株式会社スキルコネクト:社内スキルシェアプラットフォーム導入で従業員のキャリア自律と組織内連携を促進した事例
働き方変革は、単に働く場所や時間を柔軟にするだけでなく、従業員一人ひとりのキャリア自律や組織全体の活性化にも深く関わるテーマです。本記事では、多様な働き方を推進する一環として、社内スキルシェアプラットフォームを導入し、従業員の隠れた能力の発掘と組織横断的な連携強化に成功した株式会社スキルコネクトの事例をご紹介します。
株式会社スキルコネクトの概要
株式会社スキルコネクトは、情報通信業を中心に事業を展開する従業員数約5,000名の大企業です。長らく部門間の壁が組織課題の一つとして挙げられており、従業員の持つ多様なスキルや知見が特定の部門内に留まりがちでした。
多様な働き方への取り組みと社内スキルシェア導入の背景・目的
同社では、近年「自律と挑戦」をキーワードに多様な働き方を推進しており、その一環として従業員が主体的にキャリアを形成し、組織全体の知見を活用できる環境整備を目指していました。
こうした背景から、以下の目的のもと、社内スキルシェアプラットフォームの導入が検討されました。
- 従業員のキャリア自律支援: 従業員が自身のスキルを可視化し、興味のある分野や新しいプロジェクトに挑戦できる機会を提供することで、自律的なキャリア形成を支援する。
- 組織横断的な知見・スキル活用: 部門や役職の壁を越えて、必要なスキルを持つ人材や、社内に眠っている専門知識を発見し、活用する。
- プロジェクト推進力の向上: 新規プロジェクトや短期的な課題に対し、社内から迅速かつ柔軟に必要なスキルを持つ人材をアサインできる体制を構築する。
- エンゲージメント向上: 新しい挑戦の機会や自身のスキルが活かされる場があることで、従業員のモチベーションや組織へのエンゲージメントを高める。
具体的な取り組み内容:社内スキルシェアプラットフォームの導入
同社が導入した社内スキルシェアプラットフォームには、主に以下の機能が搭載されました。
- スキルプロフィールの登録: 従業員が自身の保有スキル、経験、興味のある分野、過去のプロジェクト実績などを詳細に登録できる機能。人事データと連携し、基本的な情報(所属、役職など)は自動反映されます。
- プロジェクト・業務のマッチング: 短期的なプロジェクト、特定のスキルを要する業務、社内ボランティアなどをプラットフォーム上で募集・掲載し、興味を持った従業員が応募・参加できる機能。
- スキル検索・専門家探訪: 必要なスキルを持つ従業員を検索し、社内メンターやアドバイザーとして相談できる機能。
- 学習機会のマッチング: 社内研修や勉強会の情報、外部学習プラットフォームの推奨コースなどをスキルや興味に基づきレコメンドする機能。
プラットフォームの導入と並行して、利用促進のための制度設計も行われました。例えば、特定のプロジェクト参加を「社内副業」と位置づけ、本業への影響を考慮した上での時間管理や、評価への部分的な反映の検討などが行われました。
導入プロセスと推進体制
導入は、人事部門が主導し、IT部門と連携して進められました。まず、複数のベンダーから最適なプラットフォームを選定し、約6ヶ月の準備期間を経て、全社展開に先立ち一部門でパイロット運用を実施しました。
パイロット運用では、利用状況や従業員からのフィードバックを収集し、プラットフォームの改善点や運用上の課題を洗い出しました。その後、経営層からのメッセージ発信と、各部門に配置された「推進リーダー」による説明会や個別サポートを通じて、全従業員への展開を進めました。推進体制としては、人事部門内に専任のプロジェクトチームを設置し、プラットフォームの運営管理、利用促進、効果測定などを担当しました。
直面した課題と解決策
導入プロセスでは、いくつかの課題に直面しました。
- 従業員の登録・利用促進の課題: 「忙しくて登録する時間がない」「自分のスキルが他の人に役立つとは思えない」といった理由から、初期の登録率や利用率が想定より伸び悩みました。
- 解決策: 経営層からの「全従業員のスキル可視化は組織の財産」というメッセージを繰り返し発信し、プラットフォーム登録率を部門目標の一部に組み込むなどの施策を実施しました。また、成功事例(プラットフォーム経由で新しいプロジェクトに参加し活躍した事例など)を社内報やイントラネットで積極的に発信し、「自分ごと化」を促しました。
