なフォローアップとサポート体制。
- 経営層のコミットメントと人事部門による一貫した推進。
- 効果測定に基づいた継続的な改善サイクル。
多様な働き方の導入・推進を検討されている人事担当者の皆様にとって、本事例が管理職育成の重要性を再認識し、具体的な取り組みを検討する上での一助となれば幸いです。