株式会社コラボリンク:心理的安全性を高めるリモートチーム運営でエンゲージメントと創造性を向上させた事例
はじめに
働き方改革の進展により、リモートワークは多くの企業で標準的な働き方の一つとなりました。しかし、物理的な距離がある中で、いかにチームの一体感を保ち、心理的な安全性を確保するかが新たな課題として浮上しています。
本稿では、リモートワーク環境下でチーム内の心理的安全性の向上に積極的に取り組み、従業員のエンゲージメントと創造性の向上に成功した株式会社コラボリンクの事例をご紹介します。同社がどのように課題を特定し、具体的な施策を実行し、どのような成果を得たのか、そのプロセスと結果を詳しく見てまいります。
多様な働き方導入の背景・目的
株式会社コラボリンクは、以前から一部の部門でリモートワークを導入していましたが、コロナ禍を契機に全社的にリモートワークを基本とする働き方へ移行しました。これにより、通勤時間の削減や柔軟な時間管理が可能となり、多くの従業員から働きやすさに対する肯定的な声が聞かれました。
一方で、オンラインでのコミュニケーションが中心となるにつれて、以前のように気軽に雑談したり、困ったときにすぐに相談したりすることが難しくなったという声も聞かれるようになりました。特に、新しいプロジェクトでのアイデア出しや、難しい課題への挑戦において、「間違ったことを言ってしまうのではないか」「否定されるのではないか」といった懸念から、発言を躊躇する従業員が見受けられるようになったのです。
このような状況は、チームの創造性や問題解決能力を低下させるだけでなく、従業員の孤立感や心理的な負担を増大させる可能性がありました。そこで同社は、「リモートワーク環境下においても、すべての従業員が安心して自分の意見やアイデアを表現でき、失敗を恐れずに挑戦できるチーム文化を醸成すること」を目的として、心理的安全性の向上を重点課題に設定しました。
具体的な取り組み内容
株式会社コラボリンクでは、心理的安全性を高めるために、以下の具体的な施策を導入しました。
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「チェックイン・チェックアウト」の習慣化:
- 毎日のチームミーティングの冒頭に、業務とは直接関係のない個人的な近況やその日の気分を共有する時間を設けました(チェックイン)。
- 終業時には、その日の業務の振り返りや感じたことを共有する時間(チェックアウト)を設け、短い時間でも互いの状況を把握し、共感する機会を増やしました。
- これにより、チームメンバーの人間的な側面を知り、心理的な距離を縮めることを目指しました。
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「1on1ミーティング」の推奨と質の向上:
- 上司と部下間での定期的な1on1ミーティングを全社的に推奨しました。
- 単なる業務報告だけでなく、キャリアに関する悩みや、日々の業務で感じている心理的な負担なども含めて、安心して話せる雰囲気づくりを徹底するよう、管理職向けの研修を実施しました。
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心理的安全性に関するワークショップの実施:
- 外部講師を招き、心理的安全性の概念や重要性、チーム内で心理的安全性を高めるための具体的な行動を学ぶワークショップを全従業員向けに開催しました。
- チームごとにも、自分たちのチームの心理的安全性がどの程度であるか、どうすればさらに高められるかについて話し合う時間を設けました。
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非同期コミュニケーションツールの活用ルールの整備:
- チャットツールの使用においては、「すぐに返信できなくても大丈夫」「質問に詰まるのは当然」といった心理的なプレッシャーを軽減するためのガイドラインを作成しました。
- 絵文字やスタンプの積極的な活用を推奨し、テキストだけのコミュニケーションに温かみを加える工夫を取り入れました。
導入プロセス
これらの施策は、まず一部のモデルチームで試験的に導入されました。人事部門と、心理的安全性の専門家を招いたプロジェクトチームが中心となり、施策設計と導入支援を行いました。
モデルチームでの効果測定(エンゲージメントサーベイ、チームメンバーへのヒアリングなど)を経て、施策の有効性が確認できた後、全社展開の方針が決定されました。全社展開にあたっては、特に管理職層への研修に力を入れました。管理職が心理的安全性の重要性を理解し、自ら実践し、チームメンバーをサポートできるかが成功の鍵であると考えたためです。
また、従業員に対しては、イントラネットや社内報を通じて、取り組みの目的や効果を繰り返し伝え、参加を促しました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
