株式会社ワークシフト:目標管理ツール導入と運用徹底で実現した従業員の自律性と生産性向上事例
働き方改革における目標管理の重要性
多様な働き方が浸透する中で、従業員一人ひとりの自律的な働き方を促進し、組織全体の生産性を維持・向上させることは、多くの企業にとって共通の課題となっています。特に、リモートワークやフレックスタイム制度といった柔軟な働き方が導入されると、従来の画一的な管理手法では対応しきれないケースが増えてきます。このような状況下において、従業員が自身の業務と組織目標の関連性を明確に理解し、自律的に目標達成に向けて行動できるよう促す「目標管理」の重要性が改めて認識されています。
本記事では、株式会社ワークシフトが、目標管理ツールの導入と徹底的な運用改革を通じて、従業員の自律性を高め、結果として生産性向上を実現した具体的な事例をご紹介します。同社の取り組みから、働き方改革における効果的な目標管理のあり方や、ツール活用のヒントを探ります。
株式会社ワークシフトの事例:目標管理ツール導入による自律性と生産性向上
導入の背景と目的
株式会社ワークシフトでは、数年前から段階的にリモートワーク制度を導入していましたが、制度の浸透に伴い、いくつかの課題が顕在化していました。
- 課題1:従業員の目標と会社目標の乖離
- 個人の目標設定が形骸化し、組織全体の戦略や目標との関連性が薄れている傾向が見られました。結果として、従業員が自身の業務の意義を感じにくくなる一因となっていました。
- 課題2:自律的な業務遂行の難しさ
- 上司による細かな進捗管理が難しくなった一方で、従業員自身が主体的に目標を設定し、進捗を管理・報告する能力にばらつきが見られました。
- 課題3:評価プロセスの非効率性
- 期末評価の際に、目標に対する客観的な進捗データが不足しており、評価者・被評価者双方に負担がかかっていました。
これらの課題を解決し、多様な働き方の下でも従業員一人ひとりが高いモチベーションを維持し、自律的に成果を創出できる組織文化を醸成することを目的に、目標管理システムの導入と運用改革が決定されました。
具体的な取り組み内容
株式会社ワークシフトが実施した主な取り組みは以下の通りです。
- 目標管理ツールの選定と導入
- クラウドベースで、組織階層に合わせた目標のブレークダウンが可能であること、目標の進捗状況がリアルタイムで可視化されること、1on1やフィードバック機能が搭載されていることなどを基準にツールを選定しました。操作性の高さや他ツール(人事システム、コミュニケーションツールなど)との連携可能性も重視されました。
- 目標設定プロセスの再設計と研修実施
- 単にツールを使うだけでなく、目標設定の考え方自体を見直しました。会社のミッション・ビジョンを起点に部門目標、チーム目標、個人目標へと落とし込むプロセスを明確化。SMART原則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に基づいた具体的な目標設定を促すための全従業員向け研修を実施しました。特に、リモート環境下での目標設定における留意点についても丁寧な説明が行われました。
- 定期的な1on1とフィードバック文化の醸成
- 目標管理ツールに搭載された1on1機能を活用し、上司と部下による定期的な面談を義務化しました。この面談では、目標の進捗確認だけでなく、業務における課題やキャリアに関する対話も行われます。目標達成に向けた軌道修正や、成長を促すための具体的なフィードバックを日常的に行う文化を醸成しました。
- 目標進捗の可視化と共有
- 目標管理ツール上で、個人やチームの目標、およびその進捗状況をリアルタイムで確認できるようにしました。これにより、従業員は自身の貢献度を把握しやすくなり、また、他チームの状況も参照することで、部門間の連携を促進する効果も生まれました。
- 人事評価プロセスへの連携
- 目標管理ツールに入力された目標と進捗データを、期末の人事評価の基礎情報として活用しました。これにより、評価の客観性が向上し、評価者・被評価者双方の納得度が高まりました。
導入プロセスと推進体制
導入プロセスは、人事部が中心となり、経営層、IT部門、各事業部門の代表者を含むプロジェクトチームを組成して進められました。
- 企画・選定フェーズ(3ヶ月): 課題分析、要件定義、複数ツールの比較検討、パイロット版での検証。
- 導入・設定フェーズ(2ヶ月): ツールの契約、システム設定、人事データ連携、目標構造の定義。
- 展開フェーズ(4ヶ月): 全従業員・管理職向け操作研修、目標設定ワークショップ、初期運用支援。
- 定着・改善フェーズ: 導入後の利用状況モニタリング、従業員アンケートによるフィードバック収集、運用ルールの見直し、管理職向けフォローアップ研修の実施。
特に、管理職への研修とフォローアップに重点が置かれました。目標管理ツールの操作だけでなく、「多様な働き方における部下の目標設定支援」「効果的な1on1の進め方」「フィードバックのスキル」といった内容を含む研修が繰り返し実施されました。
直面した課題と解決策
- 課題:従業員のツール利用率のばらつき
