株式会社ネクストステージ:ミドルマネジメント層の意識・行動変革で実現した、多様な働き方下のチームパフォーマンス最大化事例
株式会社ネクストステージ:ミドルマネジメント層の意識・行動変革で実現した、多様な働き方下のチームパフォーマンス最大化事例
はじめに
近年、多様な働き方の推進は企業の喫緊の課題となっています。リモートワーク、フレックスタイム、副業など、従業員一人ひとりのライフスタイルや価値観に合わせた柔軟な働き方は、エンゲージメント向上や生産性向上に寄与する一方で、組織運営においては新たな課題も生じさせています。特に、チームを牽引するミドルマネジメント層は、変化への適応とリーダーシップの発揮が不可欠となります。
本記事では、多様な働き方を積極的に導入した結果、ミドルマネジメント層の旧来型マネジメントとのギャップに直面し、そこを起点とした意識・行動変革に取り組んだ株式会社ネクストステージの事例をご紹介します。同社がどのようにミドルマネジメントの課題を克服し、多様な働き方下のチームパフォーマンス最大化を実現したのか、その具体的なプロセスと成果を見ていきましょう。
1. 多様な働き方導入の背景とミドルマネジメント課題の顕在化
株式会社ネクストステージ(従業員数:約3,000名、ITサービス業)は、優秀な人材の獲得競争激化と従業員のワークライフバランス向上を目的として、20XX年に全社的なリモートワーク・フレックスタイム制度を本格導入しました。これにより、多くの従業員が場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を選択できるようになりました。
しかし、制度導入後、以下のような課題が顕在化しました。
- ミドルマネジメント層の戸惑い: 対面でのコミュニケーションが減少したことで、部下の状況把握や進捗管理が難しくなったと感じるマネージャーが多く、旧来の「管理型」マネジメントからの転換に苦慮していました。
- 評価への懸念: プロセスが見えにくいリモートワーク環境下での公正な評価に対する不安や、成果指標への転換の遅れが見られました。
- チームの一体感低下: 物理的な距離が離れたことで、チーム内のカジュアルなコミュニケーションが減少し、心理的安全性の低下や帰属意識の希薄化が懸念されました。
- マネージャー自身のバーンアウト: メンバーへの気遣いや、慣れないツール活用、曖昧な役割の中で孤立感を感じるマネージャーも散見されました。
これらの課題は、多様な働き方本来のメリットを享受することを阻害し、むしろチームパフォーマンスや従業員エンゲージメントの低下を招きかねない状況でした。同社は、働き方改革の成功には、制度だけでなくそれを現場で推進するミドルマネジメント層の意識と行動の変革が不可欠であると判断しました。
2. 具体的な取り組み内容:ミドルマネジメント変革プログラム「Lead the Change」
株式会社ネクストステージは、この課題を解決するため、ミドルマネジメント層を対象とした変革プログラム「Lead the Change」を開始しました。主な取り組み内容は以下の通りです。
- 「支援型リーダーシップ」研修の実施:
- 従来の「管理・指示型」から、メンバーの自律性やエンゲージメントを引き出す「支援・傾聴型」リーダーシップへの転換を促すワークショップ形式の研修を開発・実施しました。
- リモート環境下での効果的なコミュニケーション方法(非同期ツールの活用、オンライン会議の質向上)や、心理的安全性の重要性とその醸成方法に重点を置きました。
- 目標設定・評価プロセスの見直し:
- 多様な働き方に対応するため、成果連動型・行動評価の比重を高める方向で評価制度を一部見直しました。
- マネージャーに対し、メンバー一人ひとりの目標設定のサポート、中間レビューの頻度向上、多面評価の導入支援など、評価プロセスの円滑な運用に関するトレーニングを実施しました。
- 1on1マネジメントの強化:
- 定期的な1on1ミーティングの目的、効果的な進め方、メンバーからの引き出し方に関する研修を実施しました。
- ツールの活用を推奨し、1on1の実施状況や内容を記録・共有することで、質の向上と定着を図りました。
- ナレッジ・成功事例の共有プラットフォーム構築:
- マネージャー同士がマネジメントの悩みや成功体験を共有できるオンラインコミュニティを設立しました。
- 人事部門が効果的なマネジメント手法やツールの活用事例を積極的に発信し、ナレッジの蓄積と普及を促進しました。
- 人事・経営層からの継続的なメッセージとサポート:
- 人事部門がプログラムの進捗を継続的にフォローし、個別の相談対応やコーチングを提供しました。
- 経営層が「Lead the Change」の重要性を繰り返し発信し、マネージャーの変革へのモチベーション維持を図りました。
3. 導入プロセスと推進体制
「Lead the Change」プログラムは、人事部門が中心となり、経営層の強いコミットメントのもと推進されました。
- 現状分析とニーズ把握: 従業員サーベイやマネージャーへのヒアリングを通じて、多様な働き方におけるミドルマネジメントの具体的な課題を定量・定性両面から把握しました。
- プログラム設計: 把握した課題に基づき、外部の専門家とも連携しながら、研修内容、ツール活用方針、評価プロセス変更点を設計しました。
- パイロット実施: 一部の部門でプログラムを先行導入し、効果検証と改善を行いました。マネージャーからのフィードバックを収集し、研修内容やサポート体制を調整しました。
- 全社展開: パイロットの成果を踏まえ、全社のミドルマネジメント層を対象にプログラムを展開しました。多忙なマネージャーが受講しやすいよう、オンライン形式の研修やオンデマンド教材も活用しました。
- 継続的なフォローアップと改善: プログラム実施後も、定期的なフォローアップ研修、個別相談、オンラインコミュニティでの情報交換、従業員エンゲージメントサーベイによる効果測定を継続的に行い、プログラムの改善に繋げました。人事評価にも「Lead the Change」で目指す行動特性を反映させることで、変革へのインセンティブを高めました。
