株式会社WillGrowthパートナーズ:Will/Can/Mustフレームワーク活用で従業員の主体性とエンゲージメントを高めた事例
導入の背景と目的
株式会社WillGrowthパートナーズ(以下、同社)は、長年にわたり安定した経営を続けてきましたが、近年、市場環境の変化への対応力低下や、従業員の指示待ち傾向、新規事業創出の鈍化といった課題に直面していました。また、エンゲージメントサーベイの結果から、従業員の「自己成長機会」や「仕事への貢献実感」に関する項目で課題が顕在化しており、組織全体の活性化が喫緊の課題となっていました。
この状況を打破するため、同社は単なる効率化に留まらない、従業員一人ひとりの内発的な動機付けを促し、主体性を引き出す働き方改革の推進を決断しました。その中でも特に重視されたのが、「個人のWill(やりたいこと、志)と組織のCan(能力)およびMust(担うべきこと)をいかに有機的に結びつけ、共通の目標に向かう推進力とするか」という点でした。
具体的な取り組み内容:Will/Can/Mustフレームワークの導入
同社が導入したのは、従業員が自身のWill(将来的にどうなりたいか、何を成し遂げたいか)、現状のCan(活かせる強み、スキル、知識)、そして組織や事業におけるMust(果たすべき役割、期待されている成果)を明確にし、これらを摺り合わせることで、個人の成長と組織への貢献を同時に実現しようとする「Will/Can/Mustフレームワーク」です。
具体的な施策は以下の通りです。
- Will/Can/Must言語化ワークショップの実施: 全従業員を対象に、自己分析を深め、自身のWill/Can/Mustを言語化し、シートに落とし込むワークショップを導入しました。これにより、漠然とした思いを具体的な言葉にする支援を行いました。
- マネージャー向け1on1・コーチング研修: フレームワーク導入の鍵となるマネージャーに対し、部下のWill/Can/Mustを引き出し、対話を通じて組織のMustと結びつけるための1on1スキルやコーチング手法に関する集中的な研修を実施しました。
- 目標設定・評価プロセスへの連携: 従来の目標設定シートにWill/Can/Mustの項目を追加し、個人のWillやCanを活かしたチャレンジ目標の設定を促進しました。評価においては、結果だけでなく、Willに基づいたプロセスや挑戦そのものも評価対象に加えるよう見直しを行いました。
- 社内公募・プロジェクト制度の活性化: 従業員が自身のWillに基づき、現在の部署や役割を超えて新しい挑戦ができる機会として、社内公募制度や部門横断型プロジェクトへの参加機会を拡大しました。
- 専用ツールの導入: Will/Can/Mustのシート管理、1on1の記録、社内公募情報の閲覧などを一元化できる専用ツールを導入し、フレームワークの運用を効率化しました。
- 経営層・リーダーシップによる浸透活動: 経営会議や全社集会などで、経営層自身が自身のWill/Can/Mustを語り、従業員にも主体的なキャリア形成と組織への貢献を促すメッセージを発信し続けました。
導入プロセスと推進体制
フレームワークの導入は、まず人事部門が中心となり、外部の専門家のアドバイスも得ながら、約6ヶ月間の準備期間を設けました。この間、フレームワークの詳細設計、ツール選定、マネージャー研修プログラムの開発を行いました。
本格的な導入は、特定の部門でのパイロット実施から開始し、そこで得られた知見や課題を全体導入に活かしました。全社展開にあたっては、マネージャー研修を先行して実施し、その後、全従業員向けのワークショップを部門ごとに順次開催しました。
推進体制としては、人事部門が全体を統括し、各部門には「働き方改革推進リーダー」を任命し、部門内でのワークショップ運営支援や、マネージャーと連携した従業員への個別サポートを担わせました。また、定期的に経営層、人事、推進リーダーが一堂に会し、進捗確認や課題共有、解決策の検討を行う体制を構築しました。
直面した課題と解決策
導入プロセスではいくつかの課題に直面しました。
- 「Will」の言語化の難しさ: 特に若い従業員や、これまでのキャリアで自身のWillを深く考えた経験が少ない従業員にとって、Willを明確に言語化することが難しいという声が多く聞かれました。
- 解決策: 人事やマネージャーが「好きなこと」「得意なこと」「気になっていること」など、多様な切り口からWillを探るための具体的な質問リストやワークシートを提供しました。また、少人数のワークショップ形式で、参加者同士が対話し、互いのWillの言語化を支援する機会を設けました。
- マネージャーの負担増とスキル不足: 部下全員と丁寧な1on1を実施し、Will/Can/Mustの摺り合わせを行うことは、マネージャーにとって時間的・精神的な負担となり、また、部下の内発的なWillを引き出すスキルも不足しているケースが見られました。
- 解決策: マネージャー向けの研修を継続的に実施するとともに、外部のプロコーチによる個別コーチング機会を提供しました。また、導入した専用ツールで対話内容の記録や振り返りを効率化し、マネージャーの負荷軽減を図りました。人事部門も巡回相談や個別サポートを強化しました。
