株式会社キャリアシフト:リスキリング支援を強化し、従業員のキャリア自律と組織の持続的成長を実現した事例
はじめに:変化の時代における人材育成とキャリア支援の重要性
現代は、技術革新やビジネスモデルの急速な変化により、求められるスキルや知識が絶えず変化しています。このような状況下で、企業が持続的に成長していくためには、従業員一人ひとりが変化に対応し、新たなスキルを習得していくこと(リスキリング)が不可欠です。また、従業員側も自身のキャリアを主体的に形成したいというニーズが高まっています。
しかし、多くの企業では、従来の集合研修やOJTだけでは、多様化するニーズや変化のスピードに対応しきれないという課題を抱えています。本記事では、このような課題に対し、リスキリング支援を強化することで従業員のキャリア自律を促し、結果として組織全体の持続的な成長を実現した株式会社キャリアシフトの事例をご紹介します。
株式会社キャリアシフトの取り組み事例
株式会社キャリアシフトは、ITコンサルティング事業を中心に展開する従業員数約1,500名の企業です。近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の加速に伴い、既存事業の変革と新規事業の創出が急務となる中で、社内の人材ポートフォリオが変化への対応に追いついていないという課題に直面していました。特に、特定の技術領域や新規事業分野における専門人材の不足が顕著であり、外部からの採用だけでは賄えない状況でした。同時に、従業員からも「自身の市場価値を高めたい」「将来に役立つスキルを身につけたい」という声が聞かれるようになり、キャリアに対する漠然とした不安を抱える従業員が増加していました。
多様な働き方導入の背景・目的
株式会社キャリアシフトは、これらの課題認識から、以下の目的をもってリスキリング支援の強化とキャリア自律支援を柱とする働き方改革に着手しました。
- 組織競争力の強化: DX推進や新規事業創出に必要なスキルを持つ人材を社内で育成・再配置し、変化に対応できる組織能力を高める。
- 従業員のエンゲージメント向上と離職防止: 従業員のキャリアに対する不安を解消し、成長機会を提供することで、働きがいを高め、優秀な人材の定着を図る。
- 採用力強化: リスキリング支援を積極的に行う企業としてブランディングを確立し、外部からの優秀な人材獲得につなげる。
具体的な取り組み内容
株式会社キャリアシフトが実施した主な取り組みは以下の通りです。
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リスキリングプログラムの拡充:
- オンライン学習プラットフォームの導入: 最新技術やビジネススキル、語学など多様なコンテンツを提供する外部オンライン学習プラットフォームを全従業員に開放しました。
- 社内研修プログラムの開発: 新規事業領域やDX関連技術に特化した実践的な社内研修プログラムを開発・提供しました。外部講師の招聘や、社内エキスパートによる講座開設を推進しました。
- 外部研修・資格取得支援: 業務に関連する外部の専門研修受講費用や、資格取得にかかる費用補助を拡充しました。
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キャリアコンサルティング体制の強化:
- 社内キャリアコンサルタントの育成・増員に加え、外部のキャリアコンサルタントとも提携し、全従業員が定期的にキャリア面談を受けられる機会を設けました。
- 従業員一人ひとりのキャリア志向や習得したいスキルに基づき、最適なリスキリングプログラムやキャリアパスを提案する個別面談を実施しました。
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社内公募・異動制度の活性化:
- 新規プロジェクトや新規事業部門の募集ポジションを積極的に社内公開し、リスキリングによってスキルを習得した従業員が応募しやすい仕組みを構築しました。
- 異動希望者が自身のスキルや経験をアピールできる場として、社内キャリアフェアなどを定期的に開催しました。
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柔軟な学習時間確保の支援:
- スーパーフレックスタイム制度を推奨し、従業員が業務の合間に学習時間を確保しやすいようにしました。
- eラーニング受講時間の一部を勤務時間として認める制度を試験的に導入しました。
導入プロセス
この取り組みは、まず経営層が強いリーダーシップを発揮し、「リスキリングとキャリア自律支援こそが、企業の持続的成長の鍵である」というメッセージを全社に発信することから始まりました。
人事部門が中心となり、各事業部門のリーダーや従業員代表とワーキンググループを立ち上げ、必要なスキルや学習ニーズの洗い出しを行いました。次に、リスキリングプログラムやキャリアコンサルティング体制の詳細設計、予算確保を進めました。
