株式会社キャリアパスデザイン:複線型人事制度への移行で実現した多様なキャリアパスと組織活性化事例
株式会社キャリアパスデザイン:複線型人事制度への移行で実現した多様なキャリアパスと組織活性化事例
多様な働き方の導入を検討されている人事担当者の皆様にとって、具体的な他社事例は実践的なヒントとなるでしょう。本稿では、株式会社キャリアパスデザインがどのように複線型人事制度を導入し、多様なキャリアパスの実現と組織活性化を達成したのか、その背景、プロセス、課題、そして成果について詳しくご紹介します。
導入の背景と目的:単線型人事制度の限界
精密機器メーカーである株式会社キャリアパスデザインでは、長年、管理職を目指す「総合職」を中心とした単線型の人事制度を運用してきました。しかし、近年、AIエンジニア、データサイエンティスト、高度な製造技術者など、特定の分野で卓越した専門性を持つ人材の重要性が高まっていました。
一方で、従来の制度では、専門性を深めるよりも管理職ポストに就くことが昇進・昇給の主要な道筋となっており、専門性を追求したいと考える優秀な人材のモチベーション維持が難しくなっていました。また、多様なキャリア志向を持つ従業員が増加する中で、画一的な制度では個々のキャリア形成を十分に支援できず、結果として従業員のエンゲージメント低下や離職リスクにつながる懸念が生じていました。
このような背景から、同社は以下の目的を掲げ、複線型人事制度への移行を検討し始めました。
- 多様なキャリアパスの提供: 管理職コースに加え、専門性を深めるエキスパートコースなど、従業員の多様なキャリア志向に対応できる選択肢を設ける。
- 専門職人材の適切な評価と処遇: 高度な専門性を持つ人材を、管理職と同等あるいはそれ以上に適切に評価し、魅力的な処遇を提供する。
- 従業員のエンゲージメント向上: 個々のキャリア目標設定と実現を支援することで、働きがいと企業への貢献意欲を高める。
- 組織全体の活性化: 多様な人材がそれぞれの強みを活かせる環境を整備し、組織の専門性向上とイノベーション創出を促進する。
- 優秀な人材の確保と定着: 魅力的なキャリアパスを提供することで、外部からの採用競争力を高め、既存社員の定着率を向上させる。
具体的な取り組み内容:複数のキャリアコースと評価体系の構築
株式会社キャリアパスデザインが導入した複線型人事制度の主な内容は以下の通りです。
- キャリアコースの設定: 従来の「総合職」一本槍から、以下の3つのキャリアコースを新設しました。
- マネジメントコース: 組織マネジメントを通じて事業貢献を目指すコース。
- エキスパートコース: 特定分野の専門性を極め、技術開発やソリューション提供を通じて事業貢献を目指すコース。
- プロフェッショナルコース: 経営企画、人事、財務、法務など、特定の職能分野における高度な専門性で事業貢献を目指すコース(後に導入)。
- 等級・評価・報酬体系の見直し: 各コースの役割と貢献度に基づき、新たな等級制度、評価基準、報酬体系を構築しました。特に、エキスパートコースにおいては、専門性のレベル、社内外への影響力、後進育成といった要素を評価基準に組み込み、マネジメントコースの同等等級者と遜色ない報酬水準を設定しました。
- キャリア面談と研修制度の強化: 従業員が自身のキャリア志向や適性を考え、適切なコースを選択できるよう、定期的なキャリア面談を制度化しました。また、各コースで求められるスキルを習得するための研修プログラムを拡充しました。
- 社内広報と説明会の実施: 新制度の目的、内容、選択方法について、全従業員向けの説明会や社内報、eラーニングなどを活用し、丁寧に周知徹底を図りました。
導入プロセス:計画的なステップと丁寧なコミュニケーション
複線型人事制度の導入は、約2年の期間をかけて慎重に進められました。
- プロジェクトチームの発足: 人事部が主導し、各部署の代表者を加えたプロジェクトチームを発足させました。
- 現状分析と課題特定: 既存の人事制度の問題点を詳細に分析し、複線型制度の必要性と期待される効果を明確化しました。
- 制度設計: 外部コンサルタントの助言も受けながら、同社の事業特性や組織文化に合ったキャリアコース、等級、評価、報酬体系の詳細を設計しました。
- 関係部署との調整: 各部署のマネージャーとの個別協議を重ね、制度への理解促進と現場ニーズの吸い上げを行いました。
- 従業員への情報提供と意見収集: 説明会を繰り返し開催し、従業員からの疑問や懸念に対して真摯に対応しました。匿名でのアンケートも実施し、制度設計へのフィードバックとしました。
- 試験運用(一部部署): 特定の部署で新制度を試験的に運用し、課題や運用上の問題点を洗い出しました。
- 全社展開と継続的なフォロー: 試験運用での知見を活かし、制度を修正した上で全社展開を実施。導入後も定期的な説明会や個別相談会、運用状況のモニタリングを続けました。