4. 直面した課題と解決策
プログラム推進において、いくつかの課題に直面しました。
- マネージャーの抵抗・多忙: 新しいマネジメントスタイルへの戸惑いや、日々の業務に追われ研修への参加や実践に消極的なマネージャーが存在しました。
- 解決策: 経営層からの継続的なメッセージでプログラムの重要性を強調し、人事評価との連動を示唆しました。また、研修時間を短縮し、オンラインやオンデマンド形式を拡充。マネージャーが使えるツールやテンプレートを提供し、実践のハードルを下げました。
- 効果測定の難しさ: ミドルマネジメントの意識・行動変革が、直接的にチームパフォーマンスやエンゲージメント向上に繋がっているかを測定することが容易ではありませんでした。
- 解決策: 定期的な従業員エンゲージメントサーベイにマネージャーへの評価項目を組み込み、マネジメントの変化に対する部下の認識を経年で追跡しました。また、各チームの目標達成率、残業時間、離職率などのデータを収集し、マネジメント変革との相関を分析しました。
- 変革スピードのばらつき: マネージャーによって変革への適応スピードや理解度にばらつきが生じました。
- 解決策: オンラインコミュニティやワークショップを通じて、成功しているマネージャーの事例を共有し、互いに学び合える環境を整備しました。また、人事部門や一部の先行実践マネージャーがメンターとなり、遅れているマネージャーへの個別サポートを強化しました。
5. 導入による効果・成果
「Lead the Change」プログラム導入により、株式会社ネクストステージでは以下のような効果が確認されました。
- チームパフォーマンスの向上:
- プログラム開始から1年後、従業員サーベイにおける「チームの目標が明確である」という項目への肯定的な回答が15%向上しました。
- 主要プロジェクトにおける目標達成率が平均で10%改善しました。
- 一部の部署では、マネジメント変革と並行してチーム内の情報共有が活性化し、意思決定スピードが向上したという定性的な声が多数上がりました。
- 従業員エンゲージメントの向上:
- 全社的な従業員エンゲージメントサーベイのスコアがプログラム開始前と比較して8%向上しました。特に「上司とのコミュニケーション満足度」「チームへの貢献実感」に関する項目で顕著な改善が見られました。
- マネージャーに対する信頼度に関する項目への肯定的な回答が12%増加しました。
- 離職率の低下:
- プログラム対象部門における離職率が、前年比で約2%低下しました。特に、ミドルマネジメント層との関係性に起因する離職理由が減少傾向を示しました。
- 組織文化の変化:
- トップダウン一辺倒だった組織文化が、マネージャーとメンバー間の双方向コミュニケーションを重視する方向へと変化し始めました。
- 心理的安全性が高まり、メンバーが自由に意見を表明しやすくなったという声が聞かれるようになりました。
これらの成果は、多様な働き方という「制度」を現場で機能させるための「マネジメント」というソフト面の変革が成功したことによってもたらされたと言えます。
6. 取り組みが成功した要因分析
株式会社ネクストステージのミドルマネジメント変革が成功した主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: 働き方改革の成功にはミドルマネジメントの変革が不可欠であるというメッセージを継続的に発信し、必要なリソース(時間、予算、人員)を確保したことが、プログラム推進の大きな推進力となりました。
- 人事部門の計画性と粘り強いサポート: 課題分析、プログラム設計、パイロット実施、全社展開、そして継続的なフォローアップと改善という計画的なアプローチと、マネージャー個々人に対する粘り強いサポート体制が効果を発揮しました。
- 従業員の声に基づいた施策: 現場のリアルな課題を把握した上でプログラム内容を設計・改善したこと、また、効果測定にエンゲージメントサーベイを活用し、従業員の声を経年で追跡したことが、施策の的確性と継続的な改善に繋がりました。
- ツールと文化の両面からのアプローチ: 研修やコーチングによる意識改革だけでなく、ナレッジ共有プラットフォームや効果的な1on1ツールの活用を支援するなど、行動変容を促す仕組みづくりも同時に行ったことが重要でした。
7. 今後の展望
株式会社ネクストステージは、「Lead the Change」プログラムを今後も継続・発展させていく計画です。具体的には、以下のような取り組みを検討しています。
- 次世代リーダー育成: 若手社員の中から将来のマネージャー候補を選抜し、早期から支援型リーダーシップや多様なチームマネジメントに関するトレーニングを開始します。
- AIを活用したマネジメント支援: マネージャーの負担を軽減するため、AIを活用したチームの状態分析レポートや、1on1のアジェンダ提案などのサポートツールの導入を検討しています。
- エンゲージメントデータの更なる活用: エンゲージメントサーベイの結果とチームのパフォーマンスデータをより詳細に分析し、マネジメント施策の精度向上や、特定の課題を抱えるチームへの集中的なサポートに繋げます。
まとめ
株式会社ネクストステージの事例は、多様な働き方を単なる制度導入で終わらせず、それを現場で機能させるために不可欠なミドルマネジメント層の意識・行動変革に、計画的かつ粘り強く取り組むことの重要性を示しています。対面主体の管理型マネジメントから、離れて働くメンバーの自律性を引き出し、心理的安全性の高いチームを築く支援型リーダーシップへの転換は容易ではありません。しかし、適切な研修、仕組みづくり、そして経営層と人事部門の継続的なサポートがあれば、ミドルマネジメント層は多様な働き方における最大の推進力となり得ることを証明しました。
本事例が、多様な働き方推進におけるミドルマネジメントの課題に直面している企業の人事担当者の皆様にとって、具体的な解決策やノウハウを得る上での参考となれば幸いです。