株式会社プログレス:残業削減目標達成と従業員エンゲージメント向上を実現した全社的な働き方改革事例
働き方改革は、多くの企業にとって重要な経営課題となっています。特に長時間労働の常態化は、従業員の健康を損なうだけでなく、生産性の低下や優秀な人材の流出にも繋がりかねません。本記事では、全社的な働き方改革を推進し、長時間労働の是正と生産性向上、そして従業員エンゲージメントの向上を同時に実現した株式会社プログレス(仮名)の事例をご紹介します。
多様な働き方導入の背景・目的
株式会社プログレスでは、ITサービス事業の拡大に伴い、慢性的な長時間労働が課題となっていました。プロジェクトの納期遵守や緊急対応のために、多くの従業員が深夜まで業務を行うことが常態化しており、健康面への懸念や、ライフワークバランスの取りづらさから、若手従業員の離職率が増加傾向にありました。
経営層は、この状況が持続的な成長を阻害すると判断し、抜本的な働き方改革の必要性を認識しました。改革の目的は、単に労働時間を削減することではなく、「生産性を向上させ、限られた時間の中で最大の成果を出す」ことで、従業員のワークエンゲージメントを高め、組織全体の活性化を目指すことでした。具体的な目標として、全社平均残業時間を3年間で20%削減し、従業員エンゲージメントスコアを10ポイント向上させることを掲げました。
具体的な取り組み内容
株式会社プログレスでは、目的達成のために多角的なアプローチで働き方改革を進めました。
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労働時間管理の徹底と意識改革:
- 勤怠管理システムの改修:残業時間の事前申請・承認フローを厳格化し、規定時間を超える場合は理由と対策の明記を必須としました。
- ノー残業デーの徹底:毎週水曜日を全社的なノー残業デーとし、経営層や管理職が率先して定時退社を実践しました。
- 長時間労働者へのアラート:一定の残業時間が見込まれる従業員に対し、産業医面談や人事担当者との面談機会を設け、健康管理と業務改善のサポートを行いました。
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業務効率化ツールの導入と活用促進:
- クラウド型コラボレーションツールの導入:ファイル共有、オンライン会議、チャット機能を統合したツールを導入し、情報共有の迅速化と会議時間の削減を図りました。
- RPA(Robotic Process Automation)の導入:経費精算や定型レポート作成などのルーチンワークにRPAを適用し、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整備しました。
- タスク管理ツールの活用推進:プロジェクトや個人のタスクを見える化し、優先順位付けや進捗管理を効率化しました。
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会議文化の見直し:
- 「時間厳守」「アジェンダ必須」「参加者最小限」「議事録共有」を徹底する会議ルールを策定しました。
- スタンディングミーティングやショートミーティングを推奨し、短時間で集中的な議論を行う文化を醸成しました。
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管理職向け研修と意識改革:
- メンバーの業務進捗管理、適切な権限委譲、部下の健康管理に関する管理職向け研修を定期的に実施しました。
- 労働時間だけでなく、アウトプットで評価する文化への転換を促しました。
導入プロセス
働き方改革は、社長をリーダーとする全社横断的なプロジェクトチームを立ち上げ、約半年の準備期間を経てスタートしました。
まず、全従業員に対して現状の課題や改革の目的、目指す姿に関する説明会を実施し、アンケートを通じて現場の意見や懸念点を収集しました。これにより、従業員の共感と協力を得るための土台を築きました。
次に、一部の部署で先行的にノー残業デーやクラウドツール導入のトライアルを実施し、課題や成功要因を検証しました。その結果を踏まえ、全社展開の計画を策定しました。
全社展開時は、ITツールの操作研修を全従業員向けに実施し、スムーズな移行を支援しました。また、改革の進捗状況や成功事例を社内報やポータルサイトで定期的に発信し、従業員のモチベーション維持と意識向上に努めました。管理職には、個別のフォローアップを行い、部下の改革推進をサポートしました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