- 個人のWillと組織のMustのミスマッチ: 従業員のWillと、現状の組織が必要とするMustとの間に大きな隔たりがある場合に、どのように摺り合わせるか、Will実現の機会をどう提供するかが課題となりました。
- 解決策: マネージャーと従業員が、中長期的な視点も含めてWillとMustを結びつける対話を粘り強く行うことを奨励しました。また、社内公募や新規プロジェクトへの参加など、既存の枠を超えたWill実現の場を積極的に提供し、配置転換なども含めたキャリアパスの選択肢を検討しました。
導入による効果・成果
Will/Can/Mustフレームワークの導入により、同社では定量・定性両面で significant な成果が見られました。
- エンゲージメントの向上: エンゲージメントサーベイにおいて、「自己成長実感」に関する項目が導入前と比較して約20%向上、「仕事への貢献意欲」に関する項目が約15%向上しました。これにより、従業員が自身の仕事にやりがいを感じ、組織への貢献を主体的に考える姿勢が強まりました。
- 生産性の向上: 従業員一人ひとりが自身のWillと仕事を結びつけることで、業務に対するオーナーシップが高まり、効率や質の向上に繋がりました。特に、フレームワーク導入後に実施された業務改善提案数は前年比で約30%増加し、そのうち〇〇件が実際に導入され、コスト削減や時間短縮に貢献しました。
- 新規事業創出の促進: 個人のWillに基づいた自由な発想が促され、社内公募された新規プロジェクト提案数は約50%増加しました。その中から、実際に事業化の検討段階に進んだプロジェクトも複数生まれており、組織のイノベーション創出力が向上しました。
- 離職率の低下: 特に若手・中堅社員の離職率が、導入前と比較して約〇〇ポイント低下しました。自身のキャリアに対する漠然とした不安が軽減され、組織内で成長し、貢献できる道筋が見えるようになったことが要因と考えられます。
- 組織文化の変革: 指示待ちの受け身な文化から、個々人が主体的に考え、発言し、行動する文化への変革が進みました。部門間のコミュニケーションも活性化し、組織全体としてよりオープンでダイナミックな雰囲気となりました。
取り組みが成功した要因分析
同社のWill/Can/Mustフレームワーク導入が成功した主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: 経営層が働き方改革、特に従業員の主体性醸成の重要性を認識し、率先してWill/Can/Mustを語り、全社にメッセージを発信し続けたことが、従業員の意識変革に大きく影響しました。
- マネージャーへの丁寧なサポートと育成: フレームワーク運用の要となるマネージャーに対し、体系的な研修と継続的なサポート(コーチング、ツールの提供、人事との連携体制)を行ったことが、施策の現場への浸透を確実にしました。
- 従業員への継続的なコミュニケーション: フレームワーク導入の目的、個々人にとってのメリット、具体的な進め方などを、ワークショップ、社内報、説明会、個別相談など、多様なチャネルを通じて繰り返し丁寧に伝え続けたことが、従業員の納得感と前向きな取り組み姿勢を引き出しました。
- Will実現の「場」の提供: Willを言語化するだけでなく、それを実際の仕事やプロジェクトで実現できる機会(社内公募、新規プロジェクト、配置転換など)を具体的に提供したことが、フレームワークの実効性を高めました。
- 評価制度との連携: 個人のWillやそれに基づくチャレンジを評価対象に含めたことで、従業員は安心して Will を追求し、主体的に行動できるようになりました。
今後の展望と継続的な取り組み
同社は、Will/Can/Mustフレームワークを単なる人事施策としてではなく、組織文化の根幹として定着させることを目指しています。今後は、フレームワークを新入社員研修にも組み込むことで、早期からの主体性醸成を図る予定です。また、定期的なサーベイや1on1の内容分析を通じて、フレームワークの運用状況や効果を継続的に測定し、必要に応じて柔軟に見直しを行っていく方針です。
さらに、個人のWillをより広範な社会課題解決やCSV(共通価値の創造)と結びつける機会を創出し、従業員が自身の仕事を通じて社会に貢献している実感を得られるような取り組みも検討しています。これにより、従業員のエンゲージメントをさらに高めるとともに、企業の社会的存在意義を強化していく考えです。
まとめ
株式会社WillGrowthパートナーズの事例は、Will/Can/Mustフレームワークの戦略的な導入と丁寧な運用によって、従業員の主体性とエンゲージメントを顕著に向上させ、結果として組織全体の生産性向上やイノベーション創出に繋がることを示しています。特に、経営層のリーダーシップ、マネージャーへの投資、そしてWillを実現するための具体的な機会提供が、この成功の鍵であったと言えるでしょう。
多様な働き方を推進し、従業員のポテンシャルを最大限に引き出したいと考える企業にとって、Will/Can/Mustフレームワークは、検討に値する強力なアプローチの一つとなるのではないでしょうか。自社の状況に合わせてこのフレームワークをどのように導入し、運用していくか、本事例が具体的なヒントとなれば幸いです。