株式会社アライメント:成果連動型の働き方と人事評価制度改革で、従業員の自律性と組織の生産性を向上させた事例
事例概要
本記事では、テクノロジーソリューションを提供する株式会社アライメントがどのように成果連動型の働き方と人事評価制度を改革し、従業員の自律性を高めながら組織全体の生産性を向上させたのか、その具体的な取り組み事例をご紹介します。
会社概要
- 企業名: 株式会社アライメント
- 事業内容: クラウドサービス開発・提供、ITコンサルティング
- 従業員数: 約1,200名
働き方改革導入の背景と目的
株式会社アライメントでは、事業の成長に伴い従業員数が増加し、従来の「時間と場所を拘束する働き方」では以下の課題が顕在化していました。
- 生産性の伸び悩み: 長時間労働を是とする文化が一部に残り、必ずしも成果に結びついていない状況が見られました。
- 従業員のエンゲージメント低下: 画一的な働き方が多様なライフスタイルや価値観を持つ従業員のニーズに応えられず、不満や離職の一因となっていました。
- 外部環境の変化への対応: 競合他社の柔軟な働き方導入や、優秀な人材の採用競争激化に対応する必要がありました。
- イノベーション創出の停滞: 決められた時間・場所でのみ働くスタイルが、偶発的なコミュニケーションや創造的な協業を阻害していました。
これらの課題を解決し、持続的な成長を実現するために、同社は「成果に最大限コミットしつつ、時間と場所にとらわれない柔軟な働き方」への変革を決断しました。最終的な目的は、従業員の自律性を高め、個々のパフォーマンスと組織全体の生産性を同時に向上させることでした。
具体的な取り組み内容
同社は、働き方と人事評価を一体的に改革するアプローチを取りました。
1. 柔軟な時間・場所選択制度の導入
- スーパーフレックスタイム制度: コアタイムを完全に廃止し、従業員が自身の業務やライフスタイルに合わせて始業・終業時間を自由に設定できるようにしました。ただし、チームやプロジェクトの会議への参加は義務付けられました。
- リモートワーク・サテライトオフィス制度の拡充: 全従業員を対象に、自宅やサテライトオフィスなど、会社が定めるセキュリティ基準を満たす場所であれば、場所にとらわれず働ける制度を整備しました。出社頻度は部署やチームの状況に応じて柔軟に決定する方針としました。
- 必要なツールの導入・整備: セキュアなVPN接続、オンライン会議システム、チャットツール、クラウドストレージ、プロジェクト管理ツールなどを全従業員に提供し、物理的な距離があっても円滑にコミュニケーション・協業できる環境を整えました。
2. 成果評価への全面的なシフトと人事評価制度改革
- 目標設定プロセスの見直し:
- 従来のMBO(目標管理制度)をベースとしつつ、より成果指標(KPI)を明確にし、個人の目標をチーム・組織の目標(OKR)に強く紐づけるようにしました。
- 目標設定の際には、マネージャーと従業員が頻繁に1on1を実施し、目標の難易度、測定可能性、関連性などを丁寧にすり合わせるプロセスを重視しました。
- 評価基準の変更:
- 勤務時間や出社日数といったプロセスやインプットに関する評価ウェイトを大幅に減らし、設定した目標に対する達成度や、組織への貢献といったアウトプット・成果に関する評価ウェイトを増加させました。
- 成果だけでなく、バリューの発揮度(行動評価)も評価対象としましたが、こちらも成果に繋がる行動に焦点を当てるように見直しました。
- 評価プロセスの変更:
- 半期に一度の正式評価に加え、四半期に一度の目標進捗確認とフィードバック、およびプロジェクト完了ごとの簡易レビューを必須としました。これにより、期中における軌道修正や、目標達成に向けた支援をタイムリーに行えるようにしました。
- 多面評価(360度評価)の一部導入を検討し、チーム内での協調性や貢献度といった側面も評価に反映させる仕組みの試行を開始しました。