導入にあたっては、まず一部の部門でパイロット運用を実施し、従業員のフィードバックを収集・分析しました。そこで得られた課題や改善点を踏まえ、全社展開へと移行しました。全社展開後も、定期的に従業員アンケートや説明会を実施し、制度の認知度向上と利用促進に努めました。推進体制としては、人事部内に「人材開発・キャリア支援チーム」を新設し、各部門にはリスキリング推進を担う担当者を配置しました。
直面した課題と、それに対する具体的な解決策
導入プロセスにおいて、いくつかの課題に直面しました。
- 従業員の学習時間確保の難しさ: 通常業務が多忙なため、学習に時間を割くのが難しいという声が多く上がりました。
- 解決策: スーパーフレックス制度の活用を強く推奨するとともに、上司に対して部下の学習時間を業務時間内に一定程度確保することを奨励しました。また、短時間で学べるマイクロラーニングコンテンツの導入や、通勤時間などに利用できるモバイルフレンドリーな学習コンテンツを拡充しました。
- 学習継続モチベーションの維持: 一度学習を開始しても、途中で挫折してしまう従業員が見られました。
- 解決策: 定期的なキャリア面談を通じて、学習の進捗確認と目標設定のサポートを行いました。また、リスキリングによって新たな業務やプロジェクトに挑戦し、成功した事例を社内報や全社集会で共有することで、他の従業員のモチベーション向上を図りました。さらに、社内SNSを活用した学習コミュニティを形成し、従業員同士が学び合い、励まし合える環境を整備しました。
- プログラム内容と現場ニーズのミスマッチ: 提供されるプログラムが、必ずしも現場で求められる最新スキルと一致しない場合がありました。
- 解決策: 定期的に各事業部門のリーダーや現場担当者からヒアリングを実施し、必要とされるスキルセットを継続的にアップデートしました。また、外部の研修ベンダーや教育機関との連携を強化し、常に最新のプログラムを提供できるよう体制を整えました。
導入による効果・成果
リスキリング支援とキャリア自律支援の強化は、株式会社キャリアシフトに以下の効果をもたらしました。
- 組織競争力の向上: 新規事業部門への社内異動率が導入前と比較して25%増加しました。DX関連プロジェクトに必要なスキルを持つ人材の社内調達率が向上し、外部依存度を低減できました。
- 従業員エンゲージメントの向上: 定期的な従業員エンゲージメント調査において、「自身の成長機会がある」という項目への肯定的な回答率が導入後15ポイント上昇しました。「会社は自身のキャリアを支援してくれている」という項目への肯定的な回答も大幅に増加しました。
- 離職率の抑制: 特に中堅層・ベテラン層の離職率が導入前と比較して5%低下しました。これは、新たなスキル習得やキャリアパスへの希望が見えたことが要因と考えられます。
- 採用活動への好影響: リスキリング支援を積極的に行っている企業として認知度が向上し、採用応募者の質・量ともに改善が見られました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社キャリアシフトのリスキリング・キャリア支援が成功した要因は複数考えられますが、主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: 経営トップがリスキリングの重要性を明確に打ち出し、必要な投資を惜しまなかったことが、全社的な推進力となりました。
- 従業員への丁寧なコミュニケーション: なぜリスキリングが必要なのか、会社としてどのように支援するのか、従業員一人ひとりにどのようなメリットがあるのかを繰り返し説明し、理解と協力を得られたことが重要でした。
- 「やらされ感」ではなく「自律」を重視: 一方的な指示ではなく、従業員が自身のキャリアを考え、主体的に学ぶことを支援する姿勢を貫いたことが、従業員の意欲向上につながりました。
- 柔軟性と継続的な改善: 従業員のフィードバックを収集し、プログラム内容や支援体制を継続的に改善していく姿勢が、制度の実効性を高めました。
今後の展望や継続的な取り組み
株式会社キャリアシフトでは、今後もリスキリングとキャリア支援を経営戦略の柱として継続していく方針です。全従業員を対象としたキャリア開発計画の策定支援を強化するほか、学習成果を人事評価や報酬制度にどう反映させていくかについても検討を進めています。また、AIを活用した個別最適な学習プランの提案など、テクノロジーを活用した支援体制の構築も視野に入れています。
まとめ:リスキリング支援は企業と従業員の双方に成長機会をもたらす
株式会社キャリアシフトの事例は、リスキリング支援とキャリア自律支援が、単なる従業員への福利厚生ではなく、企業の競争力強化と従業員のエンゲージメント向上を同時に実現する有効な働き方改革であることを示しています。変化の激しい時代において、人材育成は喫緊の経営課題です。この事例が、多様な働き方の導入・推進を検討されている皆様にとって、具体的なノウハウや課題解決のヒントとなれば幸いです。