株式会社リカバリーキャリア:キャリアブレイクからのスムーズな復帰と再活躍を支援し、人材定着とエンゲージメントを向上させた事例
株式会社リカバリーキャリアの挑戦:キャリアブレイクを「キャリアの一部」と捉える復帰支援
近年、働き方の多様化が進む中で、従業員が育児、介護、疾病治療、あるいは自己学習などを理由に一時的に職場を離れる「キャリアブレイク」を経験するケースが増えています。優秀な人材がキャリアブレイク後もスムーズに職場に復帰し、再び活躍できる環境をいかに整備するかは、多くの企業にとって重要な経営課題の一つとなっています。
本記事では、ITサービスを提供する株式会社リカバリーキャリアが、キャリアブレイクからの復帰支援を強化することで、人材の定着と従業員のエンゲージメント向上を実現した具体的な取り組み事例をご紹介します。同社がどのような課題意識を持ち、どのような施策を実行し、どのような成果を上げたのか、詳細を見ていきましょう。
導入の背景・目的:優秀な人材の流出を防ぎ、多様な経験を組織の力に
株式会社リカバリーキャリアでは、以前からライフイベントを理由とした休業制度は整備されていました。しかし、キャリアブレイクからの復帰に際して、以下のような課題が顕在化していました。
- 復帰への心理的ハードル: 長期間のブランクに対する不安や、復帰後の働き方への懸念から、退職を選択する従業員が一定数存在しました。
- スキルや知識のギャップ: IT業界の技術や情報アップデートは速く、ブランク期間中に知識やスキルが陳腐化するリスクがありました。復帰後にキャッチアップに苦労し、本来のパフォーマンスを発揮できないケースが見られました。
- 管理職のマネジメント負荷: 復帰者の状況に応じたサポートや、チームメンバーの理解促進といった対応が、管理職個人の経験や能力に委ねられる傾向がありました。
- 多様な経験の機会損失: キャリアブレイク中に培われた多様な経験(育児や介護での問題解決能力、自己学習での新たな知識など)が、復帰後に十分に組織内で活かされない状況がありました。
これらの課題に対し、同社は「キャリアブレイクはキャリアの断絶ではなく、多様な経験を積み重ねるキャリアの一部である」と捉え直しました。そして、優秀な人材の定着率向上、組織のダイバーシティ推進、そして従業員エンゲージメントの向上を目的に、キャリアブレイクからの復帰・再活躍を包括的に支援するプロジェクトを立ち上げました。
具体的な取り組み内容:復帰前後の手厚いサポートプログラム
同社が導入した主な取り組みは以下の通りです。
- 復職・復帰前オンライン研修プログラム:
- IT業界の最新動向や社内システムのアップデート情報を学べるeラーニングコンテンツを提供。
- ブランク期間中の不安を解消するためのメンタルヘルスケア研修。
- 短時間勤務やフレックスタイム制度など、復帰後の働き方の選択肢に関する情報提供と個別相談。
- 復帰時期や業務内容に合わせたテーラーメイド型の研修内容も検討。
- メンター制度(リバースメンタリング含む):
- 復帰経験のある先輩従業員をメンターとして、復帰者の相談に乗る制度を導入。ブランク期間中の過ごし方や復帰後の困りごとなどを気軽に相談できる環境を整備しました。
- さらに、復帰者がキャリアブレイク中に得た経験(例:育児中のタスク管理術、介護サービスの最新情報など)を組織内に共有する「リバースメンタリング」の仕組みも試行的に導入し、多様な知見の活用を促しました。
- キャリア相談窓口の拡充:
- 人事部門内に、キャリアブレイクや復帰に関する専門の相談員を配置。制度の説明だけでなく、個別のキャリアプランに関する相談にも対応しました。
- 柔軟な働き方オプションの推奨と運用改善:
- 法定以上の短時間勤務制度の利用促進、スーパーフレックスタイム制度の柔軟な運用を徹底。復帰初期だけでなく、従業員の状況に応じて継続的に利用できるよう、社内周知と管理職への理解促進を図りました。
- 評価制度における「キャッチアップ期間」の考慮:
- 復帰後一定期間は、目標設定や評価において業務への慣れやキャッチアップ状況を考慮するガイドラインを設定。これにより、復帰者が過度なプレッシャーを感じずに業務に集中できる環境を整備しました。
- 社内情報共有ツールのアクセス維持:
- 希望する従業員には、キャリアブレイク期間中も社内報や一部の情報共有ツールへのアクセス権限を付与。完全に組織から切り離される感覚を軽減し、スムーズな情報連携を支援しました。
導入プロセス:従業員の声に基づいた段階的なアプローチ
同社は、これらの施策を約1年間かけて段階的に導入しました。
- 現状把握とニーズ調査: キャリアブレイク経験者や現在休業中の従業員、その元同僚・管理職への詳細なヒアリングとアンケートを実施。具体的な課題や復帰に必要なサポートに関する現場の声を収集しました。
- プロジェクトチーム発足: 人事、現場部門の代表、経営層を含む多様なメンバーで構成されるプロジェクトチームを発足。施策の企画立案、推進、効果測定を担いました。