- 評価者トレーニングの強化: マネージャー層に対し、成果に基づいた公平な評価を行うための研修、目標設定・フィードバックのスキル向上を目的としたトレーニングを定期的に実施しました。
3. 成果管理・可視化ツールの導入
- 全社統一の目標管理・評価ツールを導入し、個人目標、チーム目標、組織OKRの連携状況、目標の進捗状況、評価結果などを従業員自身およびマネージャーがリアルタイムで確認できるようにしました。これにより、目標達成に向けた意識付けと、成果に基づいた評価の透明性を高めました。
導入プロセスと推進体制
同社の働き方改革は、以下のステップで進められました。
- 経営層の決断とコミットメント: 最高経営責任者が改革の必要性と目指す姿を明確に示し、全社にメッセージを発信しました。
- 推進プロジェクトチームの発足: 人事部が中心となり、総務部、IT部門、現場代表者からなるプロジェクトチームを組成しました。
- 現状分析と課題の特定: 従業員アンケート、インタビュー、各部署の業務実態調査などを通じて、働き方に関する現状の課題と従業員のニーズを詳細に把握しました。
- 制度設計: 専門家のアドバイスも得ながら、柔軟な働き方制度と成果評価制度の具体的な設計を行いました。特に、評価制度については現場からの意見収集と試行錯誤を重ねました。
- パイロット導入: 一部の部署で新しい制度とツールを先行導入し、運用上の課題や効果を検証しました。
- 全社展開と説明会の実施: パイロット導入での知見を活かし、制度を修正した後、全従業員を対象に制度導入の背景、目的、内容、期待される効果について丁寧な説明会を実施しました。質疑応答の時間を十分に設け、従業員の不安や疑問を解消することに努めました。
- マネージャー研修の実施: 新しい評価制度やマネジメントスタイルに対応するためのマネージャー向け研修を徹底して実施しました。
- 継続的な効果測定と改善: 制度導入後も定期的に従業員満足度調査や生産性指標のモニタリングを行い、改善点があれば制度や運用方法を見直すサイクルを確立しました。
直面した課題と解決策
課題1:成果の定義や測定が難しい業務への適用
特に、間接部門や研究開発部門など、定量的な成果が見えにくい業務において、成果目標の設定や評価が難しいという課題に直面しました。
解決策: * 間接部門では、業務効率化に貢献する成果(例:承認プロセスのリードタイム短縮率)や、他部署からの貢献度評価などを導入しました。 * 研究開発部門では、特許取得数だけでなく、研究プロセスの進捗度、他部門との協業によるシナジー効果、新しい知見の獲得や共有といった定性的な目標や成果も評価対象に含め、評価基準を部署ごとに詳細にカスタマイズしました。 * マネージャーと従業員の間で、目標設定の難易度について十分に議論し、チャレンジングかつ達成可能な目標を設定するためのガイドラインを整備しました。
課題2:マネージャーのマネジメントスタイル転換
部下の働き方が多様化し、物理的に顔が見えない状況が増えたことで、時間管理から成果管理へのマネジメントスタイルへの転換が求められましたが、一部のマネージャーに戸惑いが見られました。
解決策: * 「マイクロマネジメントをせず、成果で評価する」という新しいマネジメント哲学を繰り返し伝え、研修だけでなくOJTや個別メンタリングも実施しました。 * 定期的な1on1の実施を推奨し、その目的を「部下の進捗確認と評価」だけでなく、「目標達成に向けた課題の共有と支援」「キャリア開発の相談」と定義し直しました。 * マネージャー向けの成果管理・目標設定ツールの活用支援を強化し、テクノロジーがマネジメントをサポートする体制を整えました。
課題3:リモートワーク下でのコミュニケーション不足とチームワーク維持
柔軟な働き方が可能になった反面、偶発的なコミュニケーションが減少し、チーム内での連携や一体感が希薄になる懸念が生じました。
