株式会社□□:スーパーフレックスタイム制度を導入し、従業員のエンゲージメントと生産性を向上させた事例
はじめに
多くの企業で働き方改革が進められる中、従業員一人ひとりの多様なライフスタイルに対応し、組織全体の生産性向上を目指す動きが加速しています。特に、時間や場所に縛られない柔軟な働き方は、従業員のエンゲージメントを高め、創造性を刺激する上で重要な要素となっています。
本記事では、柔軟な勤務時間制度の代表例である「スーパーフレックスタイム制度」を導入し、従業員のエンゲージメントと生産性の向上という二つの目標を達成した株式会社□□の事例をご紹介いたします。同社がどのように制度を設計・導入し、どのような課題を乗り越え、どのような成果を得たのか、具体的なプロセスと結果に焦点を当てて解説してまいります。
導入の背景と目的
株式会社□□では、かねてより優秀な人材の採用競争の激化や、既存社員の離職率の上昇に課題を感じていました。特に、育児や介護、自己啓発など、多様な事情を持つ社員から、従来の固定的な勤務時間に対する改善要望が多く寄せられていました。また、部署によっては時間外労働が常態化しており、生産性の低下も懸念されていました。
こうした背景から、同社では「従業員が自身の状況に合わせて柔軟に働く時間を調整できるようにすること」と「従業員のワークライフバランスを向上させ、心身ともに健康な状態で業務に取り組めるようにすること」を目的として、多様な働き方の導入を検討開始しました。最終的に、個人の裁量を最大化できる「スーパーフレックスタイム制度」(コアタイムなしのフレックスタイム制度)が、これらの目的達成に最も効果的であると判断されました。
具体的な取り組み内容
株式会社□□が導入したスーパーフレックスタイム制度は、以下の点を特徴としています。
- コアタイムの撤廃: 必須の勤務時間帯(コアタイム)を設けず、従業員自身が日々の始業・終業時刻を自由に決定できるようにしました。
- 清算期間の設定: 1ヶ月を清算期間とし、その期間内の総労働時間(所定労働時間)を満たすことを基本ルールとしました。
- 勤怠管理システムの導入: 従業員が容易に勤務時間を記録・管理できるよう、クラウドベースの勤怠管理システムを導入しました。これにより、場所を問わず打刻や申請が可能となり、管理者側もリアルタイムで労働状況を把握できるようになりました。
- コミュニケーションツールの活用促進: 勤務時間が多様化することによるコミュニケーション不足を防ぐため、チャットツール、Web会議システム、プロジェクト管理ツールの全社的な利用を推奨し、活用ガイドラインを策定しました。
- 制度説明会と管理職向け研修: 制度の趣旨や具体的な運用方法について、全従業員を対象とした説明会を実施しました。特に、管理職に対しては、部下の勤怠管理や成果評価の考え方、コミュニケーションの取り方に関する研修を重点的に行いました。
導入プロセス
制度導入は、段階的に進められました。
- 企画・設計フェーズ(3ヶ月): 人事部を中心にプロジェクトチームを発足。従業員アンケートや他社事例の調査を通じて、制度設計の要件を洗い出しました。労働組合との協議も丁寧に行われました。
- トライアル実施フェーズ(6ヶ月): 一部の部署やプロジェクトチームを対象に、スーパーフレックスタイム制度のトライアルを実施しました。参加者へのヒアリングやデータ収集を行い、制度上の課題や運用上の課題を特定しました。
- 全社展開フェーズ(2ヶ月): トライアルでのフィードバックを元に制度を修正し、全社への展開を決定。全従業員向けの説明会、管理職向け研修を実施し、新しい勤怠管理システムの導入と操作説明を行いました。
- 定着・評価フェーズ(継続): 導入後も従業員からの意見収集窓口を設置し、定期的に制度の運用状況をモニタリング。従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイを通じて効果を測定し、必要に応じて制度や運用方法の見直しを行っています。
直面した課題と解決策
導入プロセスではいくつかの課題に直面しましたが、それぞれに対して具体的な解決策を講じました。