- 制度設計とトライアル: 収集したニーズに基づき、研修プログラムやメンター制度などの具体的な内容を設計。一部の復帰者を対象にトライアルを実施し、フィードバックを収集しました。
- 全社展開と周知: トライアルでの改善点を踏まえ、全従業員向けに新しい支援制度を正式に展開。社内報、説明会、eラーニングなどを通じて制度内容と利用方法を丁寧に周知しました。特に、管理職向けには、復帰者への適切なサポート方法や制度活用のポイントに関する研修を重点的に実施しました。
- 継続的な評価と改善: 制度導入後も定期的に復帰者や管理職からのフィードバックを収集し、プログラム内容や運用の改善を継続的に行っています。
直面した課題と解決策
課題1:復帰者のスキルギャップへの対応の難しさ 個々のブランク期間や元の専門性によって、必要なキャッチアップ内容が異なるため、一律の研修では対応しきれないという課題がありました。 解決策: 復帰者と管理職、人事担当者が連携し、復帰前の面談で必要なスキルや知識を特定。それに基づき、既存のeラーニングコンテンツを組み合わせたり、外部研修を紹介したりするなど、個別の状況に合わせた研修計画を策定するプロセスを強化しました。
課題2:復帰者を受け入れるチーム側の理解とサポート体制 復帰者がブランク期間前と同じような働き方ができない場合、チームメンバーの業務負担が増えることへの懸念や、復帰者への適切な接し方に悩む声が聞かれました。 解決策: 管理職向け研修の中で、ダイバーシティマネジメントの一環として、キャリアブレイクからの復帰者をチームとしてどのようにサポートしていくか、具体的なコミュニケーション方法や業務分担の工夫について事例を交えて解説しました。また、チーム内で事前に復帰者の状況や利用できる制度について共有し、協力的で心理的安全性の高い雰囲気づくりを推奨しました。
課題3:管理職のマネジメント負荷増加 復帰者の個別の状況に応じたフォローや、制度の理解・適用に関する管理職の負担が増加しました。 解決策: 人事部門内に相談窓口を設置し、管理職がいつでも相談できる体制を整備しました。また、復帰者との面談で確認すべき事項をまとめたチェックリストや、利用可能な制度を一覧化した資料を作成・配布し、管理職の負担軽減を図りました。
導入による効果・成果:定着率向上と組織の活性化
これらの取り組みの結果、株式会社リカバリーキャリアでは以下のような効果・成果が見られました。
- キャリアブレイク後の復帰率向上: 制度導入前の3年間平均と比較し、キャリアブレイクを終了した従業員の復帰率が約15%向上しました。
- 復帰後の定着率向上: 復帰後1年以内の離職率が約10%低下しました。これにより、採用・教育コストの削減にも繋がっています。
- 従業員エンゲージメント向上: 特に、将来キャリアブレイクの可能性がある層(若手、女性従業員など)を中心に、「会社が従業員のキャリアを長期的にサポートしてくれる」という信頼感が高まり、組織へのエンゲージメントが向上したという声が多く聞かれました。
- 組織の活性化: 復帰者がキャリアブレイク中に得た多様な視点や経験(例:消費者としての視点、非日常的な問題解決経験など)を業務に活かすケースが見られるようになり、組織の新たな視点やイノベーションに繋がる可能性が生まれています。リバースメンタリングも、社内コミュニケーションの活性化に貢献しています。
- 企業イメージの向上: 「従業員を大切にする企業」として、採用活動においてもポジティブな影響が出ています。
取り組みが成功した要因分析
同社の取り組みが成功した主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: キャリアブレイク復帰支援の重要性を経営戦略として位置づけ、必要なリソースを投入したこと。
- 従業員のニーズに基づいた制度設計: 現場の声を丁寧に収集し、実態に即したサポート内容を設計したこと。
- 丁寧な社内コミュニケーション: 制度の目的や内容を全従業員に分かりやすく伝え、特に管理職への理解促進と協力体制の構築に力を入れたこと。
- 継続的なフィードバックと改善: 制度導入後もPDCAサイクルを回し、より効果的な支援となるよう柔軟に見直しを行ったこと。
今後の展望:対象拡大と更なる柔軟性
株式会社リカバリーキャリアでは、今後、この支援制度の対象を配偶者の転勤帯同や自己啓発目的の長期休暇など、より多様なキャリアブレイクのケースに拡大することを検討しています。また、ブランク期間中の情報共有や簡単なプロジェクトへの参加を可能にするなど、復帰前から組織との繋がりを維持できる仕組みづくりを進め、従業員一人ひとりのキャリアをより手厚くサポートしていく方針です。
多様な働き方が進む現代において、キャリアブレイク支援は単なる福利厚生ではなく、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠な人事戦略の一つと言えるでしょう。株式会社リカバリーキャリアの事例は、キャリアブレイクを前向きに捉え、従業員の潜在能力を最大限に引き出すための具体的なヒントを提供しています。