解決策: * オンラインチャットツールの雑談用チャンネル開設や、バーチャルコーヒーブレイク時間の推奨など、意図的に非公式なコミュニケーション機会を設けました。 * プロジェクト開始時や節目ごとに、オンライン/オフラインを組み合わせたチームビルディングイベントを実施しました。 * 週次のチームミーティングを必須とし、全員が顔を合わせて業務進捗や課題を共有する時間を確保しました。 * 成果評価において、個人の成果だけでなく、チームへの貢献度や協調性といった要素も考慮に入れることで、チームワークを重視する姿勢を示しました。
導入による効果・成果
これらの取り組みの結果、株式会社アライメントでは以下の効果・成果が得られました。
- 生産性の向上:
- 特定プロジェクトにおける開発リードタイムが平均で約15%短縮されました。
- 営業部門における成約単価が約10%向上し、一人あたりの売上高も増加傾向にあります。
- 管理部門では、承認フローのデジタル化と担当者の柔軟な時間活用により、経費精算などの処理時間が約20%削減されました。
- 従業員エンゲージメント・満足度の向上:
- 制度導入後の従業員満足度調査では、「働き方の柔軟性」に関する項目で約30%の改善が見られました。
- 「評価への納得感」に関する項目も、評価基準の透明化とフィードバック機会の増加により約25%向上しました。
- 全社のエンゲージメントスコアも、導入前と比較して約8ポイント上昇しました。
- 離職率の低下: 特に、優秀な層や育児・介護中の従業員の離職率が導入前と比較して約5%低下しました。柔軟な働き方と成果に基づいた評価が、従業員のキャリア継続を後押ししていると考えられます。
- 採用力の向上: 柔軟な働き方と成果主義を打ち出すことで、多様な経験やスキルを持つ優秀な人材からの応募が増加しました。
- コスト削減: オフィススペースの一部見直しや通勤手当の最適化により、間接コストの削減にも繋がりました。
取り組みが成功した要因分析
- 経営層の強いリーダーシップと一貫したメッセージ: 改革の必要性と方向性を明確に示し続け、組織全体に浸透させました。
- 「成果連動型」という明確な軸: 単に柔軟な働き方を導入するだけでなく、「成果を出すことが前提」という共通認識を持つことで、規律ある働き方を促進しました。
- 働き方と評価制度の一体的な改革: 柔軟な働き方を支えるための評価制度を同時に変革したことが、制度の実効性を高めました。
- 人事部門主導の丁寧なプロセス: 現場の声を吸い上げ、課題を解決しながら段階的に進めたこと、説明会や研修を徹底したことが、従業員の理解と協力を得る上で重要でした。
- テクノロジーの効果的な活用: 成果管理・目標設定ツールの導入が、制度運用を支え、透明性を確保する上で不可欠でした。
今後の展望
株式会社アライメントは、今後もこの成果連動型の働き方をさらに進化させていく方針です。
- マネージャーの成果マネジメントスキル向上: 研修内容のアップデートや、より実践的なコーチングプログラムの導入を検討しています。
- 評価制度の継続的な見直し: 市場や事業環境の変化に合わせて、評価基準やプロセスを柔軟に見直していきます。特に、チーム貢献や組織横断的な協業といった側面をどのように評価に反映させるかが今後の課題です。
- Well-beingとの連携強化: 成果創出と従業員の心身の健康の両立を目指し、健康管理ツールとの連携や、休息に関する意識啓発なども進めていく予定です。
- 生成AIの活用: 成果目標のドラフト作成支援や、定型的なフィードバックの自動化など、生成AIを評価・目標管理プロセスに活用することで、マネージャーの負担を軽減し、より質の高い面談やフィードバックに時間を充てられるようにすることを目指しています。
本事例は、柔軟な働き方を単なる福利厚生ではなく、組織の生産性向上と従業員の自律性向上に繋げるための手段として捉え、それを支える人事評価制度の改革を同時に進めることの重要性を示しています。成果に焦点を当て、それを適切に評価・可視化する仕組みを構築することが、多様な働き方時代における組織マネジメントの鍵となるでしょう。