- 管理職の理解と協力の課題: 部下のプラットフォーム利用が本業に支障をきたすのではないか、といった懸念から、一部の管理職が協力的でないケースが見られました。
- 解決策: 管理職向けの説明会を重点的に実施し、プラットフォーム利用が部下の成長機会となり、結果的に部門や組織全体の成果につながることを丁寧に説明しました。また、本業とのバランスについては、管理職と部下との対話を通じて調整することを推奨しました。
- セキュリティと情報管理の課題: 従業員が自身のスキルや経験を詳細に登録することによる情報漏洩リスクや、機密情報を含むプロジェクトのマッチングに関する懸念がありました。
- 解決策: プラットフォームのセキュリティ対策を徹底するとともに、利用に関するガイドラインを明確に策定し、従業員および管理職への周知を徹底しました。特に、機密性の高い業務に関するマッチングについては、承認プロセスを設けるなどの運用ルールを定めました。
導入による効果・成果
プラットフォーム導入から1年後、以下のような効果・成果が見られました。
- 定量的な効果:
- プラットフォームの従業員登録率が約85%に達しました。
- プラットフォーム経由で成立した部門横断プロジェクトや業務マッチング件数が、導入前の年間平均と比較して約2倍に増加しました。
- 従業員満足度調査において、「自身のスキルが組織内で活かされていると感じるか」「新しいスキルを学ぶ機会があるか」といった項目で肯定的な回答が増加しました(具体的な数値:肯定的な回答が導入前比で約15%向上)。
- 定性的な効果:
- 従業員から「自分の知らなかった社内の専門家と繋がり、業務課題を解決できた」「新しいプロジェクトに参加することで、これまでとは違うスキルを身につけることができた」といった声が多く聞かれるようになりました。
- 部門間のコミュニケーションが活性化し、組織内の心理的な距離感が縮まったという認識が広まりました。
- 採用活動においても、「従業員の自律的なキャリア形成を支援する環境がある」として、採用ブランディングの一助となっています。
取り組みが成功した要因
株式会社スキルコネクトにおける社内スキルシェアプラットフォーム導入の成功要因は、以下の点が挙げられます。
- 経営層の強いコミットメント: 単なるツール導入ではなく、従業員のキャリア自律や組織文化変革の一環として位置づけ、経営層が継続的にメッセージを発信したこと。
- 人事部門と現場の連携: 人事部門が主導しつつも、各部門の推進リーダーを巻き込み、現場のニーズや課題を吸い上げながら導入・運用を進めたこと。
- 丁寧なコミュニケーションと啓蒙: プラットフォームの目的やメリットを全従業員に分かりやすく伝え、利用への心理的なハードルを下げるための努力を惜しまなかったこと。
- 成功事例の可視化と発信: プラットフォームを活用して成果を上げた従業員やプロジェクトの事例を積極的に共有し、「自分もやってみよう」という意識を醸成したこと。
- 継続的な改善: 導入後も従業員からのフィードバックを収集し、プラットフォームの機能改善や運用ルールの見直しを継続的に行ったこと。
今後の展望
同社では、今後プラットフォーム機能をさらに拡張し、従業員のスキルデータと組織の戦略的ニーズをAIでマッチングする機能や、社外の専門家との連携を促進する機能なども視野に入れています。また、このプラットフォームを通じて得られる従業員のスキルデータを、より戦略的な人材配置や育成計画に活用していくことを計画しています。
まとめ
株式会社スキルコネクトの事例は、社内スキルシェアプラットフォームの導入が、従業員一人ひとりのキャリア自律を支援し、組織全体の知見活用や部門横断的な連携を促進する有効な手段であることを示しています。導入にあたっては、従業員の意識改革や管理職の理解促進といった課題も伴いますが、経営層のコミットメント、丁寧なコミュニケーション、そして継続的な運用改善によって、これらの課題を克服し、目に見える成果を上げることが可能です。多様な働き方の推進や組織活性化を目指す企業にとって、本事例が具体的な取り組みの参考となれば幸いです。