直面した課題と解決策
導入プロセスでは、いくつかの課題に直面しました。
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課題1:従業員の制度理解とキャリア選択の迷い
- 新設されたコースや評価基準について、従業員が十分に理解できず、自身のキャリアをどう考えれば良いか迷うケースが多く見られました。
- 解決策: 一方的な説明会だけでなく、少人数でのワークショップ形式でのキャリアディスカッション機会を設けたり、ロールモデルとなる先輩社員のインタビュー記事を社内報に掲載したりすることで、具体的なイメージを持てるように工夫しました。また、キャリア相談窓口を設置し、個別の疑問や不安に対応しました。
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課題2:管理職のマネジメントの変化への戸惑い
- 部下が多様なコースを選択することで、従来の管理職としての役割(メンバー全員をマネジメント候補として育成する)から、各コースの特性に応じた育成・評価への対応が求められるようになり、戸惑う管理職が見られました。
- 解決策: マネジメント層向けに、新制度の目的、各コースの特徴、部下のキャリア面談の進め方、コース別の育成・評価のポイントなどに焦点を当てた研修を実施しました。また、人事部が個別相談に応じる機会を増やし、管理職の制度理解と運用スキル向上を支援しました。
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課題3:評価基準の公平性と整合性の確保
- 異なるコース間で評価基準を設ける際に、それぞれの貢献をどのように比較・評価すれば公平性が保たれるか、設計と運用において困難が伴いました。
- 解決策: プロジェクトチーム内で議論を重ね、各コースの最上位等級が同等の企業貢献度と責任を持つレベルになるよう基準を調整しました。また、評価者研修を徹底し、評価基準の解釈のばらつきを最小限に抑える努力を続けました。
導入による効果と成果
複線型人事制度の導入により、株式会社キャリアパスデザインは以下の効果を実感しています。
- 従業員エンゲージメントの向上: 従業員アンケートにおいて、「自身の専門性を活かせる機会がある」「会社が多様なキャリアを支援していると感じる」といった項目のスコアが、制度導入前と比較して平均15%向上しました。特に、エキスパートコースを選択した従業員のエンゲージメント向上率が顕著でした(定量)。
- 専門職人材の定着: 高度な専門スキルを持つ特定のエンジニア職種における離職率が、導入前の年間平均5%から導入後は年間平均2%に低下しました(定量)。専門性を正当に評価される制度が、定着に貢献していると考えられます。
- 組織の専門性向上: 各分野のエキスパートコースに属する従業員を中心に、社内勉強会や技術共有が活発化し、組織全体の専門性レベルが底上げされている実感があります(定性)。
- キャリア自律意識の醸成: 従業員が自身のキャリアについて深く考え、会社との対話を通じて実現しようとする意識が高まりました。社内公募制度への応募者数も増加傾向にあります(定性)。
- 採用における魅力向上: 新卒・中途採用において、「多様なキャリアパスが選択できる」点を訴求することで、特に専門スキルを持つ応募者からの関心が高まっています(定性)。
取り組みが成功した要因
この取り組みが成功した主な要因として、以下の点が挙げられます。
- 経営層の強いコミットメント: 経営層が多様な人材活躍の重要性を理解し、制度導入の推進に強いリーダーシップを発揮しました。
- 丁寧な社内コミュニケーション: 制度の目的、内容、運用について、様々なチャネルを活用し、従業員に対して粘り強く丁寧な説明を重ねました。
- 管理職の巻き込みと育成: 制度の運用を担う管理職に対し、目的理解とスキル習得のための研修と継続的なサポートを実施しました。
- 柔軟な運用と見直し: 導入後も従業員や管理職からのフィードバックを収集し、必要に応じて制度や運用方法の微調整を行いました。
今後の展望
株式会社キャリアパスデザインでは、今後も複線型人事制度を基盤として、従業員の多様な働き方とキャリア形成を支援していく方針です。具体的には、プロフェッショナルコースの対象職種拡大、コース間の移行ルールの柔軟化、従業員が自らのスキルやキャリアを可視化できるツールの導入、そして、この制度がもたらす組織文化の変化(例:専門性の尊重、コース間の連携促進)を定着させるための施策などを検討しています。
複線型人事制度は、導入プロセスにおいて様々な課題が伴いますが、従業員の多様なキャリア志向に応え、組織全体の専門性向上と活性化を実現するための有効な手段となり得ます。株式会社キャリアパスデザインの事例が、皆様の会社の働き方改革推進の一助となれば幸いです。