- 導入当初、一部の従業員や部署でツールの利用が定着しないという課題に直面しました。従来のExcelなどでの管理に慣れている、ツールの操作方法が分からない、目標設定の重要性を感じていない、といった声がありました。
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解決策:
- 経営層からの継続的なメッセージ発信:目標管理ツール活用が、会社全体の戦略達成や個人の成長にとって不可欠であることを繰り返し伝えました。
- eラーニングコンテンツの提供:ツールの操作方法や目標設定のポイントなどを解説する短時間のeラーニングを作成し、いつでも参照できるようにしました。
- 社内チャンピオンの育成:各部署にツール活用を率先して行う担当者(チャンピオン)を配置し、部署内の問い合わせ対応や利用促進を担ってもらいました。
- 利用状況のモニタリングと個別フォロー:ツールの利用状況を人事が定期的に確認し、利用率が低い部署や個人に対して個別に声かけやサポートを実施しました。
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課題:管理職のマネジメント負担増への懸念
- 目標管理ツールの運用や定期的な1on1の実施に対して、管理職から業務負担が増えることへの懸念の声が上がりました。
- 解決策:
- 管理職向け研修の強化:単なる操作説明ではなく、ツールを活用することでマネジメント業務(進捗管理、評価準備など)が効率化される側面を具体的に伝えました。また、1on1の時間を捻出するための工夫(会議の見直しなど)や、短時間でも効果的な1on1を行うためのスキル研修を実施しました。
- 役割の明確化:目標管理は「管理」のためだけでなく、部下の成長支援とエンゲージメント向上に資するものであることを繰り返し伝え、管理職の役割定義の一部として浸透を図りました。
導入による効果・成果
目標管理ツール導入と運用徹底の結果、以下のような効果が見られました。
- 従業員の自律性向上:
- 導入前後で実施した従業員意識調査において、「自身の業務が会社目標にどう貢献しているか理解している」と回答した従業員の割合が、導入前の65%から導入後1年で82%に増加しました。
- 目標設定の完了率がほぼ100%となり、期中の目標見直しや進捗更新も定期的に行われるようになりました。
- 生産性向上:
- 目標の明確化と進捗の可視化により、業務の優先順位付けがしやすくなり、無駄な作業が削減されました。これにより、組織全体の平均残業時間が導入後1年間で月平均5時間削減されました。
- プロジェクトの目標達成率に関するデータでも、導入前と比較して約10%の向上が見られました(特定の部署における試行データに基づく)。
- エンゲージメント向上:
- 定期的な1on1による上司とのコミュニケーション機会が増加し、キャリアや業務に関する相談がしやすくなったことで、従業員エンゲージメントスコアが導入後1年で5ポイント上昇しました。
- 人事評価に対する納得度も向上しました。
取り組みが成功した要因分析
株式会社ワークシフトの取り組みが成功した主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強いコミットメント: 経営トップが目標管理の重要性を繰り返し発信し、自らも率先してツールを活用する姿勢を示したことが、全社的な導入推進に大きく貢献しました。
- 「ツール導入」で終わらせない運用改革: ツールはあくまで手段と捉え、目標設定の考え方、1on1やフィードバックの文化といった運用面での改革に重点を置いたことが奏功しました。
- 管理職への手厚いサポート: 目標管理の中心的な役割を担う管理職に対し、ツール操作だけでなく、マネジメントスキル向上に繋がる研修や個別フォローを継続的に実施したことが、定着の鍵となりました。
- 継続的な改善活動: 導入後も利用状況や従業員の声を収集し、運用ルールの見直しや機能活用促進に繋げたことが、形骸化を防ぎました。
今後の展望
株式会社ワークシフトでは、今後も目標管理ツールを従業員の自律的な成長と組織パフォーマンス向上のための基盤として活用していく方針です。今後は、目標設定と評価の連動性をさらに高め、個人のキャリアパスやスキル開発とも紐づけることで、従業員一人ひとりの成長をより強力に支援していくことを目指しています。また、目標データを活用した組織課題の早期発見や、よりデータに基づいた人材配置・育成計画の策定にも取り組んでいく予定です。
まとめ
株式会社ワークシフトの事例は、目標管理ツールの導入が単なる業務効率化に留まらず、従業員の自律性を引き出し、多様な働き方の下での生産性向上やエンゲージメント向上に貢献することを示しています。特に、ツール導入と並行して、目標設定・運用に関する従業員・管理職への教育や、フィードバック文化の醸成といった運用改革を徹底したことが、成功の鍵となりました。
多様な働き方の推進に悩む人事担当者の皆様にとって、目標管理ツールの活用とそれに伴う組織文化・運用改革は、従業員の自律性を高め、組織全体のパフォーマンスを向上させる有効な手段の一つと言えるでしょう。自社の課題や目的に合わせ、ツール選定から運用定着までを計画的に進めることが重要です。