- 課題1:勤怠管理の複雑化への懸念
- 解決策: 操作が容易で、多様な働き方に対応できるクラウド勤怠管理システムを導入。シンプルな打刻ルールを徹底し、イレギュラーなケースへの対応フローを明確にしました。管理者向けにシステム操作研修を繰り返し実施しました。
- 課題2:チーム内のコミュニケーション不足
- 解決策: 全員参加必須ではないものの、朝の短い情報共有ミーティング(立ち会議)や、夕方の業務報告(日報)を推奨。チャットツールでのリアクションルールや、Web会議での議事録共有を徹底するなど、非同期コミュニケーションと同期コミュニケーションの使い分けに関するガイドラインを策定しました。
- 課題3:個人の勤務時間の違いによる不公平感
- 解決策: 評価制度をプロセス評価からより成果に重点を置いた評価に見直しました。勤務時間の長さではなく、業務の成果や貢献度を公正に評価する仕組みを強化することで、時間ではなく価値で評価されるという意識を浸透させました。
導入による効果・成果
スーパーフレックスタイム制度の導入により、以下のような具体的な効果・成果が確認されました。
- 従業員エンゲージメントの向上: 導入前と比較して、エンゲージメントサーベイのスコアが平均15%向上しました。「会社が個人の働き方を尊重してくれている」という項目で特に高い評価を得ています。
- 生産性の向上: 各部署の主要なKPI達成率が、導入前と比較して平均8%向上しました。従業員が自身の集中できる時間帯を選んで業務に取り組めるようになったこと、また、通勤ラッシュを避けることで心身のストレスが軽減されたことが要因と考えられます。時間外労働時間も、導入前と比較して平均10%削減されました。
- 離職率の低下: 特に子育て中の社員や、遠方に住む社員の離職率が目に見えて低下しました。全社的な離職率は導入前の年間8%から、導入後2年間で5%に改善しました。
- 採用力の向上: 柔軟な働き方が可能な企業として、就職希望者からの注目度が高まりました。特に、優秀なエンジニアやデザイナーといった専門職の採用において、ポジティブな影響が出ています。
取り組みが成功した要因分析
この取り組みが成功した主な要因は、以下の点が挙げられます。
- 経営層の強いコミットメント: 働き方改革、特に柔軟な働き方への移行が、単なる福利厚生ではなく、企業全体の生産性向上と持続的成長に不可欠であるという経営層の明確なメッセージが、社内に浸透しました。
- 現場との丁寧な対話: 制度設計段階からトライアル期間、導入後にかけて、従業員や管理職からの意見を積極的に収集し、制度や運用方法に反映させました。一方的な押し付けではなく、共に創り上げる姿勢が信頼感を醸成しました。
- 成果を重視する評価制度との連動: 時間管理から成果管理への意識転換を促すため、評価制度の見直しを並行して実施したことが、制度の効果を最大化しました。
- テクノロジーの活用: 勤怠管理システムやコミュニケーションツールの導入・活用促進が、制度運用をスムーズにし、従業員の負担を軽減しました。
今後の展望
株式会社□□では、今後もこのスーパーフレックスタイム制度を基盤とし、さらなる多様な働き方の選択肢を検討していく予定です。具体的には、ワーケーション制度の本格導入や、副業・兼業制度の見直しなどが挙げられています。また、制度の効果測定を継続的に行い、従業員の声に耳を傾けながら、より働きがいのある組織文化を醸成していく方針です。
まとめ
株式会社□□のスーパーフレックスタイム制度導入事例は、柔軟な勤務時間制度が、単に社員の利便性を高めるだけでなく、従業員エンゲージメントの向上、生産性向上、さらには離職率低下や採用力向上といった、企業経営における重要な指標に貢献しうることを示しています。導入にあたっては、勤怠管理やコミュニケーションといった運用上の課題、評価制度との整合性といった課題に直面する可能性がありますが、計画的なプロセス、丁寧なコミュニケーション、そしてテクノロジーの適切な活用によって、これらの課題を乗り越えることが可能です。本事例が、多様な働き方の導入を検討されている企業の人事担当者の皆様にとって、実践的なヒントとなれば幸いです。