タレントマネジメントシステムを活用し、戦略的な人材配置と育成で組織エンゲージメントを高めた事例
働き方変革事例：タレントマネジメントシステムを活用し、戦略的な人材配置と育成で組織エンゲージメントを高めた事例
事業環境が目まぐるしく変化し、人材の多様化が進む現代において、企業が持続的に成長するためには、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、適材適所に配置し、戦略的に育成していくことが不可欠です。しかし、従来の属人的な人事管理では、個人のスキルやキャリア志向、組織全体のニーズを網羅的に把握し、最適な判断を下すことが難しいという課題がありました。
本記事では、このような課題に対し、タレントマネジメントシステムを導入することで、データに基づいた戦略的な人材配置と育成を実現し、結果として組織全体のエンゲージメント向上に成功した株式会社未来開発の事例をご紹介します。
多様な働き方を支える基盤としてのタレントマネジメント
株式会社未来開発は、従業員のキャリアパスの多様化や、リモートワーク、フレックスタイム制度の導入といった働き方の変化が進む中で、従来のシステムでは個々の従業員の情報を一元管理し、組織全体の視点から最適な意思決定を行うことが困難になっていました。特に、新しいプロジェクトの立ち上げや、外部環境の変化に迅速に対応するための人材配置において、特定のスキルや経験を持つ人材を探し出すのに時間がかかり、機会損失につながるケースが見られるようになったのです。
また、従業員側からも、自身のキャリアパスに対する不安や、会社が自分のスキルや貢献度を適切に評価・活用してくれているかどうかの不透明さから、エンゲージメントの低下が懸念されていました。
こうした背景から、同社は、個々の従業員の才能や可能性を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンス向上に繋げるための戦略的なツールとして、タレントマネジメントシステムの導入を決定しました。目的は、データに基づいた客観的な人材配置・育成計画の策定、従業員のキャリア自律支援、そして組織全体のエンゲージメント向上です。
具体的な取り組み内容：システム導入と関連施策
株式会社未来開発が導入したタレントマネジメントシステムは、以下のような機能を備えていました。
- 人材情報の一元化: 従業員の基本情報に加え、スキル、経験、資格、研修履歴、人事評価、キャリア志向、エンゲージメントデータなどをシステム上で一元管理。
- スキル・コンピテンシー管理: 職務に必要なスキルやコンピテンシーを定義し、従業員の保有スキルレベルを可視化。
- 人材検索・分析: 特定のスキルや経験を持つ人材、パフォーマンスの高い人材などを条件で検索し、組織図上での配置状況やチーム構成などを分析。
- 目標設定・進捗管理: MBOやOKRなどの目標設定とその進捗状況をシステム上で管理。
- 育成計画策定・管理: 個別育成計画（IDP）をシステム上で作成し、必要な研修や経験を推奨・記録。
- サクセッションプランニング: 主要ポストの後継者候補をリストアップし、育成状況を管理。
システム導入と並行して、以下の関連施策も実施しました。
- 人事評価制度の見直し: 多様な働き方や貢献度を適切に評価できるよう、評価項目やプロセスの一部を見直し、システムとの連携を強化。
- 1on1ミーティングの推奨: マネージャーと部下間の定期的な1on1ミーティングを推奨し、システムに登録されたキャリア志向や育成計画に基づいた対話を促進。
- 社内公募制度・メンター制度の活性化: システム上のスキル情報やキャリア志向を参考に、より多くの従業員がこれらの制度を活用できるよう周知・支援。
- 人事担当者への研修: システムの操作方法だけでなく、データ分析に基づいた人材戦略の立案・実行に関する研修を実施。
導入プロセスと直面した課題、解決策
システム導入プロジェクトは、約1年半をかけて進められました。プロジェクトチームは人事部門を中心に、IT部門、各事業部門の代表者で構成されました。
- 要件定義とベンダー選定（約6ヶ月）： 既存の課題分析、必要な機能の洗い出しを行い、複数のベンダーを比較検討しました。自社の文化や既存システムとの連携性を重視し、柔軟性の高いシステムを選定しました。
- システム構築とパイロット導入（約8ヶ月）： 選定したシステムをカスタマイズし、一部の部門で先行導入（パイロットテスト）を実施しました。
- 全社展開と従業員向け説明会（約4ヶ月）： パイロットテストでのフィードバックを反映させ、全社展開。システム利用の目的やメリット、操作方法に関する丁寧な説明会を実施しました。
導入プロセスで直面した最大の課題は、従業員からのデータ入力への抵抗感と、人事担当者のデータ活用能力の不足でした。