課題1:現場からの抵抗や戸惑い 長年慣れ親しんだ働き方からの変化に対し、「業務が終わらない」「評価が下がるのではないか」といった抵抗や戸惑いの声が上がりました。
解決策1:丁寧なコミュニケーションと段階的な導入 説明会や個別面談を繰り返し行い、改革の目的が単なる労働時間削減ではなく、生産性向上と従業員のwell-being向上にあることを丁寧に伝えました。また、急激な変化ではなく、トライアル導入や段階的な目標設定を行うことで、現場が変化に適応できる時間を与えました。
課題2:一時的な生産性の低下 業務効率化ツールの習熟に時間がかかったり、会議時間の削減によって情報伝達に一時的な遅れが生じたりしました。
解決策2:手厚いサポートとルールの見直し ITツールの操作研修を充実させ、社内ヘルプデスクを設置しました。また、会議ルールの運用状況を随時レビューし、必要な情報共有が滞りなく行われるよう、メールやチャットでの情報共有ルールの見直しを行いました。
課題3:部署ごとの進捗のばらつき 改革に対する理解度や推進体制によって、部署間で進捗にばらつきが生じました。
解決策3:成功事例の共有と管理職への個別サポート 成功している部署の取り組み内容や成果を社内全体に共有し、他の部署の参考にしました。また、進捗が遅れている部署の管理職には、人事担当者やプロジェクトチームが個別にヒアリングを行い、課題に応じた具体的なアドバイスやサポートを提供しました。
導入による効果・成果
これらの取り組みの結果、株式会社プログレスでは、働き方改革の目的を着実に達成することができました。
- 長時間労働の是正: 改革開始から3年後には、全社平均残業時間が導入前の月25時間から月18時間へと、約28%削減を達成しました。特に、定時退社日はほぼ全ての従業員が実践できるようになりました。
- 生産性向上: 従業員一人当たりの売上高が改革開始前に比べて年間15%増加しました。業務効率化ツールやRPAの導入により、コア業務に集中できる時間が増えたことが要因と考えられます。
- 従業員エンゲージメント向上: 定期的に実施している従業員満足度調査において、「働きがいを感じるか」「会社に貢献したいと思うか」といった項目を含むエンゲージメントスコアが12ポイント向上しました。長時間労働が是正され、ワークライフバランスが改善されたことが、従業員の士気向上に繋がりました。
- 離職率の低下: 特に若手従業員の離職率が、改革開始前の年間12%から8%へと低下しました。働きやすくなったと感じる従業員が増え、人材の定着が進みました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社プログレスの働き方改革が成功した主な要因は以下の点にあります。
- 経営層の強いコミットメント: 社長自らが改革の旗振り役となり、具体的な目標設定や進捗確認を主導したことで、全社的な推進力が生まれました。
- 目的の明確化と共有: 単なる残業削減ではなく、「生産性向上による成長」と「従業員の幸福」という明確な目的を全従業員に共有し、共感を得られたことが大きいです。
- 現場を巻き込んだプロセス: 計画段階から従業員の意見を収集し、トライアル導入を経て全社展開したことで、現場の実情に合った実行可能な施策となりました。
- ITツールの戦略的な活用: 課題解決や目的達成に効果的なITツールを選定し、単に導入するだけでなく、従業員が使いこなせるように手厚いサポートを提供しました。
- データに基づいた継続的な改善: 残業時間や生産性、エンゲージメントスコアなどのデータを定期的に測定・分析し、施策の効果を検証しながら、課題に応じた改善活動を継続しました。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社プログレスでは、今回の働き方改革を一過性のものとせず、持続的な組織文化として定着させるための取り組みを続けています。今後は、さらなる生産性向上を目指し、AIを活用した業務最適化や、個々の従業員のキャリア自律を支援する研修プログラムの拡充などを検討しています。また、育児や介護と仕事の両立、副業・兼業など、さらに多様な働き方を支援する制度の導入も視野に入れ、変化する社会環境や従業員のニーズに応じた柔軟な組織づくりを進めていく方針です。
株式会社プログレスの事例は、長時間労働の是正という課題に対し、生産性向上と従業員エンゲージメント向上を同時に追求することが可能であることを示しています。経営層の強いリーダーシップ、現場を巻き込むプロセス、そしてデータに基づいた継続的な改善が、改革を成功に導く鍵と言えるでしょう。