導入プロセスにおいては、いくつかの課題に直面しました。
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課題1:従業員の消極性 - 特にチェックイン・チェックアウトやワークショップへの参加に対して、当初は「何を話せばいいのか分からない」「時間の無駄ではないか」といった消極的な反応が見られました。
- 解決策: 経営層や管理職が率先して積極的に参加し、楽しそうに話す姿を見せることで、参加しやすい雰囲気を作りました。また、チェックインの内容を「今日のランチ」といった軽い話題から始めても良いことを伝え、心理的なハードルを下げました。ワークショップについては、参加することのメリット(チームでの働きやすさ向上)を具体的に伝えるとともに、参加しやすい時間帯や形式を複数用意しました。
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課題2:効果測定の難しさ - 心理的安全性という定性的なものをどのように測定し、施策の効果を証明するかが課題でした。
- 解決策: 定期的なエンゲージメントサーベイに心理的安全性に関する質問項目を追加しました。また、チーム単位での匿名アンケートや、ワークショップ後のフィードバックを収集し、定性的な変化も把握するよう努めました。さらに、具体的な成果として、アイデア創出数やプロジェクトの成功率、離職率といった既存のデータとの関連性を分析しました。
導入による効果・成果
これらの取り組みの結果、株式会社コラボリンクでは以下のような効果・成果が見られました。
- エンゲージメントスコアの向上: 全社的に実施したエンゲージメントサーベイにおいて、「自分の意見やアイデアをチームで安心して表現できるか」といった心理的安全性に関連する項目のスコアが、施策導入前に比べて平均15%向上しました。
- 創造性・イノベーションの促進: チーム内のアイデアソンやブレスト会議において、以前よりも多様な意見が出るようになり、新規事業提案数が前年度比で20%増加しました。また、従業員からの業務改善提案も活発化しました。
- 離職率の低下: 特にリモートワークに移行した後の期間において、従業員の定着率が向上し、全社的な離職率が以前よりも低減傾向を示しました(具体的な数値は非公表)。
- コミュニケーションの質の変化: オンライン会議中に特定の人だけでなく、より多くのメンバーが発言するようになるなど、コミュニケーションの量だけでなく質的な変化も見られました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社コラボリンクの取り組みが成功した主な要因は以下の点が挙げられます。
- 経営層の強いコミットメント: 心理的安全性の重要性を経営層が深く理解し、施策に対して予算と時間を確保し、継続的に従業員にメッセージを発信したことが、取り組みを推進する大きな力となりました。
- 管理職を巻き込んだ施策設計: 管理職が単なる指示の受け手ではなく、自らのチームで心理的安全性を実践・促進する重要な役割を担うことを明確にし、そのための研修とサポートを充実させたことが、施策の現場への浸透を加速させました。
- 従業員の主体性の尊重: ワークショップ等を通じて、従業員自身が心理的安全性の重要性を理解し、チーム内で自ら実践していくことの価値を伝えることで、受け身ではなく主体的な参加を促しました。
- 小さな成功体験の積み重ね: まずはモデルチームで成功事例を作り、その成果を社内に広く共有することで、「やれば変わる」という意識を醸成し、全社的な機運を高めました。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社コラボリンクでは、心理的安全性の向上に向けた取り組みを今後も継続していく方針です。今後は、心理的安全性の状態をより精緻に測定するための仕組みを検討したり、新しく入社する従業員に対して、リモート環境下でのチームワークと心理的安全性の重要性に関するオンボーディングプログラムを強化したりすることを計画しています。
また、テクノロジーの進化に合わせて、チーム内のコミュニケーションやコラボレーションをさらに円滑にし、心理的な負担を軽減するための新しいツールの活用も視野に入れています。
まとめ
株式会社コラボリンクの事例は、リモートワーク環境下における心理的安全性の重要性を明確に示しています。物理的に離れて働くからこそ、意図的に心理的なつながりを築き、安心して意見を交換できる環境を整備することが、従業員のエンゲージメントを高め、チームや組織全体の創造性や生産性を向上させる上で不可欠であることを証明しています。
特に、人事担当者の皆様にとっては、単に制度を導入するだけでなく、従業員の心理面に配慮したきめ細やかな施策を実行し、それを組織文化として根付かせていくことの重要性を示唆する事例と言えるでしょう。本事例が、皆様の会社の多様な働き方の推進における課題解決や新たな取り組みのヒントとなれば幸いです。