- データ入力への抵抗感: 従業員からは「入力が面倒」「何に使われるのか不安」といった声が上がりました。これに対し、会社はシステム導入の目的（個人の成長支援、最適なキャリア機会の提供など）を繰り返し丁寧に説明し、システムに入力された情報がどのように活用されるのか、具体的な事例を示しました。また、人事評価システムなど既存システムとの連携を強化し、入力の手間を可能な限り削減する工夫も行いました。さらに、マネージャーが部下との1on1でシステム上の情報を見ながら対話することを推奨し、従業員がシステム利用のメリットを実感できる機会を増やしました。
- データ活用能力の不足: システムにデータが集まっても、それを分析し、戦略的な意思決定に繋げるスキルが人事部門内で不足していました。この課題に対しては、外部からデータ分析の専門家を一時的に招き、人事担当者へのOJTを実施しました。また、データ分析ツールの使い方や、人材データからインサイトを得るための研修を継続的に実施し、人事部門全体のデータリテラシー向上に努めました。
導入による効果・成果
タレントマネジメントシステムの導入と関連施策の実行により、株式会社未来開発では以下のような効果・成果が見られました。
- 戦略的な人材配置の迅速化: 特定のスキルが必要なプロジェクトチーム編成にかかる時間が平均30%短縮されました。また、データに基づいた客観的な視点での異動・配置が可能になり、従業員の適性やキャリア志向を考慮した配置が約15%増加しました。
- 人材育成の効果向上: 個別育成計画の策定率が80%を超え、システム上で進捗を管理することで、計画の実行率も向上しました。これにより、従業員が必要なスキルを計画的に習得できる環境が整いました。
- 従業員エンゲージメントの向上: システム導入から1年後のエンゲージメントサーベイにおいて、「会社は自分の能力や貢献を適切に評価・活用しようとしているか」という設問に対する肯定的な回答が10ポイント上昇しました。また、「自身のキャリアパスに対して希望が持てるか」という設問への肯定的な回答も8ポイント上昇しました。
- 離職率の抑制: 全社的な離職率が導入前と比較して2ポイント低下しました。特に、自身のキャリアについて会社と対話できていると感じる層での離職率低下が見られました。
これらの成果は、単にシステムを導入しただけでなく、システムを活用するための制度や文化の変革を伴ったからこそ得られたと考えられます。
取り組みが成功した要因
株式会社未来開発のタレントマネジメントシステム導入が成功した要因はいくつかあります。
第一に、経営層がタレントマネジメントの重要性を理解し、プロジェクトに対して強いコミットメントを示したことです。経営層が繰り返し従業員にシステムの意義や会社の期待を語りかけることで、全社的な理解と協力が得やすくなりました。
第二に、人事部門が単なるシステム管理者ではなく、データに基づいた戦略的人材パートナーへと役割を変革しようと努力したことです。データ分析能力の強化や、現場との連携を密にすることで、システムから得られるインサイトを経営や事業部門の意思決定に活かせるようになりました。
第三に、従業員に対して、システムが「管理ツール」ではなく「自身の成長やキャリアを支援するツール」であることを丁寧に伝え、利用メリットを実感できる機会を創出したことです。一方的な入力依頼ではなく、対話やフィードバックとシステム利用を結びつけたことが、従業員の協力的な姿勢を引き出しました。
今後の展望と継続的な取り組み
株式会社未来開発では、今後もタレントマネジメントシステムを働き方変革の基盤としてさらに活用していく計画です。具体的には、サクセッションプランニング機能の本格運用、従業員自身がシステム上でキャリア形成に必要な情報（社内異動情報、推奨研修など）にアクセスできる機能の強化、そして、システムに蓄積されたデータを活用した新たな人事施策（例：社内副業のマッチング支援）の検討などを進めています。
まとめ
株式会社未来開発の事例は、タレントマネジメントシステムが、単なる人事データを管理するツールではなく、多様な働き方を支え、従業員の能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンスとエンゲージメントを高めるための強力な戦略ツールとなりうることを示しています。
システム導入にあたっては、技術的な側面だけでなく、従業員への丁寧な説明、データ活用のための組織能力開発、そして関連する制度や文化の変革を同時に進めることが成功の鍵となります。
多様な働き方の推進や、より戦略的な人材マネジメントにご関心のある人事担当者の皆様にとって、本事例が自社の取り組みを検討される上での参考となれば幸いです。